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平成27年度薩南諸島の生物多様性研究成果合同発表会
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日時:2016年4月24日(日)13時〜15時半
場所:総合教育研究棟5階会議室


平成27年度薩南諸島の生物多様性研究成果合同発表会

  文部科学省特別経費「薩南諸島の生物多様性とその保全に関する教育研究拠点形成」、鹿児島大学重点領域研究(環境)「奄美群島における生態系保全研究の推進」、科研費(A)「亜熱帯生態系における水陸境界域の生物多様性保全の研究」によって奄美群島を中心として、約40名の教員が昨年度に研究を進めてきました。主な成果の発表会を以下のように行います。どなたも聴講できますので、是非ご参加ください。


講演(1)
「奄美群島の無脊椎動物の多様性〜共生・寄生生物を中心に〜」
  上野大輔(鹿児島大学大学院理工学研究科)

  琉球列島は、国内でも特に生物多様性の高い場所として知られる。奄美群島は琉球列島の中部に位置し、海洋には温帯域と熱帯域に分布する生物が同所的に生息する珍しい海域でもある。海洋に生息する魚類の種多様性に関しては、これまで鹿児島大学総合研究博物館を始め、各地の研究機関等による調査が実施され、多くの種が生息していることが明らかとなりつつある。その一方で、主に底生生物や共生生物として出現する様々な海産無脊椎動物の種多様性については、貝類や一部の甲殻類などを除いて、どのような種が分布しているのか正しく把握されていない状況にある。発表者はこれまで、海洋環境において他の動植物に共生あるいは寄生する動物の存在が、生物多様性を議論する上で大事な要素であることに注目し、様々な海域において共生および寄生動物の種多様性や生態の解明を行ってきた。昨年度には、奄美大島、加計呂麻島、喜界島、徳之島、与論島の沿岸海域に分布する無脊椎動物相と、さらにそれらに共生および寄生する動物相についての調査を実施したところ様々な種が発見され、またそれらの多くはこれまで分布が知られていない未記録の種であった。本講演では、調査を通じて発見された様々な種についての紹介を行う。


講演(2)
「奄美大島沿岸浅海域における内湾性イシサンゴ群集の観察報告」
  藤井琢磨(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)

  イシサンゴ目は刺胞動物門花虫綱六放サンゴ亜綱に属する海洋無脊椎動物であり、花虫綱において炭酸カルシウムの骨格を形成する唯一の目である。本目は、深海から潮間帯まで、温暖な海域を中心に幅広い海洋底性環境に分布しており、その骨格が作り出す立体構造は他生物の新たな生息場所となることも多い。本目に属する多くの種が体内に藻類を共生させている(有藻性イシサンゴ)。この共生藻が創出する光合成産物は温暖な海域における基礎生産の大部分を担う。一方、光の届かない深海底や固着基盤の少ない内湾環境に特異的に生息する種の存在も少なからず知られている。これら深海や内湾砂泥底に生息するイシサンゴ類に関する研究例は多くなく、また乾燥骨格標本のみを元に報告が行われることが多いため、生態学的知見は十分には得られていない。
  奄美大島は琉球列島の中央、黒潮の影響を強く受ける、温暖な海域に位置する。高い海洋生物多様性が予測されるものの、過去に奄美大島周辺海域においてイシサンゴ目における網羅的な多様性調査が行われた記録は無い。奄美大島沿岸は複雑に切れ込んだリアス式海岸が発達しており、多くの内湾環境が存在している。内湾環境は、外洋に発達する典型的な高透明度のサンゴ礁環境と比べ、水の入れ替わりが遅く懸濁物による濁りの強い海域が多い。陸水の流入による影響や護岸、埋め立てなど、人為的攪乱を受けやすい脆弱な環境である。奄美大島沿岸の海洋生態系を大きく特徴づける内湾環境において、イシサンゴ目の生態解明は急を要する課題である。
  今回、演者が2015年度内に奄美大島沿岸内湾の浅海域にて行った六放サンゴ亜綱3目の調査のうち(イシサンゴ目、イソギンチャク目、スナギンチャク目)、内湾性イシサンゴ類に関して得られた新知見について報告を行う。調査は2015年4月12日から2016年3月29日にかけて、素潜りおよびスキューバ潜水によって行った。計67回の潜水によって、奄美大島北部の奄美市笠利沿岸および奄美大島と加計呂麻島の間に位置する大島海況を中心に、延べ34か所での定性調査を行った。その結果、奄美大島北部の水深10から20mの浅場に広がるセンベイサンゴ属複数種混合大規模群集や、大島海峡および加計呂麻島南岸の水深5m以深の砂泥底上に存在する自由生活性イシサンゴ群集など、過去に報告例の少ない稀有な内湾性イシサンゴ群集の存在が確認された。特に自由生活性イシサンゴ群集においては、ナガジクセンスガイの浅海における生息場所が発見され、新たな生態学的知見が得られた。本報告では、自由生活性イシサンゴ類の砂泥底への適応に関して、観察結果を踏まえて考察を行い、今後の調査における課題を議論する。


