×
島嶼研について スタッフ プロジェクト 教育コース 研究会・集会 出版物 データベース 奄美分室 English

2025年 研究会


国際島嶼教育研究センター第250回研究会

奄美群島における水産業の現状と課題

宍道弘敏(鹿児島県水産技術開発センター)

2025年7月14日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

参加(会場・オンライン)には事前登録が必要です → 参加申込方法はこちら

[要旨]

奄美群島は日本の南西部に位置する、亜熱帯海洋性気候に属する島嶼群である。各島の周囲は珊瑚礁に囲まれ、その沖合には天然の瀬礁が数多く存在し、北西沖を流れる黒潮の恵みを受ける海域特性も相まって、古くから漁船漁業が発達してきた。主たる漁業種類は一本釣り、延縄、追込網、潜水漁業等である。また平穏な内湾域では魚類・貝類・藻類養殖も盛んである。

しかし、奄美群島における漁船漁業による2023年の漁業生産量は1,608トンで、25年前(1998年)に比べ61%減少している。これは、同時期の全国の漁業生産量の減少(45%)より大きい。

この背景には、奄美群島の地理的条件不利性、国際情勢の変化にともなう燃油や漁業用資材類の高騰、魚価の低迷、気候変動にともなう海洋環境や漁業資源の変化などが考えられる。これらの要素が複雑に作用し、漁業者の収益性低下や漁業従事者の減少に繋がっていると考えられる。

これに対し鹿児島県では、奄美群島の水産業振興施策として、資源管理の高度化、水産資源の持続的利用の推進、漁場や藻場の整備、水産物の流通・加工・販売対策、魚食普及、担い手の確保・育成、漁村の活性化などに取り組んでいる。

図1.漁業者による魚食普及活動の様子

図2.藻場の回復を阻害する植食性魚類の例(イスズミ)

図3.植食性魚類による食害を防ぎ藻場回復に成功した例(2023年瀬戸内町白浜地先679㎡:黄色枠内)


国際島嶼教育研究センター第249回研究会

東南アジア海民にみる共生の技法 ―遊動海民バジャウを中心に―

長津一史(東洋大学社会学部)

2025年6月23日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

東南アジア研究では、海を媒介として密接に関係しあう東南アジアの島嶼世界を東南アジア海域世界と呼ぶ。その範囲には、東南アジアの島嶼部と、南シナ海からシャム湾、アンダマン海までの大陸部沿岸域が含まれる。こうした東南アジア海域世界をかたちづくってきた主役のひとつが海民――海と深く関わる生活を営んできた集団――である。海民は海をわたる移動と移住を通じて島じまを結びつけ、この海域に独自の歴史地理空間を生成させてきた。この研究会では、そうした海民のうちバジャウ人に特に着目する。バジャウ人の一部は、かつて船上生活を営んでいたことで知られる。いまも多くの人びとが沿岸や浅瀬の杭上家屋(海上家屋)に住む。人口は約100万人。居住地はフィリピン、マレーシア、インドネシアの三か国に拡散する。かれらの生活は、①移動性の高さ、②商業志向の強さ、③ネットワークの重要さの3点で特徴づけられる。研究会では、こうした特徴を持つかれらの生き様を手がかりに、東南アジア海域世界に育まれた共生の技法を紹介してみたい。


国際島嶼教育研究センター第248回研究会

地域とのつながりと幸福度の関係について ―奄美市幸福度調査より―

馬場 武(鹿児島大学法文学部)

2025年5月19日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

これまでの幸福度に関する研究では、調査対象者の属性によって主観的幸福度の認識に違いがあることが明らかになっている。例えば、高い幸福感を実感する属性は、女性や若年層、高収入や高学歴、配偶者や子どものいる人などであることがわかっている。また、近年では、住民と地域社会とのつながりや住民の地域政策への評価が、住民の幸福実感に影響を与える可能性も示唆されている。

奄美市では、長期的な政策の方向性として「しあわせの島」を掲げている。そして、奄美市民の幸福実感について継続的に調査し、モニタリングしている。本研究は、奄美市の幸福度調査のデータをもとに、地域住民の認識する地域社会とのつながりの特徴から住民像を明らかにし、それら住民像別の主観的幸福度の違いについて分析する。

分析の結果、奄美市民は地域社会とのつながりの認識の特徴別に五つのグループに分類されることがわかった。また、地域社会とのつながりの実感が強い住民像ほど主観的幸福度は高い。

