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島嶼研シンポジウム


島の貴重なカンキツ ―その特長と可能性を探る―


日 時:2025年11月29日(土)13:30~17:00

場 所:喜界町役場 多目的室(〒891-6292喜界町大字湾1746番地)

開催方法:ハイブリッド(Zoom;先着90名、視聴のみ可能)

主 催:鹿児島大学国際島嶼教育研究センター

後 援:喜界町、奄美群島広域事務組合


【趣旨】

カンキツはインド・アッサムから中国・雲南を起源とし、主にその東側に生息域を拡大しました。東端に位置する日本は中新世(2,300万年前~530万年前)に日本海が形成されてユーラシア大陸と分離したため、自生種の「シィクワーサー」と「タチバナ」は他地域には存在しない固有で貴重なものです。その後、南西諸島ではシィクワーサーと外来種との交雑、そして交雑種どうしの交配などにより、さまざまなカンキツが誕生しました。例えば、喜界島では「クリハー」「ケラジミカン」「シークー」「トークー」「フスー」などが栽培・利用されています。本シンポジウムでは、奄美・沖縄の在来カンキツの特長について最新の知見を紹介するとともに、島おこしの材料としてより一層活かすため、在来カンキツの新たな可能性を皆さまと一緒に考えたいと思います。


【プログラム】

13:00 受付開始

13:30 開演 司会 山本宗立(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)

13: 30~13:40

趣旨説明 山本雅史(鹿児島大学農学部)

13:40~14:20

山本雅史(鹿児島大学農学部)

「奄美・沖縄の在来カンキツについて最近わかったこと」

14:20~15:00

金城秀安(沖縄県大宜味村シークヮーサー産地振興協議会、H.K.ラボ)

「琉球列島在来カンキツ類の起源」

15:00~15:15 休憩

15:15~15:55

坂尾こず枝(鹿児島大学農学部)

「南西諸島在来カンキツの魅力とこれから―地域に根ざしたチカラと活かし方―」

15:55~16:10 休憩

16:10~16:55 討論

16:55~17:00 閉会の挨拶


【要旨】

山本雅史(鹿児島大学農学部)

「奄美・沖縄の在来カンキツについて最近わかったこと」

奄美・沖縄にはシィクワーサーをはじめ、さまざまなカンキツ遺伝資源が自生し、または栽培されている。近年、これら在来カンキツの分布、来歴や特徴について、さまざまなことが明らかになってきた。この地域の多くの在来カンキツ、カーブチーやケラジミカン、ロクガツミカンなどは自生のシィクワーサーと海外から導入されたクネンボまたはダイダイとの雑種であることがDNA分析によって解明された。また、多数の島における現地調査によって、在来カンキツの分布についての情報も得られた。例えば、カーブチーやロクガツミカンは幅広く分布しており、島じまで異なる名称で呼ばれていた。一方、ケラジミカンのように限られた島でのみ確認されたものもあった。これらのうちシィクワーサーやカーブチーなど数種類の在来カンキツの果実には生活習慣病などの予防効果の高いポリメトキシフラボノイドが大量に含まれていた。これらの結果から、奄美・沖縄の在来カンキツは、他の地域には存在しない固有で貴重な遺伝資源であることがわかった。さらに、古くから生活に密着して利用されてきた点で、文化資源としても重要である。

金城秀安(沖縄県大宜味村シークヮーサー産地振興協議会、H.K.ラボ)

「琉球列島在来カンキツ類の起源」

シィクワーサーは、タチバナと中国由来のマンダリンの自然交雑によって生まれたと考えられる。さらにその雑種間で交雑が行われ、イシクニブーのような遺伝子型のカンキツができた(平井正志)。シィクワーサーの系統である大宜味クガニー、勝山クガニー、カーアチー(マヤーガー)、カービシー、フスブター、ミカングヮー、ヒージャークニブー、イシクニブーおよびタチバナには、いずれも日本マンダリンを特徴づける遺伝子が見られること、イシクニブー以外の個体については、中国由来のマンダリンの特徴が見られる(山本雅史)。

現在、沖縄科学技術大学院大学、カルフォルニア大学、フロリダ大学、アメリカおよびスペインの研究所とカンキツ国際研究チームで東アジア、琉球、日本のカンキツ来歴類縁関係を追究している。

その成果が、2021(令和3)年7月26日、Nature Communicationsに掲載された。今回、これまで田中の分類でタニブターシイクワシャー(タチバナ群)と称した個体が、琉球列島で220~280万年前、中国由来のマンダリンから分化したことが遺伝子解析の結果判明した。

これまで、日本最古のカンキツと言われたタチバナとシィクワーサーは、4~20万年前にタニブター(仮の学名Citrus ryukyuensisと命名)が関与し誕生したことがわかった。タチバナの伝来は、朝鮮半島経由の北ルートと琉球からの南ルートが考えられてきたが、今回の研究で琉球ルートを裏付ける発見となった。

現在のところ、タチバナの片親は不明(中国由来のマンダリン?)であるが、シィクワーサーの片親は、勝山イシクニブー(イシクニブーと別種、マンダリンCitrus reticulata)と称されている中国湖南省由来の莽山野橘の一種で、正逆交雑でシィクワーサーのさまざまな変異系統が生まれたと考える。

琉球王国の大交易時代(8~12世紀)にアジアから導入されたクネンボ、ダイダイ、ブンタン等とタニブター、シィクワーサーが交雑しつつ北上し、日本各地で種々のカンキツが誕生したと予想する。今後の研究により、国産カンキツの起源が解明され、カンキツ史が書き換えられるだろう。

坂尾こず枝(鹿児島大学農学部)

「南西諸島在来カンキツの魅力とこれから―地域に根ざしたチカラと活かし方―」

南西諸島で栽培されている在来カンキツ類は、固有の遺伝的背景を有する貴重な植物資源である。一方で、摘果などにより未利用のまま廃棄されるケースも多く、資源の有効活用が課題となっている。そこで本研究では、将来的な地域産業への応用を見据え、これら在来カンキツ類の「機能性」に着目し、高付加価値化を目指した検討を行った。

これまでの研究から、南西諸島在来カンキツ類の果皮にはノビレチンやタンゲレチンといったポリメトキシフラボノイド(PMFs)が豊富に含まれており、酸化ストレス軽減や抗メタボリックシンドローム作用などの生理活性が報告されている。

本研究では、南西諸島在来カンキツ類を機能性資源として多面的に評価することを目的とし、①血糖値上昇抑制効果、②皮膚保護作用、③抗アレルギー効果、④抗がん作用の四つの観点から機能性を検証した。さらに、それぞれの機能に関与する可能性のある成分の推定を、NMRメタボローム解析等の手法を用いて行い、各品種が有するユニークな機能性の特定を試みた。

その結果、「喜界ミカン」に顕著な血糖値上昇抑制効果が認められたほか、屋久島の「コズ」には優れた皮膚保護作用が確認された。これらの成果から、南西諸島在来カンキツ類は、地域特有の機能性資源としての有望性を有することが示唆された。

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