国際島嶼教育研究センター
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研究会などの記録 
2007年(多島研)

  • 2007年12月3日(月)第84回 多島圏研究センター研究会
    九州南方の火山島
    小林哲夫(鹿児島大学 理学部 地球環境科学科)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 九州南方の離島の火山は,琉球海溝にそって,南北1000 kmにわたり点在している.その火山列の背後の海底には沖縄トラフという地溝状の陥没地形がつらなり,深海での噴気活動も確認されている.離島の火山としては,北から鬼界カルデラ(薩摩硫黄岳と稲村岳,さらに1934・35年の海底噴火で出現した昭和硫黄島),口永良部島,口之島,中之島,諏訪之瀬島,悪石島,横当島,硫黄鳥島,さらに西表島の沖合にも海底火山が存在する.これら火山は火山地形,噴火様式等も互いに異なっている.岩石の大半は輝石安山岩であるが,鬼界カルデラでは流紋岩と玄武岩という両極の岩石が産出する.また口之島は角閃石安山岩が卓越する.大規模なカルデラ火山としては鬼界カルデラと横当島カルデラ(仮称)がある.今回はこれら火山の概略を紹介し,特に2つの火山,鬼界カルデラと硫黄鳥島の噴火史について紹介する.

  • 2007年11月26日(月)第83回 多島圏研究センター研究会
    タイ法システムに対するモン族の適応戦略
    宮原 千周(都城工業高等専門学校)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 18世紀以降タイ北部に移住した山地民に対し、当初不干渉の姿勢を示して いたタイ政府は、1950年代以降、山地民の活動に法的な制限を加えるようにな る。その結果、山地民自身もまた、自らの伝統的な慣習を、タイの法制度に合わ せて変えていくようになった。具体的にはリーダーの選出方法の変更、離婚の際の 女性の主張、新しい作物への転作などである。本報告は、2004年に発表した論 文をもとにして、2007年度夏に行った調査結果をふまえ、タイ北部の白モン族の 伝統的リーダーによる紛争解決の変化を通して、山地民がタイ国の法制度という 新しい環境へと自らの紛争処理システムを適応させていった過程を明らかにする。

  • 2007年11月1日(木)第82回 多島圏研究センター研究会
    今日のブルターニュの伝統音楽におけるワールドミュージックの影響
    Yves Defrance(レンヌ第二大学、民族音楽学者)
    1 6時30分 総合教育研究棟5階

    「「要旨」 ブルターニュ音楽は西ヨーロッパの伝統音楽のなかで、いま最も活気がある音楽です。ブルターニュの人口は400万人ほどですが、演奏者の数は2万人にも上り、そのうちかなりの人がプロの音楽家です。この成功を可能にしたのは、多様な現代生活にも上手く適応し、外来のメロディーやリズムを外来の楽器で演奏することも厭わないフレキシビリティーの高さです。ブルターニュ文化の基底にある要素を変えることなく、20世紀後半を通じて、この地方の音楽家たちは外部からさまざまな音楽的要素を借りてきました。そこにはスコットランドやアイルランドなどのケルト圏の諸地域はもちろん、北アフリカ、黒アフリカ、仏領西インド諸島、中東あるいはインドの音楽的伝統も含まれています。今日は実際に音や映像を見ていただきながら、これまでのブルターニュ音楽の進展と現在の展開を概観してみたいと思います。

  • 2007年10月20日(月)多島域フォーラム・シンポジウム「闘牛ネットワークと周辺-周辺」
    日時:平成19年10月20日(土)13:00〜17:00
    会場:鹿児島大学大学院連合農学研究科3階会議室

    「趣旨」 闘牛というと、世界的に知られているのは人と牛が対戦するスペインの闘牛であるが、東アジアを中心に盛んに行われてきたのは牛と牛が闘う闘牛である。中でも、日本のいわゆる周辺地域においては、それぞれの地域に根ざした闘牛文化が存在し、近年、闘牛の観光化が進んで闘牛場も整備され益々盛んになりつつある。
    日本の闘牛の特徴は、これら闘牛開催地同士が連携して闘牛サミットを開催するなど、緊密な関係を結びつつあるということである。こうした現象は、世界にも例をみない日本独自の新しい現象であり、社会のグローバル化が進展する中で注目に値するが、これまでこうした現象を学問的に捉える試みはほとんど行われてこなかった。本シンポジウムは、闘牛に関する全国で初めて学問的なシンポジウムである。日本の周辺地域で展開している極めてユニークな文化現象である闘牛を題材として、「周辺―周辺」ネットワーク、つまり大都市などの既存の「中心」を媒介としない社会的ネットワーク構築という視角から、グローバル化時代における地域社会の文化状況について考えてみたい。なお、当日はテレビ会議装置を利用して、鹿児島大学奄美サテライト教室徳之島分室からも討論に参加する予定である。