つまり、地域住民と地域社会とのつながりをデザインすることで、地域住民の幸福度が向上する可能性がある。また、幸福度を指標とした政策や施策を立案する際に、住民像が明確になることで、政策立案の根拠が強化され、より良い政策評価の効果測定が可能となると考えられる。


国際島嶼教育研究センター第247回研究会

民謡研究家・久保けんおの仕事について

梁川英俊(鹿児島大学法文学部)

2025年4月21日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

久保けんおは、1940年代から民謡採集を行い、『南日本民謡曲集』『南日本わらべうた風土記』等の著作により南九州の音楽文化に大きな貢献を残した在野の民謡研究家である。その活動は詩人、劇作家、教育者、作曲家、編曲家、音楽史家と多岐にわたる。

発表者は2020年以来、作曲家の原田敬子氏(東京音楽大学)とともに、喜界町中央公民館に保管されている久保の未発表資料集を調査・研究し、その成果を2024年3月に刊行された鹿児島大学島嶼研ブックレットNo.24『南日本の民謡を追って―久保けんおの仕事』にまとめた。また、昨年および一昨年の鹿児島大学法文学部附属「鹿児島の近現代」教育研究センターのプロジェクトの一環として、長年鹿児島県立図書館に保管されていた久保の録音資料の一部をデジタル化した。本発表では、以上のような調査によって見えてきた久保の活動の一端を紹介する。


国際島嶼教育研究センター第246回研究会

鹿児島県島嶼の野生ユリ

宮本旬子(鹿児島大学大学院理工学研究科)

橋口浩志(鹿児島大学大学院農林水産学研究科)

2025年3月10日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

ユリ科ユリ属は世界に約115種あり、日本産の種は、クルマユリ、ヒメユリ、スカシユリ、エゾスカシユリ、ヤマユリ、カノコユリ、オニユリ、コオニユリ、ノヒメユリ、ササユリ、ヒメサユリ、ウケユリ、タモトユリ、テッポウユリ、およびタケシマユリであるとされている。鹿児島県内では、ヤマユリ、カノコユリ、オニユリ、コオニユリ、ノヒメユリ、ウケユリ、タモトユリ、テッポウユリ、タカサゴユリおよびシンテッポウユリ等の栽培品種の採取記録がある。ヤマユリやシンテッポウユリ等は栽培下からの逸出と考えられ、タカサゴユリは台湾産の外来種である。タモトユリは口之島固有、ウケユリは奄美大島~徳之島固有、狭義カノコユリは甑島を含む九州固有で、環境省や鹿児島県のレッドデータブックに掲載されていて保護対象となっている。前半では、宮本が、主に1990年代より実施してきた、タモトユリ、ウケユリ、カノコユリ、およびタカサゴユリ等の生育地調査と遺伝的解析の概要を紹介する。後半では、橋口が、甑島列島および九州島南西部に自生するカノコユリ個体群についての最新の知見を紹介する。


国際島嶼教育研究センター第245回研究会

多様な歴史資料から考える沖永良部の近現代

伴野文亮(鹿児島大学法文学部附属「鹿児島の近現代」教育研究センター)

2025年1月20日(月)16時30分 鹿児島大学 郡元キャンパス 総合教育研究棟5階

[要旨]

本報告は、沖永良部島の近現代史の叙述について、多様な歴史資料を分析対象とすることで提示しうる新たな枠組みの可能性を試論するものである。

沖永良部島における歴史研究をめぐっては、近年各方面で新たな展開が隆起している。例えば、和泊町では町制施行80周年記念事業として2021(令和3)年度から新しい町誌を作るための「和泊町の歩み編さん事業」が始まり、2024(令和6)年5月に『和泊町の歩み』が刊行された。また、知名町でも町制施行80周年を記念する事業の一環として2024年度から新町誌編纂事業がスタートし、2026(令和8)年度までに新町誌が制作される予定である。知名町ではさらに、鹿児島大学法文学部附属「鹿児島の近現代」教育研究センターと連携して、故弓削政己氏が遺した膨大な文献資料を今後数年間かけて整理・公開していく計画が進行中である。このほかにも、沖永良部島出身者が日露戦争に従軍した際に認めた日記を分析した平井一臣氏による研究など、同島の歴史研究は活況を呈している。

以上のように、近年の沖永良部において歴史研究が進展しているさなかにあって、今後どの様な点に留意して同島の歴史研究、とりわけ近現代史像の深化を試みていくべきか。本報告では、同島に遺る多様な歴史資料を分析対象とすることでうかがえる、沖永良部の近現代史像をより豊かに掘り起こす可能性を考えてみたい。