国際島嶼教育研究センター
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科学研究費基盤B 平成24〜26年度
ミクロネシアの小島における
社会関係資本連携型のデング熱対策実践
概要

概要   ・活動   ・成果発表   ・地域の紹介(写真集)

研究の背景  研究計画・方法  メンバー・研究分担



【研究の背景】
・研究の学術的背景
 デング熱・デング出血熱はデングウイルスの感染による急性熱性疾患で、アジアや太平洋諸島など熱帯亜熱帯に広く分布します。近年患者の増加、流行地域の拡大、重症型デング出血熱の出現などにより、公衆衛生上の大きな問題となっています。デングウイルスの主要媒介蚊はヤブカ属のネッタイシマカとヒトスジシマカですが、太平洋地域では固有のヤブカ属の蚊によっても媒介されます。ミクロネシア地域においてもしばしばデング熱の流行がみられます。
 国際島嶼教育研究センターでは2010年から「ミクロネシア連邦でのデング熱媒介蚊の分布調査と予防対策のための地域社会調査」(科学研究費基盤C、平成22〜24年度、代表者:野田伸一)をおこなってきました。2010年はミクロネシア連邦ポンペイ州の3島(ポンペイ島・モキール環礁・ピンゲラップ環礁)、2011年はチュック州の3島(ウェノ島・ピス島・ロマヌム島)において、蚊の分布調査および地域社会調査を実施しました。その結果、ポンペイ州とチュック州にデング熱の主要媒介蚊であるネッタイシマカ、ヒトスジシマカおよび Aedes hensilli の分布が確認されました。患者の移動によってデング熱の流行が起きる可能性を大きく秘めている状況にあります。注目すべき点は、伝統的な自給自足の食事から輸入食品に依存する食生活に変わったことによって発生する多量の塵(空缶やプラスチック容器)が主要な蚊の発生源となっていたことです。


Aedes aegypti* Aedes albopictus* Aedes hesilli
(*Photographs sourced from National Institute of Infectious Disease website.)


 医療設備が不十分な地域では、媒介蚊発生予防が重要なデング熱対策となります。他の地域からの蚊の飛来がない小さな島では、ヤブカ属幼虫の生息場所となる住居周辺の小容器を除去することによって、デング熱のリスクを大きく低下させることができると思われます。持続性がある蚊対策とするためには、地域の社会・経済状況を考慮し、住民参加による対策の実施が必要となります。
 そこで、これまでの研究を発展させて、兼務教員とともに今年度より「ミクロネシアの小島における社会関係資本連携型のデング熱対策実践」(科学研究費基盤B、平成24〜26年度、代表者:長嶋俊介)を開始いたしました。
 本研究では、地域の経済・社会、地域の植生調査、伝統的な食物の生産、住民の食生活と健康状況、食生活に伴って生ずる塵の状況の把握をおこないます。これらの結果をもとに、最終目的である住民参加による蚊の発生源を減らす活動を実施し、デング熱発生のリスク低減を図ります。このプロジェクトは、近代化によって弱体化しつつある伝統的社会の価値の再認識や健康的な食生活への回帰を実現することにもつながると考えています。


蚊の幼虫およびその発生源


・研究期間内に何をどこまであきらかにするのか
 ミクロネシア連邦は太平洋の赤道の北半球側に点在する607の島と環礁からなっており、西側に位置するパラオと共にカロリン諸島を構成しています。ミクロネシア連邦は西からヤップ州・チュック州・ポンペイ州・コスラエ州の4州で連邦が構成されています。本研究はチュック州のピス島とポンペイ州のピンゲラップ環礁で実施します。両島ではこれまでに予備的な研究を実施しており、研究に対する理解と協力を得ることができます。
 チュック州のピス島は主島であるウエノ島の北約30qに位置し、島全体に分散して、約50家族400名が居住しています。主島のウエノ島に小型ボートで簡単に行くことが可能で、頻繁にウエノ島を訪れて生活に必要な品を購入しています。そのために、多くの食品をはじめとする物資が持ち込まれています。その影響で、空缶やプラスチック容器などが塵となり、住宅敷地内に放置されています。ポンペイ州のピンゲラップ環礁はミクロネシア連邦の首都があるポンペイ本島の東約300qに位置し、月に数回の小型飛行機と事実上不定期の船便があります。ピンゲラップ環礁のピンゲラップ島に約40家族300名が集まって居住しています。ポンペイ本島との距離があるために、島外から持ち込まれる物資には限りがあり、伝統的な社会や食生活が維持され、村の中のごみ処理も適切に行われ清潔な感じを受ける島です。研究対象として選んだ2つの島の人口規模は類似していますが、その他の社会環境は対照的です。
 両島において、社会環境、自然環境、健康状況、食生活、廃棄物の発生状況を把握し、デング熱流行のリスクの低減につながる住民参加による蚊の発生源を減らす活動を行います。目的は以下の四つです。1:地域の社会関係資源と経済・社会の実態把握を行う、2:地域の植生の調査を行うと同時に住民の伝統的な食物の生産を明らかにする、3:住民の食生活と健康状況の把握を行う、4:住民の食生活を調べ生ずる塵の状況を明らかにする。



【研究計画・方法】
 ミクロネシア連邦のピス島とピンゲラップ島を対象に、社会環境、自然環境、健康状況、食生活、塵の発生状況を把握するための調査を実施し、これらの知見を基にしてデング熱流行のリスク低減につながる社会関係資源活用型の地域リーダー育成支援と住民参加による蚊の発生源を減らす活動を行います。
 平成24年度(1年目)には社会環境、自然環境、健康状況、食生活、塵の発生状況の調査を行い、コントロールデータとして蚊の幼虫が生息している容器の分布状況の把握を行います。平成25年度(2年目)には追加調査を実施すると共に、実際に住民参加による蚊の発生源の除去を実施します。同時に、蚊の幼虫が生息している容器の分布状況の把握を行います。平成26年(3年目)には住民参加による蚊の発生源の除去の評価を実施し、必要に応じて追加の調査・蚊の発生源の除去を行います。



