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研究会


国際島嶼教育研究センター第240回研究会


ミドリイシ属サンゴの生殖戦略について
北之坊誠也(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
2024年7月22日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

参加(会場・オンライン)には事前登録が必要です → 参加申込方法はこちら

[要旨]

サンゴ礁は海洋面積全体の0.2%を占めるにすぎないが、全海洋生物の約25%がそこに生息している。そのためサンゴ礁は、生物多様性の保全にとって極めて重要な生態系である。サンゴ礁を形成する造礁サンゴは、地球上に約5億年以上前から存在し、さまざまな気候変動に耐えながら生き延びてきた。造礁サンゴが生存し続けてきた理由は何であろうか? サンゴは進化の過程で頻繁に異種間交雑が起こったと考えられている。通常、異種との交雑は子孫を残すのが難しくなるため、不利だと考えられている。しかしながら、近年の実験室内での研究により、ミドリイシ属サンゴのうち約3分の1が異種のサンゴと受精できることが報告されている。このような交雑がなぜ維持されているのかは不明である。そこで、ミドリイシ属サンゴの異種間交雑に関する研究を進めるため、一斉産卵(卵と精子が混ざり合った状態)を再現し、どのような条件で異種のサンゴと受精が起きるか検証した。その結果、精子濃度が高いときは同種と受精し、精子濃度が低くなると同種精子が混在しているにも関わらず、交雑することが判明した。すなわち野外でのサンゴの生息数が減少すると、産卵時に海中に放出される精子の数が減少する可能性が考えられる。その場合、異種のサンゴとの受精が可能となり、子孫を残すことができるというわけである。これが、サンゴが長い間生き延びてきた理由の一つであるかもしれない。

図1. 2024奄美大島での野外サンゴ産卵の様子

図2. 網状進化仮説の模式図(Veron 1995)


国際島嶼教育研究センター第239回研究会


ある島人の日露戦争体験-大納宮継『征露日記』を中心に-
平井一臣(鹿児島大学法文学部客員教授)
2024年6月24日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

2021年、沖永良部島の住民・大納宮継(おおの みやつぐ)が書き残した『征露日記』の所在が明らかにされました。宮継のひ孫にあたる大納忠人(ただひと)氏により知名町立図書館に寄贈されたものです。1904年(明治37年)2月5日から始まる日記には、中断をはさみながら、翌年6月10日までの記載があります。

日露戦争に従軍した将兵の日記類は、私家版も含めるとかなりの数が確認できると言われています。また、日記を素材にした研究もすでにいくつか発表されています。大納日記は、そうした日露戦争時の日記類の一つですが、少なくとも以下のような特徴があると言えます。

①離島からの出征者の従軍経験が記されており、とくに沖永良部島を出発するまでの送迎の様子と奄美の島々を寄港し鹿児島市の第45聯隊入隊までの様子、さらに鹿児島から門司への移動について、興味深い記載がなされています。

②上陸した朝鮮半島での見聞(とくに釜山と仁川)や駐留地である元山での状況についての記載があります。日露戦争関連の日記類の多くは、主作戦地とされた満洲方面への出征者のものです。朝鮮半島の東側に位置する元山方面についての記録は貴重なものと言えます。

③病気による除隊とその後の経緯についての記載があり、軍事救護問題を考察する手掛かりを提供するものでもあります。



国際島嶼教育研究センター第238回研究会


鹿児島県南西諸島在来カンキツ類の機能性探索
坂尾こず枝(鹿児島大学農学部)
2024年4月22日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

鹿児島県の南西諸島には、特定の地域でのみ栽培されているカンキツ類がある。これらのカンキツ類の多くは南西諸島特有のものであり、特徴的な機能性成分を含有している可能性がある。例えば、沖縄県で有名なシークワーサーは、ダイエット効果で知られるポリメトキシフラボノイドを豊富に含み、商業的に利用されている。つまり、これらのカンキツ類の極めてユニークな成分や生理活性を解明することは、南西諸島在来のカンキツ類に新たな価値を生み出し、利用促進に繋がることが期待される。

これまで発表者の研究グループは、南西諸島在来カンキツ類について、抗酸化作用、美白作用、がん予防作用などの生理活性を調べてきた。本発表では、これらの成果の概要を紹介するとともに、特に抗肥満作用と血糖値上昇抑制作用に焦点を当てた研究結果を提示する。

