2007年2月3日(土)多島域フォーラム・国際シンポジウム「気候変化とグローバリゼーション
−南太平洋島嶼域における環境と人々の生活−」
13時30分〜
場所:鹿児島大学 稲盛会館
[要旨]
多くの科学者が地球表面の温度が過去100年間に0.5℃上昇していることを指摘しており、また、ここ数十年間では過去に例がないほど急激な上昇率を示している。この地球温暖化は地球規模で深刻な問題になっており、このままでは、やがて北極の氷も溶けることが予測されるなど、我々の日常生活に大きな影響を与えつつある。これは、特に化石燃料の過剰使用や森林の伐採等が大きな原因と考えられているが、この影響を最も早く、また、深刻に受けているのが太平洋の島々である。また、人々の経済活動が全地球的な規模に広がるにつれ、これまで伝統的な生活スタイルを保ってきた同地域でも、いわゆるグローバリゼーションの影響も大きく受けるようになってきた。
このシンポジウムでは、太平洋島嶼域を中心に、地球温暖化やグローバリゼーションにより引き起こされている現状と課題について明らかにし、日本やその他の先進国も含めた国々の取るべき方法について議論する予定である。
13:30 開会挨拶:
13:35 趣旨説明: 桑原季雄 (鹿児島大学)
13:45 太平洋の島々における, 気候の変化と海面上昇への備え
ジョエリ・ベイタヤキ (南太平洋大学 フィジー・鹿児島大学)
14:10 温暖化した世界における熱帯サイクロンの動き:
マーク・ランダー (グアム大学 アメリカ)
14:35 チューク環礁小島嶼の持続可能性リスク -気候変動とグローバリゼーション-
長嶋俊介 (鹿児島大学)
15:00 台風の被害に備えて: 気候変化がミクロネシア島嶼の相互関係及び人々の移動に与える影響
ドナルド・ルービンシュタイン (グアム大学)
15:25 韓国南太平洋研究センターと地域社会への影響
ヘウン・シク・パク (韓国海洋開発研究所)
15:50 Coffee
16:05 総合討論 司会: 桑原季雄・日高哲志(鹿児島大学)
16:50 閉会挨拶:冨永茂人 (鹿児島大学)
関連サイト
太平洋の島々における、気候の変化と海面上昇への備え
ジョエリ・ベイタヤキ (南太平洋大学・フィジー:鹿児島大学)
気候変化や海面上昇はもはや未来の出来事ではない。それらの現象は現実に起こりつつあり、その解決のためには人々のさらなる協力が必要とされている。太平洋の島々は、これら気候の変化や海面上昇の原因としてはほとんど無関係であるにもかかわらず、より深刻な影響を受けている。また、これらの現象に対する備えもほとんどないため、その最初の被害者となろうとしている。さらに言えば、これらの島々は小さく、また、資源もほとんどないため、その対策もほとんど限られている。
しかし、これら小さな島々に住む人々は、長い世代に渡って蓄積された豊富な経験を持っており、気候の変化や海面上昇などの問題の解決のための何らかの有効な答えを発見できると思われる。この講演では、これらの現象への備えとして、いくつかの解決策について検討したい。
まず、気候の変化や海面上昇が起こる世界で生き抜いていくための戦略について検討したい。革新的な方法や計画、戦略は、これらの現象に対処する人々の能力にも影響を与えると思われる。気候の変化や海面上昇に備えるための戦略は、これらの島々にとって適切なものでなければならず、すなわち、解決策はこれら小さな島々から生み出されてくるものでなければならない。具体的な方法としては、海岸線の防護や土地の利用法、生活様式、水産業などの改良、あるいはコミュニティレベルにおける持続的生活様式や新しい作物あるいは品種等の導入などが考えられる。
温暖化した地球における熱帯サイクロンの動き
マーク・ランダー (グアム大学・アメリカ)
ここ数十年の間に、熱帯の多くの海の表面温度が0.25〜0.5℃上昇した。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、過去50年間における地球表面の平均気温の上昇は、温室効果ガスの増加が最大の原因であるという。世界気象機関(WMO)が主催した第6回熱帯サイクロンワークショップ(IWTC6)では、気候の変化と熱帯サイクロンの関係に関する声明が発表されている。
ここ10年間に多数の大型熱帯サイクロンが出現した。2004年、日本に10個の台風が上陸し、2005年、クック諸島は、5週間に5個の熱帯サイクロンに襲われた。その他、2004年にマダガスカルを襲ったサイクロン「ガフィーロ」や2006年にオーストラリアを襲った「ラリー」があり、2004年には南大西洋で初めてハリケーンが発生している。また、2004年と2005年は北大西洋で多くの熱帯ハリケーンが発生した年であり、ハリケーン「カトリーナ」が引き起こした人的経済的被害は甚大なものとなった。