    1)石川菜央(名古屋大学大学院 環境学研究科) 13:05〜13:50頃
    「闘牛を通した全国交流と徳之島」
    2)大本敬久(愛媛県歴史文化博物館主任学芸員) 13:50〜14:35頃
    「闘牛ネットワークと周辺-周辺」「牛をめぐる民俗と地域差」
    3)大久保明(伊仙町長)            14:45〜15:30頃
    「自治体と闘牛サミット」
    4)尾崎孝宏・西村明(鹿児島大学法文学部)   15:30〜16:00頃
    「闘牛と「周辺―周辺」ネットワークの形成」
    総合討論                   15:30〜16:00頃

  • 2007年9月10日(月)第81回 多島圏研究センター研究会
    竹の焼畑ー竹の再生力を生かした持続可能な焼畑ー
    川野 和昭(鹿児島県歴史資料センター黎明館・学芸課長)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 中尾佐助や佐々木高明を中心とした「照葉樹林文化論」に「竹」に対する眼差しが注がれなかったのは不幸なことであった。彼らが照葉樹林帯と規定した地域は、同時に竹を重要視する焼畑が存在する地域でもあり、竹は正しく照葉樹の一つとして認識されるべきであり、ラオス北部の焼畑民はその眼差しで竹の森を理解していると言ってよい。
     ここでは、彼らの焼畑を竹という側面に焦点を絞り、対象とする森と竹と水、森の伐採の禁忌と水、竹と焼畑作物、稲種の逃亡・復活と竹、森の再生と竹に関する伝統的技術について、南九州とラオス北部山岳地帯の焼畑民の文化を比較してみたい。そのことをとおして、そこに竹の再生力を生かした持続可能な焼畑として、「竹の焼畑」と呼びうる伝統的な技術が存在することを明らかにしていきたい。
     また、そのことがこれからの緑の地球の再生を考える上で、人と森との関わり方のモデルを示すことにつながっていくという見通しも示してみたい。

  • 2007年7月23日(月)第80回 多島圏研究センター研究会
    地域診断手法としてのフォトボイスの応用
    波多野 浩道(鹿児島大学医学部保健学科)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 本研究の目的はPhotovoiceの地域診断への応用可能性を明らかにすることである。
    1) アセスメントするテーマにより映像化の難易に違いがあるか、対象とする集団の特性により、必要な工夫に違いがあるか。
    2) Photovoiceを他のアプローチと組み合わせて用い、Photovoiceの 信頼性・妥当性、手法としての可能性を明らかにすること。
    対象地域として群島主島、群島属島の5集落を選定した。対象者は,小学生とその保護者を主とする成人とした。
    データ収集方法は、・物語のついた写真の収集、・撮影された写真のグループ討議である。 
    グループ討議には研究者が外部ファシリテーターとして参加した。尚、学内倫理審査委員会に実施計画を諮り,非該当と判定された。アクションリサーチの結果, 有効性については、Photovoiceの3段階の目標の達成度で評価したが、一部課題に取り組みつつある段階( 第2段階)の集落もあったが、意見の共有化を図れたにすぎない段階(第1段階)の集落もあった。課題1のアセスメントするテーマについては、学童の場合、テーマにより映像化の難易に違いがあった。集団により違いがあったが、どのような特性による差異なのかは解明できなかった。
    課題2については、Photovoiceをグループ討議に用いて検討した。 家庭学級、老人クラブ、公民館講座にて、Community Meetingを、収集したPhotovoiceを用いて行なった。研究者によるWindshield Surveyと、住民のPhotovoiceでのグループ討議の結果は近似しており、妥当性が一部実証された。Photovoiceは地域診断方法論の開発・発展に貢献するものと考える。

