国際島嶼教育研究センター
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島嶼研シンポジウム
「世界自然遺産と奄美の観光―エコツーリズムによる保全と利用―」
日時:令和4年2月12日(土)13:00~17:00
会場:オンライン(Zoom)
主催:鹿児島大学国際島嶼教育研究センター
後援:天城町、徳之島町、伊仙町、徳之島エコツアーガイド連絡協議会、奄美大島エコツアーガイド連絡協議会、奄美群島広域事務組合、世界自然遺産推進共同体
参加費:無料(事前登録が必要です)

プログラム   ・要旨   ・English Page


●要旨

『奄美大島における海洋生物の保全と活用』

 興 克樹(奄美海洋生物研究会)

 奄美大島を縁取るように発達しているサンゴ礁は、奄美西部を流れる温暖な黒潮の影響により世界的にも高緯度の海域に位置している。外洋に面しているサンゴ礁のほか、海峡内や湾奥など内湾性のサンゴも多く、それぞれの環境に適した多様な生物が生息し、近年では、アマミホシゾラフグやスツボサンゴツノヤドカリなどの新種も相次いで発見されている。沿岸域ではアオウミガメ亜成体の生息数が増加しており、ウミガメシュノーケリングの人気が高まっている。沖合では冬季に繁殖のため来遊するザトウクジラの出現頭数が増加し、ホエールウォッチング・ホエールスイム事業が確立され、沿岸域に生息するミナミハンドウイルカ地域個体群を活用したドルフィンスイムや外洋域でのマッコウクジラウォッチングも試験的に行われている。
 これらの海洋生物は世界的にも人気が高く、陸域の希少動植物や自然に育まれた文化と同様に、奄美大島の珠玉の資源であり、世界自然遺産の島としての価値を高める重要な鍵ともなっている。本発表では、持続的な活用を図るために取り組んでいる保全対策や活用事例を対象種ごとに紹介したい。




『エコツーリズムと自然保護―奄美大島の森林を事例に―』

 城 泰夫(アイランドサービス)

 発表者は、奄美大島の森林域を主なフィールドとして、観光業に従事しながら自然保護活動にも携わってきた。本発表では、世界自然遺産登録区域の金作原国有林と湯湾岳、緩衝地帯に含まれるマングローブ林を中心に、観光利用の現状と課題を、各エリアの実情に照らして検討する。また、希少野生動植物の盗掘・盗採、ノネコ問題、近年多発しているロードキルなどを概観するとともに、生物多様性に富んだ豊かな森林を保護・保全していくための活動の一端を紹介する。近年、ガイド業を始めるUターン者や移住者が多くなってきた。自然を相手にするエコツアーガイドの仕事は、台風や大雨による自然災害に影響を受けたり、現在では新型コロナウイルス感染症の影響で入込客が減少したりするなど、常に不安定な職業でもある。しかし、観光客が安全で楽しく自然を体験するようにするガイドは、世界自然遺産登録によってさらに重要な存在になると思われる。この先、より多くの人材を確保し、質の高いサービスを提供することが、自然の保全にもつながると思われる。




『徳之島の海、環境の変化とサンゴ保全』

 池村 茂(徳之島虹の会)


 徳之島は、奄美群島のほぼ中央に位置し、亜熱帯性気候に属する海洋性の島である。海水温は、南方から島の近海を北上する黒潮の影響をうけて、年間の平均水温は20度を下回ることがほとんどなく、サンゴの生育環境に適している。島の周囲は約80キロメートルで、徳之島町・伊仙町・天城町の三町により構成されている。
 造礁サンゴに囲まれた島の東側(徳之島町)は、太平洋に面し、比較的穏やかな遠浅で、干潮時には大小のタイドプールが姿を現す。その環境に適応したハマサンゴのマイクロアトールや色とりどりのエダサンゴ、原色豊かな熱帯魚を間近で観察できる。一方、西から北西にかけての東シナ海側(伊仙町・天城町)は、季節風などの影響を受けて、荒々しく切り立った隆起サンゴの断崖や波の浸食作用で生み出された退化サンゴの奇岩を眺望できる。また、島の北部の花崗岩がムシロを敷き詰めたように見える異彩な景観は南西諸島でもかなり珍しい。この三町のそれぞれの変化に富んだ海岸景色の美しさは観光資源としても価値が高い。
 本発表では、サンゴ保全に取り組んでいるタイドプール内外の素晴らしいサンゴと生物を紹介する。また、自然的要因(温暖化によるサンゴの白化現象、病気、オニヒトデによる食害など)と人為的要因(赤土の流出、大量ゴミの海洋流出など)により、サンゴの生育と生物に悪影響が及んでいる現状を明らかにする。




『徳之島のエコツーリズムの現状と今後の可能性』

 美延睦美(徳之島虹の会)


 世界自然遺産登録の本来の目的は、価値ある自然を守り伝えることであるが、多くの期待は観光発展による地域振興に集まった。しかし、保全管理の取り組みがより重要であり、優先されなければならない。徳之島は、他の三島(奄美大島・沖縄島・西表島)に比べて登録地の面積が小さく、また登録地が二つに分断されており、人間活動の悪影響を受けやすいという弱点がある。その反面、徳之島は太古より続く人の暮らしと自然の営みが共存共栄してきた歴史がある。今もなお、サトウキビを主体とした農業が盛んに営まれており、価値が認められた豊かな自然が身近に存在している。これらは自然と人のあり方を示す、これまでにない世界自然遺産のかたちとなっている。
 今後、保全と活用をバランスよく進める主役として、エコツアーガイドの活躍が期待されているが、徳之島では、まだ観光業やサービス業に対する需要は少なく、エコツアーガイドも不足している。これらの課題解決に向けて取り組んできた徳之島虹の会が、自慢したい徳之島の魅力と、自然保護と環境・文化の保全を目的としたエコツーリズム推進の活動例を紹介する。




『地域の自然環境とエコツーリズムのあり方』

 宋 多情(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


 理想的なエコツーリズムを実現するにおいて、地域住民は欠かせない存在とされている。しかし、実際に行われているエコツアーは、野生動植物の観察が中心となっており、エコツアーガイドなどの観光事業者に比重が置かれている。本発表の対象地域である奄美市住用町は、奄美大島の中でも林野面積が広く、大部分が世界自然遺産登録区域と緩衝地帯に含まれている。そして、マングローブカヌー体験、アマミノクロウサギなど野生動物を観察するナイトツアーが代表的なエコツアーとして行われている。本発表では、まず、アマミノクロウサギの主な観察場所である三太郎峠周辺の山林域における住用町住民の過去の自然利用を紹介する。次に、観光利用や保全のための政策が展開されるのにつれ、自然に対する住用町住民の価値づけやかかわり方がどのように変わってきたのかを検討する。具体的には、聞き取り調査から明らかになった、住用町住民のアマミノクロウサギ観察に対する考え方と、市道三太郎線周辺における夜間利用規制への対応を考察する。最後に、これらを踏まえて、地域住民が身近な自然環境におけるエコツーリズムにどう向き合うべきか考えたい。




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