国際島嶼教育研究センター
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ミクロネシア地域における自然・社会環境と
人々の生活に関する調査
平成22年度 調査結果

目的・メンバー・調査内容   ・調査結果   写真集


『蚊の発生源対策』 野田伸一(国際島嶼教育研究センター)
『島未来可能性のMIRAB構造への疑問と光明』 長嶋俊介(島嶼研)
『ポナペ島周辺に産する有孔虫群集の解析とその教育への活用』 八田明夫(教育学部)
『ポンペイ島における地質学的調査』 仲谷英夫(理工学研究科)
『ポンペイ島の海産植物』 寺田竜太(水産学部)
『ミクロネシア連邦ポンペイ州に生息する巻き貝の殻色変異』 河合渓(島嶼研)
『ポンペイ州におけるキダチトウガラシの利用』 山本宗立(島嶼研)


『蚊の発生源対策』
野田伸一(国際島嶼教育研究センター)

 ミクロネシア連邦ポンペイ州の離島であるピンゲラップ環礁とモキール環礁で3年前(2007年)に生活調査を実施したが、居住地域内が清潔に保たれ生活ごみが適切に処理されていたことが非常に印象深かった。人家周辺に放置されたプラスチックの容器や空き缶は蚊の絶好の発生源となり、デング熱・マラリア・フィラリアなどの蚊が媒介する感染症の流行につながる。蚊が媒介する病気を防ぐためには蚊の駆除が必要であるが、理想的な方策は一般住民も参加して蚊の発生源を居住地域から除去することである。2010年8月に、蚊の分布調査とコミュニティーの状況の把握を目的として再調査を実施した。3年前に訪れたときにはピンゲラップ環礁とモキール環礁では衛生的な環境が保たれていた。しかし、今回の調査で、モキール環礁では蚊の発生につながる生活ごみが目立ち、衛生状態の悪化が認められた。モキール環礁では住民のポンペイ本島への流出が進み、人口減少に伴うコミュニティーの弱体化が顕著であった。これに対してピンゲラップ環礁では伝統的な生活が維持され、島外から持ち込まれる生活物資の消費が少なく、プラスチックや空き缶のゴミも少なかった。また、生活に伴って発生したゴミは地面に掘った穴に集められ、適切に処理されていた。

(調査結果が日本島嶼学会にて報告されました。 野田伸一 2011 「ミクロネシア連邦におけるデング熱の発生と媒介蚊調査」 日本島嶼学会2011年次大会 鹿児島・徳之島 日本島嶼学会のホームページはこちら


ピンゲラップ環礁で見られたゴミ処理風景



②『島未来可能性のMIRAB構造への疑問と光明』
長嶋俊介(国際島嶼教育研究センター)

 ピンゲラップは遠隔小離島といえども貨幣経済・消費経済が柱で、生存経済は部分的には健全でありながらも補足的である。移出産物がないのに、全戸公務が割り当てられ(社会システムがそれで成り立ち)、その収入(米国資金)と出稼ぎ先送金により、消費経済が維持されている(これをMIRAB構造という)。島の未来はその線上にはない。この1-2年の間に家庭菜園(野菜)が全戸の2/3で本格的に始まり、鹿大卒業生関与の真珠養殖が始まっていた。野焼き問題(指導者・取締り当局に危害知識無い)等健康知識・普及課題があり、未来世代の内発的島内起業化(島内資源開発)に無策である点が島未来の懸念材料である。エンパワメント課題として有用資源の養殖・栽培の幅を増やすことと技術・ビジネス・組織形成教育を経た上での「民(あるいは新しい公共)の創造」が喫緊の課題である。


ピンゲラップの家庭菜園



③『ポナペ島周辺に産する有孔虫群集の解析とその教育への活用』
八田明夫(教育学部)