講演(3)
「 mtDNAのCOI領域の遺伝的変異の分析に基づくウスカワマイマイの島嶼個体群間の変異と国内外来種として見た本種の特徴」
  今村隼人1・中山弘幸1・市川志野1・内田里那1・松元綾子1
  氏家由利香2・浅見崇比呂2・冨山清升1
  (1鹿児島大学理学部地球環境科学科、2信州大学理学部生物学科)

  陸産貝類(デンデンムシやナメクジ)の中で農作物被害を与える害虫として知られる種のほとんどが国外外来種であり、アフリカマイマイやチャコウラナメクジ等が代表的である。ウスカワマイマイは、日本固有種の中で、唯一例外的に農業害虫として認識されている。ちなみに鹿児島県では、大隅諸島固有種のヘソカドケマイマイが屋久島や口永良部島では野菜を食害する害虫として、地元では認識されているが、これは局所的な現象である。
  ウスカワマイマイの本来の生息地は、河川敷や草原などであり、元々は、林縁部や河川敷等の攪乱地環境に生息する種であった。攪乱地を好むという本種の生態型が、本種が畑地で繁殖する害虫となった要因であろう。ウスカワマイマイは、作物や苗に付着した移動によって、全国的に広がっており、国内外来種しての側面も持っている。
  ウスカワマイマイの原名亜種は、オキナワウスカワマイマイであり、本亜種は沖縄から記載され、奄美群島以南に分布するとされている。ウスカワマイマイの亜種には、本土に分布するウスカワマイマイ、大隅諸島〜鹿児島県南部に分布するとされているオオスミウスカワマイマイ、喜界島から記載され、奄美群島に分布するとされているキカイウスカワマイマイ、の計4亜種が記載されている。4亜種は、正確には、殼の形態が連続的で区別できない。オキナワウスカワマイマイは、他の亜種に比べ「殼が厚い」とされているが、琉球石灰岩地帯に生息するため、Ca沈着によって殼が厚くなっているだけの可能性が高い。
  今回、このようなウスカワマイマイの分類学的な位置関係を確認するために、各地のウスカワマイマイを用いて、mtDNAのCOI領域の塩基配列を求め、各島嶼の個体群間の類縁関係の分析を行った。塩基配列の類似度を元に、最尤法を用いて、各個体群のグループ分けと系統解析を行った。結果、まず、4亜種とされている複数個体群が、それぞれの亜種でまとまったクラスターは形成されなかった。与論島個体群(オキナワウスカワマイマイ)と種子島個体群(オオスミウスカワマイマイ)が極めて近縁、西表島・沖永良部島(オキナワウスカワマイマイ)と宝島(キカイウスカワマイマイ)が極めて近縁で区別出来ない、薩摩川内市(ウスカワマイマイ)と姶良市(ウスカワマイマイ)がかなり遠い系統関係にある、等々、従来認められていた亜種分布とはまったく矛盾する結果となった。個体群間の系統関係は、まちまちであり、いくつかの亜種に分けることは不能であることがわかった。すなわち、遺伝子レベルではウスカワマイマイに属する4亜種を系統分類学的に認知することができない。
  ウスカワマイマイは国内外来種としての側面もあるため、移動が頻繁に行われ、全国各地で混じり合っている可能性が高い。4亜種が記載された19世紀末から20世紀初頭には分かれていたという仮説も提示可能だが、mtDNAの分析は、それにも否定的な結果となっている。現在、従来の分類では「区別できる」とされてきた殼形態の比較を研究継続中である。また、今後は、国内外来種としての側面からもウスカワマイマイの研究を継続したい。さらに、ミトコンドリアDNAのネットワーク解析により、移動分散の地理的パターンを推定する作業に着手したい。