ピス島およびピンゲラップ環礁



【メンバー・研究分担】
長嶋俊介 鹿児島大学・
国際島嶼教育研究センター
研究総括、社会関係資本連携調整
及び廃棄物発生管理調査
野田伸一 鹿児島大学・
国際島嶼教育研究センター
蚊発生源の調査
西村 知 鹿児島大学・法文学部 地域の経済の把握
川西基博 鹿児島大学・教育学部 地域の植生調査と食物生産の把握
山本宗立 鹿児島大学・
国際島嶼教育研究センター
住民の食生活と地域の食物生産の把握


1.地域社会の把握調査(長嶋分担)
 調査予定地は1982-3年、1986年コレラ禍の近代・伝統組織協働克服地であり、貧栄養児童のコミュニティ改善地であり、近年まで蚊の病魔やごみ問題で「悪評」の高い地克服地であるが、今なお問題を残している。その改善にNGOや婦人組織そして自治組織が新しい動きを展開し始めているが、まだ未成熟で課題を多く抱えている。グラスルーツ展開上の改善点を過去経緯も踏まえて調査実践する。地域活動主体に関わるエンパワメントは、人材・権限・資源・信頼・連携など多面的成果の積み上げの延長線上に構築される。またコミュニティの内外組織連携の核となる地域リーダーの育成展開は脱伝統でありつつも親伝統であることが求められる。それら構造と外部知見・資源・組織との組み合わせが成果を規定する。小地域の現代型問題解決実践を整理統括する。あわせ廃棄物管理の現状把握と改善策についての総括的・実践的課題調査を行う。

2.蚊発生源の調査(野田分担)
 蚊の対策の実施(生息容器の除去)には住民の参加が必須で、持続性が伴わなければならない。具体的にどのような方式で蚊の対策を実施するは重要な項目である。ピンゲラップ島とピス島で蚊の幼虫が生息する容器の性状、容器の位置(GPS計測)調査を行い、対策実施前の基礎データとする。同時に蚊の幼虫を採集し、デング熱を媒介する可能性が高い種類の分布を把握する。蚊の幼虫が生息する容器は飲食物の空缶やプラスチック容器で家庭の経済と関連すること、また家族によって塵処理が異なることが考えられ、特に幼虫が生息する容器が多数存在する家族があると思われる。蚊の対策実施に対する動機づけが、対策の実施と持続性に影響することから、住民の蚊とデング熱に対する知識に関する聞き取り調査も実施する。必要に応じでデング熱に関する住民対象の説明会も開催する。

3.地域の経済の把握調査(西村担当)
 質問表を用いて調査地における家計全戸調査をおこなう。調査項目は、家族構成、収入、支出である。収入に関しては、地元の生産物の販売、賃金収入のほかに、送金収入なども質問する。支出は、食料、教育費や医療費など詳しく聞き取り調査をおこなう。このような作業によって地域間、世帯間の蚊の分布や抵抗力との関係性を明らかにするための基礎的データを収集する。

4.地域の植生の調査(川西分担)
 植生は生態系の基盤であり、自然環境において最も重要な要素である。また、食糧や建材等さまざまな形で資源となるため、植物体の利用や植栽による管理といった住民との密接な相互関係が認められる。このため、植生の把握は、島の自然環境と住民の生活との関係を理解するうえで不可欠であると考えられる。ピンゲラップ島とピス島で植生の分布と構造を明らかにするための調査を行う。まず、主要な植物群落において植物社会学的植生調査を実施し、両島に成立する植物群落の種組成を明らかにする。この結果をもとに植生図を作成し、植生の空間的な分布を把握する。森林については必要に応じて毎木調査を行い、樹木のサイズ構成から群落の持続性を検討する。また、上記の調査の過程で確認された植物種のリストを作成し、各島の植生において有用植物の占める割合を明らかにする。以上の結果を総合して、両島における植生の生態学的特徴と住民との関係性について考察する。

5.食生活の調査(山本分担)
 調査地であるピス島・ピンゲラップ島では通年で伝統的な食料である芋類やバナナを収穫できてかなりの程度の食料自給ができるにも関わらず、米・缶詰(肉・魚)・冷凍肉などの輸入食品に依存する生活に変化しつつある。現在の島内での食料生産や食料自給率を調べるため、調査協力世帯(基本的には全戸調査)に対して15日間の食事内容の記載を依頼する。5〜9月にはパンノキの果実を収穫できるため、他の時期と比べて食事内容が大きく異なる。そのため、パンノキの果実の時期(8月)と収穫後(11月)の2回食事調査を実施する。また、各世帯が所有する土地を把握し、そこで栽培される作物の種数と数量を調べ、島内で生産可能な植物性食物の量を推定する。海産の食料が重要なタンパク源となることから、複数のグループに対して、複数回漁の参与観察をおこなう。調査項目としては漁場、魚の種数・大きさ、漁獲量、自家消費量、販売量・価格などである。海の資源が島の自給的および貨幣経済に及ぼす影響を調査する。



ピンゲラップにて住民と記念撮影
ウェノ島からピス島へ向かうボートにて


この調査研究は「ミクロネシアの小島における社会関係資本連携型のデング熱対策実践」(科学研究費基盤B、代表者:長嶋俊介、課題番号24402006)の成果に基づいています。




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