前述したIWTC6で発表された声明は、気候の変化が熱帯サイクロンに及ぼす影響に関する、最新の指標や考え方を含めた総合的なものである。声明では、その中で、新聞などのメディアや一般の人々からよく質問される以下の問題についても言及している。すなわち、
温暖化すると、熱帯サイクロンに影響される地域や熱帯サイクロンの発生数は増加するのか?
温暖化すると、熱帯サイクロンの勢力は強くなるのか?
温暖化すると、熱帯サイクロンが発生する海域は増加するのか?
温暖化すると、熱帯サイクロンはその勢力をさらに高緯度の地域まで維持し続けるのか?
すでに気候の変化の影響は熱帯サイクロンの動きに現れているのか?
本講演では、過去30〜40年に渡る熱帯サイクロンの動きについて詳述するとともに、温暖化した地球での熱帯サイクロンの動きについて論議する。また、気候の変化と熱帯サイクロンの動きとの関連についてのIWTC6の声明の中身について述べるとともに、声明で述べられている今後の見通しについても十分に検討したい。
チューク環礁小島嶼の持続可能性リスク
- 気候変動とグローバリゼーション -
長嶋俊介(鹿児島大学)
太平洋環礁域は環境変動の嵐にさらされている。グローバリゼーションと気候変動である。ミクロネシア地域は1970年代の米国との自由連合協定以降、現金経済化が加速化して、生産構造と分離した消費先行経済社会が展開して、その定着化が地域生活経済の持続可能性に危機的な影響を及ぼしている。米食・小麦食・輸入肉食・同加工品・缶詰魚食の浸透は、それより長い歴史性を持ちつつ、生存経済構造を根底から揺るがし続けている。これにグローバリゼーションの「競争」化が厳しい試練を突きつけている。より廉価に輸入され、高付加価値産品を持たないこの地域の、生産・消費分離構造はますます加速化されていく。地域経済はMIRAB(移民・送金収入・援助・官僚経済)構造に走りつつ久しいが、その中で人の移動は加速化し、現金経済・消費先行型経済は益々進んでおり、その資金源であった連合協定資金の減額化の中で、展望を持ちがたい危機を迎えている。
展望を得るとしたら、隔絶・環海・狭小性の是正である。時代は変わりつつある。地球の1/3をしめる大海原の「距離の暴虐」克服には情報化と高速移動手段の発達、「Small is beautiful」「Slow Life」の見直し、個性ある文化振興、海洋性の発揚・再生、情報化リンク・EEZ入漁料・観光振興・バイオ産品開発等が、彼らの希望であり、未来である。しかし、それへの橋渡しは「持続可能性「の尺度での十分条件的基盤充実を前提にしなければならない。「生存経済ベースの生命系経済」振興以外にあり得ない。それへの危機意識・問題意識も「対策」として結実していない。
その生存・生産基盤崩壊はさらに気候変動で促進化されつつある。地球温暖化の海水面上昇問題(その平均値認識的無理解)だけではない。現実問題としての、エルニーニョ(高温干害の持続・海水面の著しい一時的低下の重なった珊瑚壊滅被害・海焼け)による陸上・海面生物破壊、ラニー二ァ(海水面の著しい一時的上昇)による塩害被害、強力台風の増大、その暴風雨・高潮の重なりによる被害の甚大化、都市化・構造部・高潮による海砂移動と減少(外洋深海構造)、高潮頻度の増大と水位上昇による淡水レンズ希薄化、による植生衰退の趨勢展望がもたらす社会不安・生存条件不安である。
これらの実態について、チューク環礁縁辺部小島嶼と中央部小島嶼の実態調査を行った。その概要は、まさに上記内容の個別的具体事例群であった。米国型ライフスタイルの変化は、文化基盤に浸透するのみではなく消費先行型の経済構造にも強い影響を及ぼしている。ビジネス機会の欠如での、現金経済獲得機会は、ハワイ・グアム・米国本土への移民を促進している。生産基盤崩壊は、人口圧を下げる対応で乗り切るしかない。また国際経済の変動は、移入価格への敏感な「生活行動調整反応」としても具現化する。例えば石油価格高騰は、出漁範囲調整・リスク高い移動での漂流頻発などである。極端にやすい輸入米はグアム米(再梱包)として売られ、「芋腹の生活文化」での健全性保持を、健康面(部分食・肥満)・家計面・生産構造(基盤)面で崩壊に導き続けている。この変化の持続の上にどのような未来設計があり得るのか。現世代に危機感が存在していることが唯一の展望であった。
