国際島嶼教育研究センター
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竹島およびその周辺海域調査
平成23年度 調査結果

メンバー・調査内容   ・調査結果


成果報告掲示ポスター(PDF)


調査地・期間

調査地:竹島およびその周辺海域学術調査
調査期間:平成23年5月9日〜5月11日



調査参加者の集合写真






@『竹島沿岸から産出した有孔虫Amphisorus hemprichii 八田明夫・新田光平(教育学部)
A『竹島の伝統歌謡の現状』 梁川英俊(法文学部)
B『三島村竹島の海藻相』 寺田竜太(水産学部)
C『三島村における人口移動と竹島の出郷者の会について』 田島康弘(島嶼研協力研究員)
D『小さな島竹島の産業・文化と未来可能性』 長嶋俊介(島嶼研)
E『竹島に生息する巻貝の殻色多様性』 河合 渓(島嶼研)



@『竹島沿岸から産出した有孔虫Amphisorus hemprichii
八田明夫・新田光平(教育学部)

 現生有孔虫を研究することで、化石有孔虫の産出する地層の堆積した時代や環境を解析するとともに、理科の教材として役立てることができる。筆者らは、2011年5月に竹島沿岸でサンプルを採取し、有孔虫の研究を行った。
 八田・新田が竹島港の西海岸のタイドプールで有孔虫を含む堆積物及び小石や岩に付着した有孔虫を採取した。竹島港等の沿岸で寺田がダイビング調査を行い有孔虫のサンプルを採取した。
 海岸や沿岸で採取したサンプルには多くの有孔虫が含まれていた。肉眼で確認できる保存の良い平らな円盤状の形の大型有孔虫、所謂“銭石”と思われる大型有孔虫も多産した。海岸のタイドプールでは肉眼で確認して指で拾い上げて採取することができた。
 和名の「銭石」は、Marginopora vertebralis Quoy & Gaimardに限られる。銭石とみかけの類似するSoritacea上科Soritidae科の大型有孔虫には、Marginopora属、Sorites属、Parasorites属やAmphisorus属がある。日本近海から報告のある種は、Marginopora vertebralisSorites orbiculusParasorites orbitolitoidesAmphisorus hemprichiiなどである。竹島から産出した有孔虫について、Hohenegger(2011)、Yordanova and Hohenegger(2002)、Hatta and Ujiie(1992)やLoeblich and Tappan(1994)などを引用して鑑定を行った。その結果、竹島で採取された所謂“銭石”と思われた標本は、Amphisorus hemprichii Ehrenbergであった(写真の有孔虫の直径は4mm)。


竹島の沿岸から産出したAmphisorus hemprichii Ehrenberg



A『竹島の伝統歌謡の現状』
梁川英俊(法文学部)

 竹島では伝統歌謡関係の取材を行なった。入港した5月9日は、夕刻から漁船の水揚げ式で、島民がフェリー待合所前に集って会食。隣に座った男性から島の伝統芸能である八朔踊りの情報。「八朔踊りは何年もやっていない。唄を歌えるのが一人だけで、鉦を叩くのが難しい。鉦と太鼓を用意して録音してみたが、声が小さくて聞き取れない。伝承が危うい」。翌10日は竹島小中学校を訪れ、平松教頭に話を伺う。学校の廊下にはジャンベが並ぶ。翌日は硫黄島ジャンベスクール校長の徳田健一郎氏が教えに来る予定とのこと。夏季休暇中にはジャンベ合宿もあるという。その後、八朔踊りの歌い手の中原新吉氏、婦人会長の日高喜世子氏を訪ねて話を聞く。両氏の話を総合すると、八朔踊りは消防団が踊っていたが、鉦の叩き方が難しく伝承者がいないらしい。保存会を作るという話があったが立ち消えになったとのこと。馬方踊りは現在も踊られているが、唄は15、6年前に録ったカセット。盆踊りの歌い手も2、3人になっているという。八朔踊りについては、できれば復活したいので協力してほしいと出港前にビデオを2本渡されたが、残念ながら傷みがひどく再生不可能であった。