講演(4)
「奄美大島における林道交通量とアマミノクロウサギへの影響」
  藤田志歩1・鈴木真理子21鹿児島大学共同獣医学部、2鹿児島大学
  国際島嶼教育研究センター)
  
  奄美群島では、近年、群島外から群島内各島への入域客数が増加している。とくに、格安航空会社の奄美大島への通年運航により、関東からの入域客数は前年比で2年連続30%を越えている。このような観光客の増加は地域経済への効果が期待される一方で、自然環境の適切な利用や保全管理が本地域の世界自然遺産登録を目指す上でも重要な課題とされている。奄美大島では、ガイド付きで自然観察を行うエコツーリズムの開発が進められているが、中でも夜間林道に出現するアマミノクロウサギを車から観察するナイトツアーは人気のコースである。そこで本研究は、奄美大島スタルマタ林道における交通量がアマミノクロウサギの生態に与える影響について明らかにすることを目的とした。調査は2015年7月から12月までスタルマタ林道において実施した。約1kmの調査区間において、カメラトラップおよび糞センサスにより、アマミノクロウサギの林道の利用実態を調べた。また、糞センサスと同時に新鮮便を採取し、生理的ストレス指標として糞便中コルチゾル濃度を測定した。採集した糞便試料はDNA解析により個体判別を行った。さらに、林道には交通量カウンターが設置されており、交通量とアマミノクロウサギの林道への出没頻度およびコルチゾル濃度との関連について調べた。その結果、カメラトラップの撮影頻度および林道上の糞数はいずれも10月から12月にかけて増加した。また、DNA解析により、林道の場所によって同一の複数個体が行動域を重複させて利用していることが分かり、さらに、秋から冬にかけてはあらたに出現する個体が確認された。しかしながら、アマミノクロウサギの林道への出現頻度および利用時間帯と交通量との間に関連はみとめられなかった。また、継続してサンプルが採取できた個体についてコルチゾル濃度の変動をみてみると、散発的な上昇はあったものの、季節変化や交通量との関連はみとめられなかった。以上より、現状において、ナイトツアーをはじめとする交通量の増加がアマミノクロウサギへ及ぼす明らかな影響はみとめられなかった。一方で、比較のため同様の調査を行った、夜間交通量の全くない農道では、出現個体のコルチゾル濃度はスタルマタ林道の個体に比べて低い傾向があったことから、人間活動の影響については今後注意が必要である。また、本研究に用いた調査手法は、直接観察が困難な動物の生態についての解明や、人間活動の影響をモニタリングする上で有効であることが確かめられた。



講演(5)
「奄美群島在来カンキツの特性と多様性」
  山本雅史(鹿児島大学農学部)
  