  • 2007年6月25日(月)第79回 多島圏研究センター研究会
    約半世紀、奄美シマウタの変容
    小川学夫
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 奄美で開かれるシマウタ大会では、今も昔も2人のウタシャが舞台に並んで出ることがほとんどである。だからといって、唄のすすめられかたが同じだということにはならない。今は、多くの場合、1人のウタシャ(歌い手)がある曲を歌えば、もう一人はハヤシ部分だけを歌うという形をとる。主役のウタシャがサンシン(三味線)を弾かない場合だけ、ハヤシ方が弾き手を兼ねることになる。
    私の印象だと、20年くらい前まではそうではなかった。ペアーで舞台に出ることは同じなのだが、2人は男女であることが多く、かつ同等の立場であって、一節づつではあるが、唄の掛け合い(唄問答)をするのが普通だった。
    それが、今のように1人が歌えば、もう1人がハヤシをするだけでその曲が終わり、次の唄に移るという形が主流になった。これはどういう理由によるものだろう。
    1つは、シマウタの基本が唄掛けであることをほとんど忘れたことである。もう1つは、ウタシャ1人1人があまりに個性的な唄を目指したために、2人が同じメロディーや、リズム、テンポ、同一のピッチで歌うことが難しくなったことだ。
    この1例をみても、シマウタが近代化の道を歩んできたことが理解いただけると思う。
    45年ほどシマウタとつきあってきたひとりとして、シマウタが変容してきた諸々の事象を紹介してみたい。

  • 2007年5月22日(月)第78回 多島圏研究センター研究会
    インド・太平洋域におけるスズキ目ツバメコノシロ科魚類の分類学的研究
    本村浩之(鹿児島大学総合研究博物館)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 ツバメコノシロ科魚類は全世界の熱帯から温帯域の海水、汽水、および淡水域に広く分布するスズキ目の1科である。全長2 mに達する大型種も知られており、特に南アジアと東南アジアでは重要なタンパク源として、年間10万トン以上が漁獲されている。そのため、これまでに多くの資源学的研究が行われてきたが、それらの報告のほとんど全てが、複数種が混在されていたり、誤同定に基づいていた。このような背景のもと、本科魚類の分類学的研究は、国連食料農業機関によって急務であると指摘されていた。
    また、本科魚類は水産上重要種であるばかりでなく、一部の種は性転換すること、胸鰭遊離軟条によって特異的な索餌行動をとること、鰾に側突起が存在し筋肉と鰾を連絡していることなど、魚類学上でも極めて興味深い分類群である。
    私は1998年から2001年の4年間を中心に、特に分類学的に混乱していたインド・太平洋域に生息する本科魚類の研究を行い、1新属、7新種、1新亜種の発見を含む6属33種を有効種として認めた。今回の研究会では、インド・太平洋産6属(Eleutheronema, Filimanus, Leptomelanosoma, Parapolynemus, Polydactylus, Polynemus)のうち、Eleutheronema, Leptomelanosoma, Polydactylus, およびPolynemusの4属に重点をおき、各属からいくつかの種を紹介するとともに、各種の分布とその意味,種内変異,成長に伴う形態的変化、性転換、種分化の仮説、形態の機能的役割、摂餌行動なども解説し、ツバメコノシロ科魚類の多様性を探りたい。

  • 2007年4月16日(月)第77回 多島圏研究センター研究会
    小さな島から世界へ:中世アイルランド「聖人」の活動
    田中真理 (鹿児島県立短期大学 文学科)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 7世紀から12世紀までの中世初期はアイルランドにとって「黄金時代」と称される。ローマ帝国の支配を受けることのなかったこの辺境の島は5世紀にキリスト教の宣教を受け入れる。中央集権的な政治体系を持たなかったがゆえに文化の中心は王宮ではなく、各地に建てられた修道院を中心として、独特のキリスト教文化を花開かせ、「聖人の島」としてヨーロッパ各地に知られた。比較的平和的に改宗が進んだアイルランドでは、殉教聖人は皆無で殆どが修道院設立の功を称えられた「創設聖人」で、『聖人録』に記録された聖人の数は現存する修道院跡をはるかに上回り、「聖人の島」と呼ばれただけのことはある。しかしアイルランドを「聖人の島」にしたのは、これらの国内の修道院文化だけではない。修道士たちの熱意は国内での活動に飽き足らず、次々と海を越えて民族大移動の混乱の渦中にあるヨーロッパ大陸に向けて漕ぎ出し、そのキリスト教文化と宣教活動を逆輸出し始めたのである。かくして大陸の各地に、アイルランド人修道士によって創設された修道院や教会、その付属施設がいくつも誕生し、一定のステータスを確保するまでになる。旅行そのものが困難な時代に、小さな島の人間が行ったグローバル(中世的な意味での)な活動には驚かされるが、同時に海外に出たアイルランド人修道士同士の同朋意識の存在も興味深い。