学問的に関心が在るのは、@持続可能性の危機の臨海点(critical point)を、学問的に(それぞれの分野で)提示(定義・基準・対策)できるかどうか、またその総合的整理は可能かどうか(以前マルタのリノ教授 Lino BriguglioがEconomic Vulnerability を示したが、外形的な指標だけでは対策が見えてこない。GEO(Group on Earth Observations)による統合観察を巡る試みに呼応しつつ、ミクロ次元・生活次元からの島嶼内統合的研究が必要である。諸島民自身の健全な発展とその未来構想に耐えられるものでなければならない。5Ware-5Hierarchy, 3Life ModelとSocial Risk Management Procedureでの検討がそのGlobalization+ Climate Changeへの対抗力たり得るかの検討が課題である→AがさらにそのDevelopment Passの検証), A伝統回帰ではなく、未来志向的に「生命系の経済(第1層エコ経済、第2層対人的活動経済、第3層市場・政府経済)」の間のバランスで、太平洋小島嶼、特に離島が世界モデルを構築できるか。(モデルとその具体内容の提示可能性チェックをしてみる。) B消費者教育・環境教育的に「海進危機」「地球異常気象」の人為原因に対して、どう熱帯太平洋・極地海岸島嶼域「理解」が、力を発揮できるかに関して、国際政治的(国連・国際連携等)・科学技術的(モニタリングと予測・シュミレーション)に加えた第3の柱であり得る可能性についても、考えてみる必要がある。%ルール的移転と対策、原因物質削減、観測とエビデンス報道などの具体策に対して、教育の果たしうる役割の対比論である。Cそれらの上での島嶼域の国策的ビジョンとしての、脱MIRAB戦略の練り直しは、Traditional + Modernization + Globalization + Sustainability + Collaboration + Empowermentで十分条件であり得るのかどうか。その内容に盛り込むべきもの具体的内容である。 D特に、21世紀末の+88cm海進シナリオは、これら対応・対策に耐えられない問題を残している。それら不安と対策の社会モデルに関する研究上の課題と見通しまで、論じておく必要がある。その鍵は、社会的意志決定である。従来のパシフィックウエーに加えるべき知・理念・手法を考える。
台風の被害に備えて:
気候変化がミクロネシア島嶼の相互関係及び人々の移動に与える影響
ドナルド・ルービンシュタイン (グアム大学・アメリカ)
太平洋の島々に住む人々は、気候の変化と人々の生活が密接に関係していることを良く知っている。多くのミクロネシアの人々、特に海抜1、2mしかない環礁に住む人々は、干ばつ、台風、海面の変化といったことに数千年前の定着当初からそれらの状況に適応しようと努めてきた。また、それら気候の変化に適応するために、それぞれの小さな島々の共同体が相互に助け合うための大きな共同体を構成するという文化的な戦略もある。海抜の低い珊瑚礁の島々は、突然、あるいは次第に変化する気候には特に脆弱であり、共同体同士が助け合うというネットワークを作ってきたのである。特に、海抜の高い火山島からなる島々はそれらの危険に対して海抜の低い島々ほどには大きな影響を受けない。そこで、海抜の高い島々がその周囲の海抜の低い島々と政治的にも結びつき、台風や洪水時の避難先として、また援助の手を差し伸べるという役割を果たしてきたのである。
ミクロネシアで見てみると、ヤップとその外側の島々が、海抜の高い島とその周囲に広がる珊瑚礁の低海抜の島々とで構成される大規模なネットワークを構成している。西太平洋における台風の通り道にあるため、ヤップの低海抜の島々はミクロネシア内では台風や気候の変化に最も弱い島々である。数百年前、ヤップは、「ヤップ帝国」として、その主島の村の支配層がその周囲の島々を支配下に治めるという形態を取っていた。周囲の島々に住む人々は、主島の酋長達に貢ぎ物を納め、台風時にはその援助を受けるという関係を保ってきたのである。
ごく近年になって、その関係に新しい出来事が認められるようになった。すなわち、周囲の島々の人々は、酋長達との伝統的な関係を利用して、ヤップに移り住むようになったのである。過去5年間で、3ヶ所に新しい移住地が形成された。人々はそこに住宅を建設し、庭を作っているのである。これには多くの要因が関わっていると思われるが、一つは太平洋全域に認められるグローバリゼーションや都市化といった傾向である。もちろん、彼らが元々住んでいた環礁の島々は、海抜が低く、気候の変化の影響をもろに受けるということが最大の原因であることはいうまでもない。気候の変化という問題について、太平洋の島々に住む人々すべてが理解しているとは言えないが、教育を受けている共同体のリーダー達はこれによる長期的な被害についても認識しており、周囲の島々からの移住者のために大きな努力を払っているのである。
The KoreaミSouth Pacific Ocean Research Center and its Effect on the Local Community
Charity M. Lee (Korea Ocean Research and Development Institute)