  奄美群島に自生していたカンキツ類はシィクワーサーであり、タチバナが存在した可能性もある。現在では在来カンキツとされているその他の種・系統は、中国や東南アジア等との交易によって導入されたものや、それら同士、それらとシィクワーサーとの偶発実生として発生したものと推定されている。自生種のシィクワーサーと導入種のクネンボが、様々なマンダリン(ミカン)類の発生に多大の関与をしたようである。また、ダイダイの影響が認められる在来カンキツも存在する。
  シィクワーサーはトカラ列島以南の南西諸島に広く分布している。主に実生繁殖されてきたため、多胚性ではあるものの雑種が多数発生し、種内での大きな多様性が認められる。従って、シィクワーサーは多様な品種・系統群の総称と考えるべきである。シィクワーサー果実には健康増進・維持に有効な機能性成分が含まれており、需要が多い。前述の通り、シィクワーサーは系統間における果実特性等の多様性が高く、利用の面からも各系統の特性を明らかにする必要がある。そのため、DNA分析による系統識別・同定、多様性の解明は極めて重要であり、演者はこれらに関する研究を進めてきた。しかし、これらの研究においては主に沖縄のシィクワーサーを供試しており、奄美群島在来シィクワーサーについては供試点数が十分でなかった。本研究においては、奄美群島に分布する5島の在来シィクワーサーを供試して、結果の信頼性が高いCAPS(cleaved amplified polymorphic sequence)法によって葉緑体DNA分析を実施し、その多様性について検討した。
  その結果、供試系統は3タイプに区別できた。このうちタイプ3は対照のシィクワーサー以外のマンダリンで確認されたのみであり、奄美群島在来シィクワーサーではタイプ1および2が確認できた。沖縄在来シィクワーサーでもタイプ1および2が出現した。シィクワーサー以外ではタチバナがタイプ1、スンキとクレオパトラがタイプ2であった。
  従前の研究においては、沖縄在来シィクワーサーではタイプ1および2の存在を確認したが、奄美群島在来シィクワーサーではタイプ2しか認めることができなかった。このため、奄美群島在来シィクワーサーの多様性が沖縄在来シィクワーサーよりも低い可能性を推察した。しかし、本研究の結果、奄美大島および与論島の各1系統はタイプ1であり、奄美群島在来シィクワーサーにおいても沖縄在来シィクワーサーと同様の葉緑体DNAの多型の存在を確認することができた。



講演(6)
「奄美群島の野生植物の遺伝的特性および外来種の定着傾向について」
  宮本旬子1・留守由希子2・落合未久2・濱田真吾2
  (1鹿児島大学大学院理工学研究科、鹿児島大学理学部)
  
  奄美群島において生物地理学的あるいは系統分類学的に議論がある植物についてDNAレベルの遺伝的変異の解析を試みた。また外来植物の定着傾向を調査した。

1. リンドウ科リンドウの遺伝的変異の解析
  奄美大島でリンドウGentiana scabra Bunge var. buergeri Maxim. 4集団29個体の生育を確認した。合法的に採取可能な場所において14個体から葉の一部を採取し、全ゲノムDNAを抽出してマイクロサテライト間介在配列Inter Simple Sequence Repeat(ISSR)領域の多型解析を行った。その結果、島内に二つの遺伝的なグループが存在すること,一方のグループには栽培品種と遺伝的類似性が高い個体が含まれていることが示唆された。奄美大島の個体群をアマミリンドウG. scabra var. amamian, var.nov.としている文献もあるが、系統学的分類学的位置を明確にするには九州本土以北などのリンドウ集団や園芸品種等とのさらなる比較解析が必要である。なお本研究の成果の一部を日本植物学会第79回大会(2016年9月新潟市)において発表した。

2. タコノキ科アダンの系統解析
  奄美大島産アダンPandanus odoratissimus L. fil.=P. tectorius Sol. var. liukiuensis Warb.およびトゲナシアダンP. tectorius Sol. var. laevis Warb.について、過去に採取し鹿児島大学内に保管してあった同種および近縁分類郡のDNA試料を加え、葉緑体DNA内のmatK領域の塩基配列を比較し系統解析を試みた。その結果、奄美大島産のアダンとトゲナシアダンは東南アジア産のP. odoratissimusとクレードを形成し、沖縄県産アダンとは異なるクレードに位置付けられた。

3. 外来種の定着傾向に関する調査
  一般に熱帯や亜熱帯地方原産の栽培植物は九州本土以北では屋外で越冬が困難であるが、暖かさの指数は190を超える奄美大島や徳之島では野外に逸出し繁茂して在来植物の生育環境と競合することがある。奄美群島では水生のサトイモ科Pistia stratiotesやミズアオイ科Eichhorenia crassipes、在来近縁種と交雑の可能性があるユリ科Lilium formosanumなどの駆除の試みが始まっている。今回の調査では、サトイモ科Epipremnum sp.、ベンケイソウ科Kalanchoe sp.、サボテン科Opuntia sp.、ナス科Burgmansia sp.、キツネノマゴ科Ruellia sp.、ツリフネソウ科Impatiens sp.、キョウチクトウ科Catharantus sp.、シュウカイドウ科Begonia sp.、ツユクサ科Tradiscantia sp.などが比較的自然度が高い森林や草地に逸出し繁殖する例も確認された。なお本調査の成果の一部を『奄美群島の生物多様性』(2016年南方新社刊)において公表した。