α-グルコシダーゼ阻害活性およびリパーゼ阻害活性の評価による血糖値上昇抑制効果および抗肥満効果の検証では、喜界ミカンおよびクネンボに高い酵素阻害活性が認められた。また、喜界ミカンとクネンボはカイコの糖尿病モデル実験においても顕著な効果を示した。実験の結果、特に喜界ミカンにはインスリンと同様の血糖降下作用があり、脂肪体内のグルコースも増加させることが確認された。今後、より詳細な機能性成分の分析を行い、モデルマウスを用いて抗肥満・抗糖尿病効果を検証する。



国際島嶼教育研究センター第237回研究会


自然と調和した可能性のある島(?)先史時代の奄美・沖縄諸島
髙宮広土(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
2024年3月18日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

「先史時代」とはヒトは存在するが文字のない時代のことを言う。すなわち、厳密に言えば、歴史時代とは文字を伴う時代のことである。さて、奄美・沖縄諸島の先史時代は一般的に旧石器時代(3万年前〜1万年前)、貝塚時代(1万年前?〜1000年前)およびグスク時代(11世紀後半〜15世紀)から構成されている。この地域の先史時代を世界的なレベルで他の島々と比較すると他地域の島々の先史時代には存在しない大変珍しい文化現象がいくつかあったことが最近の研究で示唆されている。今回の発表ではそのうちの一つである「自然と調和した可能性のある島(?)」について紹介したい。

島嶼環境を研究する研究者の島の環境に関する意見は「島の環境は大変脆弱である」ということである。この点は現代だけではなく、過去にも当てはまる。島が成立してそこに植物や動物が植民し、何万年あるいは何千万年という長い時を経て、バランスの取れた環境が創造される。そこに新しい種が植民すると島の環境は最も簡単にそのバランスが崩れると考えられている。その「新しい種」で最も島嶼環境に影響を与える生物がヒトである。ヒト1種がバランスと取れた環境に植民するだけで、彼・彼女らは森林資源および生息する動植物を利用する。これらの行動が引き金となり、島嶼環境は激変する。

世界の島の先史学から提言されている「定説に近い仮説」は「ヒトが島嶼環境に適応すると島の環境は劣悪化あるいは環境破壊が起こる」というものである。オセアニアの島々、カリブ海の島々および地中海の島々では、ヒトが島に出現すると森林破壊や土砂崩れが報告され、さらに多くの動物が絶滅したことが確認されている。

奄美・沖縄諸島でもヒトの植民後、おそらく環境破壊あるいは劣悪化が起こったと考えられ、先史時代におけるヒトと島嶼環境について考察した。しかし、奄美・沖縄諸島先史時代においては、上記の「定説に近い仮説」は当てはまらないかもしれない。先史学的・考古学的調査のなされた島において、このような島は世界に他に存在しないかもしれない。



国際島嶼教育研究センター第236回研究会


大日本帝国期の建築物の現在から見る歴史認識~沖縄と台湾を事例に
上水流久彦(県立広島大学地域基盤研究機構)
2024年1月22日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

世界遺産や日本遺産など、たくさんの建築物が遺産に認定されています。そして、遺産の認定は、政府の方針、国民感情、建築学や歴史学の専門家の意見のもと決定され、歴史認識や国家アイデンティティをめぐる争いの場となります。例えば、朝鮮総督府だった建物は壊されていますが、台湾総督府だった建物は現在も中華民国総統府として使用されています。今回の発表では、建築物の現在を紹介して、台湾や沖縄の歴史認識を考えてみたいと思います。

発表者は大日本帝国の建築物の現在を5つに分類しました。それは、外部化(破壊や放置)、内外化(負の歴史として自らの歴史の一部として遺産化)、内部化(一種肯定的に遺産化)、溶解化(日本統治の過去を忘却し利活用)、遊具化(日本的要素を強調して観光地化)の5つです。現在の台湾では、植民地支配の記憶を継承するという側面がかなり希薄になり、むしろ観光施設として利用されるようになっています。那覇では十十空襲によって記憶を喚起する帝国期の建築物はなく、沖縄戦の悲惨な歴史が強調されています。忘却させられた近代とも言えます。それに対して、沖縄県の周辺部では、建築物が残る地域では、地域の近代化を物語る道具として活用されています。




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