 ミクロネシア連邦・ポナペ島に於いて現生有孔虫群集の採取を行った。採取地点は、ポナペ島北東部、北西部及び南東部のリーフ内の浅海域である。また、国際島嶼教育研究センターの長嶋教授採取のピンゲラップ環礁・Deke島沿岸のサンプルも調査対象とした
 採取したサンプルをミクロネシアカレッジ(COM)の実験室で、生物担当の教員の協力のもとに予察的な観察作業を行った。帰国後、堆積物から分離する作業後、有孔虫の鑑定を行っている。
 採取した有孔虫を生物顕微鏡により撮影し、多焦点画像処理技術ソフト(Helicon Focus)で有孔虫の鮮明な画像を作成中である。
 ミクロネシアの学校教育の現状について、JICA(国際協力機構)ミクロネシア支所企画調査員の飯田典子氏の協力で先生の数や児童数の公表されたデータを得た。ミクロネシアカレッジ(COM)の協力で、ミクロネシア連邦の教員養成プログラムについても最新の情報を得た。後日、有孔虫の研究を行い、ミクロネシア連邦における教育・研究に資するような研究成果を得たいと考えている。


写真 ミクロネシア連邦・ピンゲラップ環礁・Deke島から採取した有孔虫
(長嶋先生採取、1枠の大きさ縦横共に3.5mm、
Baculogypsina sphaerulata (Parker and Jones)、
Helicon Focus で画像処理)



④『ポンペイ島における地質学的調査』
仲谷英夫(理工学研究科)

 西太平洋ミクロネシア連邦のポンペイ島は、カロリン諸島の東部に位置し、チュルク島、コスラエ島と同様に、化学的組成からみてアルカリ岩からなる平均高度600〜700mの火山島で、その周りをサンゴ礁とラグーンに囲まれた堡礁である。同じ西太平洋でも西部のカルクアルカリ岩からなるマリアナ諸島やパラオ島とはその構成する岩石や火山活動の様式が異なっている。ポンペイ島は近隣のパキム、アント両環礁を含む巨大な盾状火山の一部であり、その火山活動のはじまりは900万年前にさかのぼる。その後、何回かの火山活動や地殻変動や浸食を経て現在のポンペイ島の地形ができあがった。今回の調査では、ポンペイ島の代表的な火山岩や、それらに含まれるさらに深いところに存在する岩石である捕獲岩を採集し、その分布を記録した。さらに、ポンペイ島北部のパレム島などに分布する火山の崩壊に伴って堆積した土石流堆積物も調査した。現在、これらの岩石の記載岩石学的、地球化学的研究を進め、ポンペイ島の成り立ちを明らかにする予定である。また、ナンマドール(Nan Madol)遺跡からあまり離れていない滝の周辺の転石に、この遺跡の石材とよく似たものがあり、石材の供給源についても考察を進めている。


Kepirohi滝(滝は捕獲岩を含む無斑晶の火山岩からなる。
周辺にはナンマドール遺跡の石材と似た大きな斑晶を
含む火山岩の転石が見られる)



⑤『ポンペイ島の海産植物』
寺田竜太(水産学部)

 ポンペイ島北部および東部の計15ヶ所において、海産植物の植生調査をおこなった。調査は、離岸距離と水深、時刻を記録した上で底質と各種の被度を記録した。島の周辺には広大なサンゴ礁リーフ内が形成されており、水深1-3mの浅所にはウミショウブEnhalus acoroidesやリュウキュウスガモThalassia hemprichii、ベニアマモCymodocea rotundataの海産顕花植物群落(アマモ場)が各地で見られた。アマモ場内には海藻類も混生し、ヒロハサボテングサHalimeda macrolobaやセンナリズタCaulerpa racemosa f. macrophysa、フシクレノリGracilaria salicorniaなどが多く見られた。褐藻ホンダワラ科藻類のガラモ場は島の北部に見られ、岸よりの場所にはコバモクSargassum polycystumの群落がアマモ場とモザイク状に点在した。一方、トサカモクSargassum cristaefoliumやラッパモクTurbinaria ornata、カサモクTurbinaria conoidesの群落はリーフ末端の岩盤状に多く見られた。調査の結果、緑藻15種、褐藻12種、紅藻12種、海産顕花植物3種の計42種の生育を確認した。