  • 2007年3月5日(月)第76回 多島圏研究センター研究会
    「生きている化石」オウムガイの生物学
    塚原潤三(鹿児島大学理学部)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 私が鹿児島大学に赴任したのは1982年4月で、すぐに南方海域研究センターの兼務教官の手続きをした。また、早坂祥三教授を中心とする「オウムガイ研究グループ」に参加させていただき、早速、同年11月10日から約一ヶ月半、水産学部練習船「かごしま丸」による南海研の総合学術調査の一環として、フィジーおよびソロモンのオウムガイの調査に出かけた。それ以来、フィジー(1983)、パプアニューギニア(敬天丸:南海研の総合学術調査)、パラオ(1988,1989)、フィリピン(1992,1993)と、南太平洋の島々でオウムガイのフィールド調査をする機会を得た。
    現生オウムガイは、1属、5種類が知られているが、その生息海域は南西太平洋に限られている。中でもオウムガイ(Nautilus pompilius)は、その生息域が最も広い。生息水深は100m〜500mと幅があり、昼間は岩陰に休んでいるが、夜間は上昇して、餌をとる(Ward,1980)。多くの隔室のある特有の殻をもち、水深に応じて浮力調節をすることが知られている。
    オウムガイは雌雄異体であり、軟体部の最後部に生殖巣がある。卵巣にはいろいろな大きさの卵毋細胞があり、最も発達した卵毋細胞は直径が1,5cmを超え、重さも3g程になる。一方、雄の精巣で作られた精子は、膜に包まれた大きな塊(精包)となり、交接(copulation)によって雌に渡される。飼育実験から、産卵は最も多い場合は、1-2週間に1個ずつ産卵することが分かった。産卵時には卵は固い殻で被われ、窪みに粘着するように産みつけられる。産卵後145日たった卵殻に包まれた胚を取り出して内部構造を調べると、オウムガイの基本的な器官や組織とともに殻の一部が作られており、おそらく幼生が孵化するのは300日程度かかると思われた。

  • 2007年2月3日(土)多島域フォーラム・国際シンポジウム「気候変化とグローバリゼーション −南太平洋島嶼域における環境と人々の生活−」

    13時30分〜
    場所:鹿児島大学 稲盛会館

    [要旨]   多くの科学者が地球表面の温度が過去100年間に0.5℃上昇していることを指摘しており、また、ここ数十年間では過去に例がないほど急激な上昇率を示している。この地球温暖化は地球規模で深刻な問題になっており、このままでは、やがて北極の氷も溶けることが予測されるなど、我々の日常生活に大きな影響を与えつつある。これは、特に化石燃料の過剰使用や森林の伐採等が大きな原因と考えられているが、この影響を最も早く、また、深刻に受けているのが太平洋の島々である。また、人々の経済活動が全地球的な規模に広がるにつれ、これまで伝統的な生活スタイルを保ってきた同地域でも、いわゆるグローバリゼーションの影響も大きく受けるようになってきた。  このシンポジウムでは、太平洋島嶼域を中心に、地球温暖化やグローバリゼーションにより引き起こされている現状と課題について明らかにし、日本やその他の先進国も含めた国々の取るべき方法について議論する予定である。

    13:30 開会挨拶:

    13:35 趣旨説明: 桑原季雄 (鹿児島大学)

    13:45 太平洋の島々における, 気候の変化と海面上昇への備え
    ジョエリ・ベイタヤキ (南太平洋大学 フィジー・鹿児島大学)

    14:10 温暖化した世界における熱帯サイクロンの動き:
    マーク・ランダー (グアム大学 アメリカ)

    14:35 チューク環礁小島嶼の持続可能性リスク -気候変動とグローバリゼーション-
    長嶋俊介 (鹿児島大学)

    15:00 台風の被害に備えて: 気候変化がミクロネシア島嶼の相互関係及び人々の移動に与える影響
    ドナルド・ルービンシュタイン (グアム大学)

    15:25 韓国南太平洋研究センターと地域社会への影響
    ヘウン・シク・パク (韓国海洋開発研究所)

    15:50 Coffee

    16:05 総合討論 司会: 桑原季雄・日高哲志(鹿児島大学)

    16:50 閉会挨拶:冨永茂人 (鹿児島大学) 