竹島小中学校の教頭室にあった「八朔踊り」の写真



B『三島村竹島の海藻相』
寺田竜太(水産学部)

 鹿児島県鹿児島郡三島村は、薩摩半島南端から南南西約40kmに位置し、硫黄島、竹島、黒島の三島で構成されている。三島村の海藻に関しては、野呂(1990)が硫黄島周辺より緑藻7種、褐藻14種、紅藻26種の計49種を報告し、寺田・鈴木(2011)は、緑藻30種、褐藻6種、紅藻45種の計81種を報告しており、温帯性種と亜熱帯性種が混生する種多様性の高い海域であることが知られている。しかし、竹島の海藻植生についてはこれまで全く報告されていなかった。本研究では、竹島の海藻植生を明らかにすることを目的とし、2009年から2011年にかけて断続的に調査を実施した。
 調査は、2009年5月23日、2010年2月20日、2011年5月10日に実施し、竹島沿岸においてSCUBAを用いて海藻類を採取した。採集した海藻は現地で主な分類群ごとに分け、冷凍して研究室に持ち帰った。研究室では、種の同定を行うと共に押し葉標本を作製した。
 竹島は後背地が崖と丘陵で構成されており、竹島港内の東側や東風泊、南部の籠で海藻類が多く見られた。竹島港内の海底は砂礫であり、海藻類はほとんど見られなかったが、護岸や捨て石上にカギケノリやミル類、カイメンソウなどが見られた。竹島港外は変化に富んだ岩礁が形成されており、カギケノリやナガミル、フクロミル、ヤブレグサなどが多く見られた。東風泊や籠では、海岸線付近から水深3m前後は岩盤が多く露出するが、水深4m以深は岩塊が多くなり、海底は緩やかに傾斜していた。カギケノリやナガミル、シワヤハズやアミジグサ類が多く見られた。
 調査の結果、緑藻16種、褐藻8種、紅藻39種の計63種が確認された。このうち、環境省のレッドリスト(2007年改訂版)の掲載種として、ハナヤナギ(紅藻網イギス目,絶滅危惧U類(VU))、ハイコナハダ(紅藻網ウミゾウメン目,準絶滅危惧種(NT))、イトゲノマユハキ(緑藻網イワズタ目,NT)の3種の生育が確認された。

引用文献
野呂忠秀1990.三島村の海藻.三島村誌編纂委員会編,三島村誌.1-23.
寺田竜太・鈴木智博2011.三島村黒島の海藻相と群落構造.鹿児島大学国際島嶼教育研究センター南太平洋海域調査研究報告51:6-15.





C『三島村における人口移動と竹島の出郷者の会について』
田島康弘(島嶼研協力研究員)

 筆者はこれまで社会地理学的な立場から、出郷者の会=同郷集団、の存在に関心を持ち、現代社会の中におけるその持つ意味について検討してきた。今回、三島村の竹島にかかわることになったことを契機として、三島村における出郷者の会について調査、把握し、これまでの到達点をさらに深めようと考えるに至った。
 一般に、出郷者の会は都市部とくに大都市部に形成されることが多く、また、出身地域からの相当数の人口移動を前提としている。こうしたいわば客観的な条件の他に、会の形成には主観的、人的要素も大きくかかわっているようにも思われ、双方の要素の検討が必要となる。
 ここでは、客観的な条件の一つとしての人口面についての若干の指摘をしたい。三島村の人口動向は1960年代の大幅な減少、1970年代の停滞、1980年代以降の漸減として捉えられるが、これを集落別にみると、竹島と片泊は全体とほぼ同様の傾向を示し、硫黄島は硫黄鉱山の閉山に伴う1960年代の急激な減少を特徴とするのに対し、大里は人口減少傾向がかなり緩やかである。すなわち、2010年の1950年に対する人口減少率をみると、他の3集落が70〜80%であるのに対し、大里は49.2%とかなり異なっている。
 他方、鹿児島市における出郷者の会の形成状況をみると硫黄島会、片泊会、竹島会は存在し、活動したことが知られているが、大里出身者の会は存在しなかったようである。これは人口動向の特色を反映した結果ではないかと推測している。
 竹島会については、現地竹島での聴き取りで会の存在を知った。1973年に鹿児島市で発足し、20年間ほど活動を続けたが1993年以降は活動を停止している。現在も活動を続けている他の2つの会とも比較しつつ検討してみたいと思っている。