海藻類とウミショウブの混生群落



⑥『ミクロネシア連邦ポンペイ州に生息する巻き貝の殻色変異』
河合渓(国際島嶼教育研究センター)

 沿岸域の岩礁域は温度変化が激しいが、多くの生物がその環境に適応し生息をしている。キバアマガイNerita plicataは岩礁域に生息する巻き貝で、殻色に多様性があることが知られている。キバアマガイと生息する基質の色との関係を解明するため、ミクロネシア連邦ポンペイ州のポンペイ本島とその近く島において2010年8月に野外観察を行った。ポンペイで観察されたキバアマガイには3つの殻色(白色、一部縞模様、全部縞模様)のタイプが観察された。一般に沿岸域では基質の色は様々であるが、殻の色は白色個体が多くを占めていた。一方、本島の近くの小島にある場所では全域で黒色の岩が観察され、そこのキバアマガイの殻色は一部縞模様、全部縞模様がほとんどで、白色の貝殻個体はほとんど観察されなかった。キバアマガイは浮遊幼生期を持つと考えられるため、狭い地域では遺伝的に同じと考えられる。従って、今回観察されたポンペイ本島における殻色の違いは、何らかの選択圧が稚貝期に影響しこの様な殻色の変異を引き起こした可能性が考えられる。


一般的なキバアマガイの殻色変異: A,E; 黒色、B,F; 全部模様、C,G; 一部模様、D,H; 白色



⑦『ポンペイ州におけるキダチトウガラシの利用』
山本宗立(国際島嶼教育研究センター)

 キダチトウガラシ(Capsicum frutescens L.)は中南米原産で、現在では熱帯・亜熱帯の幅広い地域に分布している。ポンペイ州では3種類のキダチトウガラシが利用されていた。果実が一番小型で未熟果が緑色のキダチトウガラシは古くから利用されているようであったが、残りの2種類は第二次世界大戦前後に導入された可能性がある。キダチトウガラシはあちこちに野生化しており、人びとはキダチトウガラシを栽培すべき植物と認識せず、野生化個体を利用していた。果実は生で利用されるほか、塩蔵果実や果実をさまざまな液体(熟したココヤシの果水、水、柑橘の果汁、市販の酢)に漬けた調味料として利用されていた。葉は野菜としてスープや炒め物に利用されていた。特に小さな環礁であるモキールおよびピンゲラップにおいては非常に重要な葉菜であった。薬用としては、果実が駆虫剤、関節痛に利用されるほか、新芽(蕾を含む)が傷口の止血に、花が出産の促進に利用されていた。キダチトウガラシは、①上記地域の環境に適応して野生化しており、それほど手をかけなくていい、②1年を通して果実・葉を採集できる、という利点があり、ポンペイ州において再評価されるべき半栽培植物であると思われた。

(調査結果が日本オセアニア学会の学会誌『People and Culture in Oceania』に掲載されました。
Sota Yamamoto 2011. Use of Capsicum frutescens on Pohnpei Island, Mokil Atoll, and Pingelap Atoll, Federated States of Micronesia. People and Culture in Oceania 27: 87-104.
学会誌ホームページはこちらを参照


キダチトウガラシの葉が入ったスープ



(以下の競争的資金の一部を使用して研究調査をおこないました)
「ミクロネシア連邦でのデング熱媒介蚊の分布調査と予防対策のための地域社会調査」(科学研究費基盤C、代表者:野田伸一)
「グローカル地域社会-東南アジア島嶼部と太平洋域との協働・架橋-」(京都大学東南アジア研究所 共同利用・共同研究拠点 「東南アジア研究の国際共同研究拠点」 平成22年度共同研究、代表者:山本宗立)






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