国際島嶼教育研究センター
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島嶼研シンポジウム
「奄美大島の内湾―濁りに隠れた多様な生き物たちの楽園―」
日時:令和3年3月13日(土)13:00~17:00
会場:Zoomを用いたWebオンラインシンポジウム
主催:鹿児島大学国際島嶼教育研究センター
後援:奄美市、奄美群島広域事務組合、世界自然遺産推進共同体
参加費:無料(事前登録が必要です)

プログラム   ・要旨   ・English Page


●要旨

『奄美大島の内湾環境における生物多様性:干潟の底生生物と共生関係に着目して』

 後藤龍太郎(京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所)

 奄美大島は、琉球列島の中北部に位置し、亜熱帯の気候に抱かれ、湯湾岳から連なる豊かな森を備えた島である。海岸線はしばしば複雑に入り組み大小様々な湾を形成する。奥まった湾、すなわち内湾では、砂や泥の堆積した干潟が形成されることが多いが、奄美大島の内湾では、微細な砂からなる砂州や、サンゴ礫や星砂(有孔虫の死殻)が混じった干潟、転石混じりの干潟、泥深い干潟、海草の群落、マングローブなど、実に豊かな干潟環境を見ることができる。この干潟環境の多様性は奄美大島の際立った特徴の一つといえるだろう。
 干潟は、潮が引くと降りて歩くことができ、普段見かけないような海洋生物との出会いの場となる。特に干潟で主役となるのは、砂泥の地下に巣穴を掘って暮らす、甲殻類、環形動物、棘皮動物、腕足動物、半索動物といった多種多様な底生生物である。面白いことに、これら底生生物の巣穴の壁面や体の表面には、居候する微小な生物(共生貝類や共生甲殻類、共生多毛類など)がしばしば観察される。このような住み場所の提供を介した共生関係は「住み込み共生」と呼ばれ、干潟の砂泥底で特に多く見られる共生の型である。近年、奄美大島の干潟から新たな住み込み共生の例が続々と発見・報告されている。
 本発表では、最新の研究の知見も交えながら、奄美大島の干潟の底生生物やそれらの生物が織りなす共生関係について紹介し、内湾環境の豊かな生物多様性を俯瞰する予定である。




『砂泥底で生きるための戦略:奄美大島の内湾の海底で見つかる生き物たち』

 藤井琢磨(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)

 周囲を陸に囲まれた閉鎖的な海域:内湾環境では、海底の多くを不安定な砂泥底が占め、流入河川などの影響によって濁りがちであるなど、特に固着生物の生息には必ずしも適した環境ではないように思われる。しかし近年、奄美大島沿岸では、この内湾環境から多くの新発見が得られている。“海底のミステリーサークル”を作る新種魚類のアマミホシゾラフグが大島海峡で発見され、世界的に報じられたことは記憶に新しい。砂泥底に特化した特異な自由生活性サンゴであるスツボサンゴおよびムシノスチョウジガイの群棲も複数地点で見つかっている。自然下において、その生態を観察できる場所は少ない。さらに、上記2種にのみ共生するヤドカリの新種も発見された。その他、世界的にも報告例の少ない有藻性サンゴ類の北限ならびに国内初記録など、さまざまな生物での新発見が得られている。これら内湾環境に特異的ともいえる生物たちは、非常に多様な姿かたち、生態を示す。ひとえに内湾環境と言えども様々に異なる小環境が存在している。例えば、底砂の粒径や材質など細かい環境条件によって生息するナマコの種が異なることもわかってきた。
 奄美大島沿岸の内湾環境から新たに見つかった生き物たちの一部は、レジャーダイビングの名物など、地域資源としても期待が高まりつつある。本発表では、奄美大島の内湾潮下帯で見られる特異な生き物たちを、近年発表された新発見を中心に紹介する。




『沖縄島中城湾における1970年代から2018年にかけてのサンゴ類多様性の変遷について』

*James Davis Reimer(琉球大学理工学研究科/琉球大学熱帯生物圏研究センター)
 山極広孝(琉球大学理工学研究科)

 近年、地球温暖化にともなう海水温の上昇によるサンゴの白化や病気の発生、沿岸開発、人間活動にともなう水質汚染などにより、サンゴ礁の衰退が世界的に問題となっている。沖縄島の中城湾では、沿岸の開発や泡瀬港埋め立てにともなう濁りの増加、水質汚濁など、海中環境の人為撹乱が多く見られる。しかし、中城湾におけるサンゴ類の多様性調査は過去40年以上にわたって実施されていない。
 そこで、1975年~1976年に行われた調査と同地点で調査を行い、過去43年間で中城湾におけるサンゴ類の多様性がどのように変化してきたのかを明らかにした。調査は、2018年6月から10月にかけて中城湾の16地点でスキューバおよび素潜りによって行った。群体型状別の群体数比較では、枝状サンゴが減少し、被覆性サンゴや塊状サンゴが増加していた。サンゴ類の生息水深は、高水温や強い紫外線にさらされると深くなり、濁度が高くなると光を求めて浅場に移行することが知られている。得られた結果の属ごとの平均生息水深を比較すると、水深の浅い場所にいた属は深い場所に移行し、深い場所にいた属は浅い場所に移行していることなど、“reef compression(生息環境の縮小)”が見られた。中城湾では、過去45年間に海面水温の上昇や濁度の上昇などの環境変化が起こり、それにともなって湾内のサンゴ礁生態系の構成が劇的に変化していると考えられる。沖縄島中城湾での研究例は、琉球列島の内湾環境の生物多様性を維持・保全していくための重要な教訓となる。




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