1. 多島圏研究センター施設公開
講演者と演題ならびに要旨:
・柄木田 康之(宇都宮大学国際学部、元南太平洋海域研究センター)
島嶼をつなぐライフ・ヒストリーと親族ネットワーク
―ヤップ州離島の近代への適応戦略―
・早瀬晋三(大阪市立大学大学院文学研究科、元本学教養部)
海域東南アジア東部の歴史地理的世界
―マレー世界と太平洋世界を結ぶ世界―
[要旨]わが国九州と台湾の海洋上に散在する島々のうち、その中央部に位置するのが奄美諸島である。北には、波荒きトカラ海峡を境に喜界島、順次南へ奄美大島・徳之島・沖永良部島と連なり、沖縄本島とは指呼の間に与論島がある。これらの島々を被覆した歴史の流れは、悲惨というべきで、1609年の薩摩藩・島津氏の琉球征伐により、奄美諸島は、島津氏の直轄地になり、それまでの琉球王府から分離されたのであり、このことは1868年の明治維新において、決定的な影響を与えた。琉球王府関係と比較し、奄美諸島は、なんの配慮もなされずに日本化が実施され、それは様々な矛盾を生んだ。奄美諸島の人々の考え方と行動を事例に即し考えてみたい。
[要旨]
ハブ毒のホスホリパーゼA2(PLA2)アイソザイムは、それぞれが特有の生理活性をもっていた。これらの遺伝子は4個のエクソンと3個のイントロンよりなる。遺伝子は非翻訳領域より成熟タンパク質領域において変異(塩基置換)が多いことなど、通常(中立)遺伝子とは逆の性質をもっていた。遺伝子対について各領域の座位あたりの塩基置換数を計算すると、これらの遺伝子が加速進化してきたことを示した。中立遺伝子との比較から、PLA2アイソザイム遺伝子はエキソンが加速的に進化してきたものであった。これらの多様な生理機能は加速進化により獲得されたものと考えられた。ほかのヘビアイソザイム遺伝子も加速進化をしてきたことがわかり、加速進化はヘビ毒腺アイソザイム系に普遍的である。
奄美大島、徳之島、沖縄のハブは100-200万年間孤立してきた。沖縄ハブ毒のみ筋壊死活性が強いPLA2アイソザイム2種が偽遺伝子となり発現していなかった。沖縄ハブは、その食性(ホルストガエル)から強い毒性を必要とせず、活性が強い遺伝子を適応的に不活性化したものと考えられる。
[要旨] ミクロネシアの芸術は、周辺状況との関連を密にしながら、また、象徴的な形を取りながらその意味するところを伝える。今回の発表では、体の装飾、建築、彫刻、織物といったミクロネシアの芸術の幾つかの実例を検討し、これら芸術の文化的意義を“読む”方法を示唆したい。発表では、ミクロネシアの芸術の解釈への二つの接近方法を解説する。その一つは、儀礼的な意味合いと特定の芸術の機能が対象への価値をどのように告げるかについての考察にかかわるものである。第二の接近法として、デザインと形式それ自身の象徴的または構造的解析を提示するが、デザインは、空間的また社会的関係の文化的な言語の部分として“読解”されるかも知れないというふうに示唆する。
[要旨]
海産巻貝であるチヂミボラ類は主に北方域の岩礁域潮間帯に生息し、固着性の二枚貝やフジツボを摂餌する捕食者です。北大西洋に分布するヨーロッパチヂミボラにおいては室内実験の結果から餌サイズの選択性は最適摂餌戦略で説明され、サイズの大きなものが理論上最適な餌であることが示されています。しかし、実際の生息環境においては室内とは異なる多くの環境要因(波当たり、乾燥、捕食者、etc)を考慮しなくてはいけません。今回の発表ではこれまでに報告されているチヂミボラ類の餌選択性について簡単に説明した後、日本に生息するチヂミボラの餌選択性について報告します。この実験では野外と室内における餌種と餌サイズ選択性の季節変化を観察しました。最後に環境要因がどの様に影響するかについて考察を行います。
[要旨]
エイズの原因であるヒト免疫不全ウイル(HIV)が発見されて以来、その感染・増殖機構に関する研究は飛躍的に進歩し、抗HIV活性を示す逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤が開発され、それらを併用するhighly active anti-retroviral therapy (HAART) により患者の QOL は向上した。しかしながら、これらの薬剤ではウイルスを完全に排除することは不可能であり、薬剤耐性ウイルスの出現や治療コストも問題となっており、新規の作用機序を持つ薬剤の開発が切望されている。HIV増殖過程の最初の段階、すなわち細胞表面への吸着には宿主細胞上の CD4分子がそのレセプターとなることが知られていたが、近年、CXCR4 や CCR5 などケモカインレセプターがコレセプターとして作用することが明らかにされた。我々は、カブトガニの血液細胞に含まれる抗微生物ポリペプチドであるポリフェムシン・をリード化合物とした、T22 やT134、T140 という抗HIVポリペプチドを合成し、CXCR4 アンタゴニストとして作用することを見いだした。その他にもバイサイクラム AMD3100 やD型アルギニンのポリマーALX40-4C などの低分子化合物が CXCR4に作用して HIV感染を阻止することが報告されている。これらの低分子物質は、HIV感染のコレセプターをターゲットとした新規エイズ治療薬の有力な候補として考えられている。ここでは、エイズ治療薬開発の現状として、現在使用されている抗HIV薬の有効性と問題点をあげ、新しい作用機序を持つ抗HIV物質の可能性について述べてみる。また、マングローブ抽出多糖体や植物ポリフェノールの抗HIV作用や抗酸化作用に関する研究成果も報告し、天然物由来の薬理活性物質の可能性についても述べてみる。