竹島



D『小さな島竹島の産業・文化と未来可能性』
長嶋俊介(島嶼研)

 人口75名老齢化率48.2%の1集落島。島の未来可能性不安は、産業基盤、次世代誕生・育成、文化社会基盤の継承にある。[産業面]牧畜と筍加工施設を見、船祝い(新船ではなかったが島民総出の港での祝賀がなされた)に遭遇した。牧畜は環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)次第では存立根拠を失い、筍は生食需要があり季節限定で新冷凍技術導入に対し費用に耐え得る規模にはない。水産では出荷規模・週3便・市場への近接性に課題がある。光明は新船導入次世代と3島連携力にある。交流は自治会・学校連携での相互島訪問交歓・ジャンべ(西アフリカ打楽器)学童演奏で定常化しつつある。便も枕崎便が試行されている。新技術は黒島のスマートグリッド導入などで馴染みにもなりつつある。[次世代]未就学年齢児童男2女3名、小中学生13名うち「しおかぜ留学」6名という数は、必ずしも限界集落的状況ではない。教師の子供数も割り引くと、しおかぜ留学(平成13-20年実績102名・年平均13名)がない島の未来は不安感の源泉である。Iターン就労に行政・村落・島間支援が欠かせない。島外も含めた支援ネット形成に期待したい。子どもへの授業での伝統文化活動はなく(黒島は取り上げていた)若手への文化継承も(死滅しつつある古謡の唯一継承者とされる方の古い録音テープもかびていて存命中の要採録・記録化等)課題を抱えていた。[文化基盤]八朔踊り仮面など保存箇所確認。馬方踊りも聖大名神社で230年近く継承されている。同神社の一対唐猫は文化財的価値があり、廃仏毀釈を免れた美麗な釈迦像も別箇所での保存を確認した。また水神・地神・山神も大切にされており、初山初磯や平家伝承芸能・行事も存続している。しかし体系的保存記録化措置なしでは早晩保持困難になる。それら持続可能性のためにも、口永良部小中学廊下資料室同等の、自然・遺物・記録史料・生活産業道具類・無形文化財・芸能記録保存等の島内確保が喫緊の課題である。

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保存された八朔踊り仮面の一部



E『竹島に生息する巻貝の殻色多様性』
河合 渓(島嶼研)

 キバアマガイは屋久島以南の岩礁域に生息し、その貝殻は白色、縞模様などの多様な表現型を持つ巻貝で、貝の多様性維持機構の解明には最適な貝類である。今回の調査では北限と報告されている屋久島より若干北に位置する鹿児島県三島村竹島の港近くと島西部の岩礁域におけるキバアマガイの生息状況とその貝殻色の多様性について調査を行った。その結果、竹島においてキバアマガイの生息は確認されたが、全観察個体数は3個体と非常に低くかった。また、貝殻の色多様性については白色の貝殻と縞模様の貝殻が観察された。遺伝的多様性があまり高くないと考えられる北限個体群において多様な殻色が観察されたことは、殻色多様性に与える要因として温度、捕食圧などの環境要因の重要性が一層高い可能性が考えられる。


竹島の潮間帯



成果報告掲示ポスター(PDF)





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