The KoreaミSouth Pacific Ocean Research Center (KSORC) was established on 30 May 2000 on a small island located within the Chuuk Lagoon of the Federated States of Micronesia according to a Memorandum of Understanding signed between the Chuuk State government and the Korea Ocean Research and Development Institute (KORDI). Establishing a research station in an unfamiliar research territory of a tropical region, in which KORDI had to begin under very difficult economic and institutional circumstances, was a great challenge. However, with full support from the Chuuk State government and the local community, and with great enthusiasm and sacrifices from several KORDI researchers, KSORC currently has 20 local employees involved in various research and maintenance activities. Locally, both the government and the general public expect to gain economic assistance, as well as scientific knowledge, from KSORC activities. KSORC is responding to such expectations by conducting ocean research projects that may help the local economy, such as the development of full life-cycle black pearl production and other bio-resources development projects. Also, to respond to immediate concerns of island nations, oceanographic studies and a monitoring system have been initiated as KSORCユs first and foremost objective since its establishment to understand the process of tropical ecosystems and provide essential scientific knowledge and baseline data needed to understand regional effects of climate change. Such continuous monitoring of ecosystems, as well as biodiversity surveys and coral monitoring, will eventually help to better understand the changes observed in Korean waters. Although the monitoring and periodic oceanographic process studies are still conducted on a small and infrequent scale due to funding issues, we are optimistic regarding the development of more active future global change studies on topics such as ocean acidification, sea level rise, coral monitoring, nitrogen cycling, new production and primary production, mangrove and seagrass eco-environmental processes, remote sensing, and tropical ecosystem studies.