講演(7)
「奄美地域における遺跡発掘調査情報の共有化―『全国遺跡報告総覧』の活用―」
  橋本達也(鹿児島大学総合研究博物館)
  
  奄美地域では近年、多くの遺跡の発掘調査が行われており、とくに古代〜中世の喜界島の城久遺跡群、徳之島のカムィヤキ古窯跡群などは古代から中世の日本史上の重要遺跡として全国的に考古学・文献史研究者から注目を集めている。また、徳之島の縄文時代遺跡、沖永良部島の近世墓などで新たな成果もあり、琉球列島の多様な歴史への注目は高まっている。
  一般に遺跡の発掘調査で得られた基礎的な学術情報は、調査主体となる各自治体が発掘調査報告書の刊行をもって公表されているが、多くの場合、限られた主要な研究機関・図書館等にしか所蔵されていない。そのため研究者であっても個人で情報を得るには高いハードルがある。
  これをWEB上で公開できれば、より広い地域や分野の研究者も容易に閲覧が可能となり、研究の活性化に資するとともに、各自治体側にとっても広く成果をアピールする機会となる。
  2008年度〜2014年度まで、中国地方の国立大学附属図書館(幹事は島根大学)が中心となり、国立情報学研究所の支援を受けて、各地域の遺跡発掘調査報告書をWEB公開するシステム『遺跡資料リポジトリ』が構築されてきた。これによって全国で遺跡発掘調査報告書の公開への取り組みが進められてきたが、鹿児島県に関しては鹿児島大学附属図書館がこのプロジェクトへ不参加を決定したために、情報公開の後進地の一つとなっている。とくに離島の発掘調査で得られた学術情報は従来の印刷物による情報公開では、そのアクセスに困難を伴うことが多く、むしろ鹿児島県のような地域ではWEBを利用した情報の共有化を積極的に進める必要があり、現状の改善が必要であった。
  従来の『遺跡資料リポジトリ』は、2015年度からその運営主体が(独法)奈良文化財研究所に引き継がれ、あらたに『全国遺跡報告総覧』として利用可能となった。そのなかで、従来の大学附属図書館中心の運営から、より広いシステムへの参加が呼びかけられている。
  そこで今回、まずは『全国遺跡報告総覧』事務局に鹿児島大学総合研究博物館として参加の申込みを行うとともに、奄美地区でとくに重要な遺跡の発掘調査報告書を刊行している喜界町教育委員会、伊仙町教育委員会、知名町教育委員会と調整を行い、報告書のWEB公開の承諾を得て、総合研究博物館においてアルバイトを雇用し、基礎情報の入力、PDFデータのアップロードを経て、順次WEB公開をはじめた。『全国遺跡報告総覧』のサイトから利用可能である。
  今回の取り組みによって、注目される学術資料情報でありながら、一般に利用が難しい遺跡発掘調査報告書をWEB上で公開し、より広くの人が手軽に奄美の歴史文化に関する調査・研究、教育に利用できる基盤的な環境を多少なりとも整備することができたと考える。とくに、古代史・中世史研究者には広く利用されることが予測される。
  ただし、いまだ奄美地域の発掘調査報告書は他の自治体からも多数刊行されており、そのアクセスの困難なものが多い。今後ともさらなるデータの追加が必要であると考えている。



講演(8)
「奄美の集落力―シマの空間配置と環境保護―」
  西村 知(鹿児島大学法文学部)
  
