国際島嶼教育研究センター
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島嶼研シンポジウム
「船で生きる人びと ―漁労・水上居民・移民船―」
日時:平成30年10月14日(日)13:00~17:30
会場:鹿児島大学総合教育研究棟203号室
中継:国際島嶼教育研究センター奄美分室
主催:鹿児島大学国際島嶼教育研究センター
参加費:無料

プログラム   ・要旨


●要旨

『台湾東海岸における船と漁民 ―移動と権力に注目して―』

西村一之(日本女子大学人間社会学部)

 本報告では、台湾東海岸に位置する港町の漁民と彼らが乗り働く漁船に注目する。日本統治期、この町には漁港が作られ、日本漁業移民が暮らすコミュニティがあった。そして、漢民族と先住民族が、日本人漁民が持つ船に乗り一緒に漁撈を行った。戦後、日本人漁民によって伝えられた漁法が、台湾漁民に広がり、それをきっかけとして沿岸漁業が盛んになる。台湾南部や離島から多くの漢民族漁民が移住し、町の人口は増え、漁船の数も増えた。1990年代より、人手不足を背景に台湾の外から漁業労働者が入っている。現在、大陸中国、インドネシア、フィリピン、ベトナムから来る出稼ぎ者無しに、この地の漁業は成り立たない。当初は、中国人が多く働きに来ていたが、現在は大きく減少している。代わってインドネシアから来る労働者が多い。中国人のほとんどは、閩南系漢民族で、この町の漢民族と言語コミュニケーションが可能である。彼らは政治的理由により陸上での行動に自由がない。インドネシア人は、中部ジャワの漁村出身が多く、イスラム教徒である。この港町で働く台湾の外から来る漁業労働者は、みな港に係留された船で寝泊まりする生活を送っている。中には、複数のエスニックグループからなる船員によって操業が行われ、船での生活を共にしている。その姿からは、政治的に対立する台湾と中国の関係、大きな格差がある東南アジアとの経済状況をうかがうことができる。




『定住本位社会で船に住まいつづけること
          ―複数の管理システムを生きる中国福建南部の連家船漁民―』

藤川美代子(南山大学人類学研究所)

 世界の遊動民と同様、中国の船上生活者もまた、国家により網の目のごとく張り巡らされた複数の管理システムが交錯する定住本位型の現代社会を生きている。本発表は福建南部の連家船漁民に注目し、定住用家屋の獲得を渇望する一方で船に住まいつづけるという一見矛盾に満ちた彼らの日常から、「遊動民的身構え」とも呼び得る生き方を描き出すことを目指す。
 遊動民研究に膾炙する「自由な移動を求める遊動民/土地への囲い込みと管理を強制する国家」との図式とは裏腹に、連家船漁民が1960年代にはじまる「定住化」に託したのは貧困や生命の危険といった、船に住まい漁撈に従事することが不可避に生み出すと考えられる不確実性の克服と、陸上定住者と同等の未来の獲得であった。しかし、その「定住化」は、連家船漁民にとって想定外ともいえる新たな不確実性を生み出してもいる。彼ら自身は明言しないが、その最たるものが生活・生業空間を陸上に限定すること、まさに「定住化」そのものであり、多くの家庭では水陸に社会関係を構築しながら水上にも生存空間を開いておく努力がなされる。
 一方、水陸にまたがる彼らの生活は、経済効果・美化を重視する都市化計画や、海洋保護・治安維持・国防を企図した国家のリスク管理政策により、家屋からの強制立ち退きや航行の厳しい制限という状況にも直面している。船に住まう連家船漁民の日常生活からは、細部で日々変化する国家の管理システムについて、どの一線を越えると自らが窮地に陥るのかを注意深く見極めながら、動きつづける船で河・海という不確実性に富んだ自然にその身を任せ、窮屈な管理社会を斜に構えて見やるという態度が導かれる。



『文明化の時空間としての南米行き移民船
                ―戦間期の日本~ブラジル航海を中心に―』

根川幸男(国際日本文化研究センター)

 1908年の笠戸丸からはじまった日本からブラジルへの移民は、地球を半周するという、距離約2万キロ、36~70日間にわたる長い旅であった。ブラジルへの移民船送出は、太平洋戦争による中断をはさんで、1973年まで続いたが、戦間期の特に1930年代前半が全盛期であった。1933年には、実に24航海、約2万5000人の日本人がブラジルに渡航したのである。
 本発表では、まず、こうした移民船による日本~ブラジル間の航海を、移民船客を教育し啓蒙する「文明化の時空間」と捉え、移民たちの旅の実態について紹介する。次に、航海について記した日誌や船内新聞、古写真など、いく点かの史資料を提示しつつ、それらの「文明化の時空間」に生じる、次のようなブラジル行き移民船の性格と役割について明らかにしたい。
①日本の庶民が集団で体験した史上最長の海の旅
②日本の庶民の文明化の時空間:服装から洋食まで「一等国民」となる教育、温帯から熱帯の自然・気候と寄港地の風俗や異文化(言語)の体験、外国人船客・現地人との接触、自己と世界観を再編するコンタクトゾーン
 こうした「文明化の時空間」としてのブラジル/南米行き移民船とその航海の実態に迫ることによって、「顔の見えるグローバルヒストリー」記述の可能性を考えてみたい。





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