  奄美大島の人々は、社会経済の急激な変化に適応してきた。琉球王国、薩摩藩、アメリカと強力な外部の力に翻弄されながらも、彼らは自然環境との関係性を、独自の文化を守りながらも条件の変化に適応して進化させてきた。人々の生活の基礎となるのが、「シマ」と呼ばれる集落である。報告者は、このシマが環境の利用、保護といかに関わってきたかを知るために奄美大島の最南西端にある瀬戸内町を訪れた。この地域には、視覚的に非常にわかりやすい形でシマが形成されている。シマは、海岸線沿いに連なるきれいなデルタ型の扇状地である。肉眼でも十分にわかる。グーグルマップで鳥瞰的に確認するとさらにくっきりとデルタが確認できる。扇状地は、美しい海へとつながる。
  近年、生態学者らは、人と自然が織りなす持続可能な空間の構成要素として、「里」、「里山」、「里海」という言葉を使うようになっている。これらの用語、特に「サトヤマ」の概念は、環境保護に興味を持つ人々に一般に用いられるようになり、海外でも紹介されるようになっている。集落(里)に隣接する山(里山)や海岸部(里海)において、人間の影響の入った生態系が作られてきた。特に、炭が燃料として普及する以前の日本列島においては、里山への負荷は高く、里は里山の植生が崩壊するのを防止するために様々な規則を作った。
  奄美大島のシマには、まさに、この、「里」、「里山」、「里海」の三点セットがコンパクトに揃っている。里の司令塔としての機能は、信仰と祭りに支えられてきた。建築学者の研究で示されるように、この機能は空間配置としても確認できる(永田 (2003))。シマの海岸部(「カネク」)から扇状地、里、神聖な山につながる道を「カミミチ」と呼ぶ。シマでは女性のシャーマン(「ユタ」)が祭儀を行う。里には、ユタが祭儀の準備をおこなう「トネヤ」、祭儀を行う「アシャギ」が存在した。そしてこれらの祭儀が行われる広場は「ミャー」と呼ばれた。シマの人々は、豊年祭などの機会に、ミャーに集まり自然に対して畏敬の念を持って、その恩恵に感謝した。人々は、踊り、相撲を取って楽しみながら自らの生活に隣接する自然環境を理解した。
  シマは、血縁関係を基盤とした氏族集団であり、現在でも氏神信仰は継続している。しかし、多くのシマでは、人口減、高齢化が進み、限界集落化が進んでいる。このような状況に対して、瀬戸内町では、空き家バンクの情報提供を行うなどして若年層の移住を促進している。私が訪れた瀬戸内町の集落では、移住者に、強制ではないが、いずれかの氏に属することを勧めていた。空間配置、空間で育まれてきた知識、技術、思いをそのままの形で継承していくことは容易でない。しかし、集落の外に住むシマ出身者とのネットワークを強固にし、シマをオープンにして移住者を増やしていくことによってシマの祖先が守り続けてきた環境知を次世代に継承していくことは、奄美大島のみならず、日本、あるいは人類の知的財産を守っていくことにつながるであろう。



講演(9)
奄美群島における津波堆積物
  井村隆介(鹿児島大学理学部)
  
  2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震。地震から数十分後に東日本の太平洋岸に押し寄せた津波は、たくさんの方々の命を奪うとともに、海辺の環境にも大きな影響を与えた。陸上に上がった津波は、土壌中に塩類をもたらして、そこにいた植物を枯らした。引き波で持ち去られた瓦礫は、海底に堆積したりして、海の中の環境を大きく変えた。環境が突然大きく変わると、それまでそこにいた生物に代わって、その環境に適応した生物がそこに新たに生息するようになる。このような自然現象による突発的な環境攪乱も、生物多様性を考えていく上ではきわめて重要なことである。
  奄美群島では、1911年(明治44年)や1995年(平成7年)の喜界島周辺を震源とする地震で、喜界島や奄美大島の沿岸に津波が押し寄せたことが知られている。1960年(昭和35年)には、南米のチリで発生した地震の津波が奄美群島に到達して、名瀬で4mを超える津波を観測した(チリ地震津波)。この時には人的被害はなかったものの、家屋の浸水、堤防の決壊、船舶の転覆・沈没等の被害があった。この津波の時にも海岸部の環境は影響を受けたと考えられるが、その詳細についてはよくわかっていない。
  鹿児島大学の井村研究室では、奄美群島における過去の津波履歴を明らかにするために津波被害の聞き取り調査や津波堆積物の調査を行ってきた。これまでの調査によって、チリ地震津波における奄美大島の津波遡上高が明らかになってきたほか、過去に奄美大島を襲った津波の痕跡(津波堆積物)が数か所で見つかった。



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