    関連サイト

    太平洋の島々における、気候の変化と海面上昇への備え
    ジョエリ・ベイタヤキ (南太平洋大学・フィジー:鹿児島大学)

    気候変化や海面上昇はもはや未来の出来事ではない。それらの現象は現実に起こりつつあり、その解決のためには人々のさらなる協力が必要とされている。太平洋の島々は、これら気候の変化や海面上昇の原因としてはほとんど無関係であるにもかかわらず、より深刻な影響を受けている。また、これらの現象に対する備えもほとんどないため、その最初の被害者となろうとしている。さらに言えば、これらの島々は小さく、また、資源もほとんどないため、その対策もほとんど限られている。
    しかし、これら小さな島々に住む人々は、長い世代に渡って蓄積された豊富な経験を持っており、気候の変化や海面上昇などの問題の解決のための何らかの有効な答えを発見できると思われる。この講演では、これらの現象への備えとして、いくつかの解決策について検討したい。
    まず、気候の変化や海面上昇が起こる世界で生き抜いていくための戦略について検討したい。革新的な方法や計画、戦略は、これらの現象に対処する人々の能力にも影響を与えると思われる。気候の変化や海面上昇に備えるための戦略は、これらの島々にとって適切なものでなければならず、すなわち、解決策はこれら小さな島々から生み出されてくるものでなければならない。具体的な方法としては、海岸線の防護や土地の利用法、生活様式、水産業などの改良、あるいはコミュニティレベルにおける持続的生活様式や新しい作物あるいは品種等の導入などが考えられる。

    温暖化した地球における熱帯サイクロンの動き
    マーク・ランダー (グアム大学・アメリカ)

    ここ数十年の間に、熱帯の多くの海の表面温度が0.25〜0.5℃上昇した。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によると、過去50年間における地球表面の平均気温の上昇は、温室効果ガスの増加が最大の原因であるという。世界気象機関(WMO)が主催した第6回熱帯サイクロンワークショップ(IWTC6)では、気候の変化と熱帯サイクロンの関係に関する声明が発表されている。
    ここ10年間に多数の大型熱帯サイクロンが出現した。2004年、日本に10個の台風が上陸し、2005年、クック諸島は、5週間に5個の熱帯サイクロンに襲われた。その他、2004年にマダガスカルを襲ったサイクロン「ガフィーロ」や2006年にオーストラリアを襲った「ラリー」があり、2004年には南大西洋で初めてハリケーンが発生している。また、2004年と2005年は北大西洋で多くの熱帯ハリケーンが発生した年であり、ハリケーン「カトリーナ」が引き起こした人的経済的被害は甚大なものとなった。
    前述したIWTC6で発表された声明は、気候の変化が熱帯サイクロンに及ぼす影響に関する、最新の指標や考え方を含めた総合的なものである。声明では、その中で、新聞などのメディアや一般の人々からよく質問される以下の問題についても言及している。すなわち、 温暖化すると、熱帯サイクロンに影響される地域や熱帯サイクロンの発生数は増加するのか?
    温暖化すると、熱帯サイクロンの勢力は強くなるのか?
    温暖化すると、熱帯サイクロンが発生する海域は増加するのか?
    温暖化すると、熱帯サイクロンはその勢力をさらに高緯度の地域まで維持し続けるのか?
    すでに気候の変化の影響は熱帯サイクロンの動きに現れているのか?
    本講演では、過去30〜40年に渡る熱帯サイクロンの動きについて詳述するとともに、温暖化した地球での熱帯サイクロンの動きについて論議する。また、気候の変化と熱帯サイクロンの動きとの関連についてのIWTC6の声明の中身について述べるとともに、声明で述べられている今後の見通しについても十分に検討したい。

    チューク環礁小島嶼の持続可能性リスク
    - 気候変動とグローバリゼーション -
    長嶋俊介(鹿児島大学)

     太平洋環礁域は環境変動の嵐にさらされている。グローバリゼーションと気候変動である。ミクロネシア地域は1970年代の米国との自由連合協定以降、現金経済化が加速化して、生産構造と分離した消費先行経済社会が展開して、その定着化が地域生活経済の持続可能性に危機的な影響を及ぼしている。米食・小麦食・輸入肉食・同加工品・缶詰魚食の浸透は、それより長い歴史性を持ちつつ、生存経済構造を根底から揺るがし続けている。これにグローバリゼーションの「競争」化が厳しい試練を突きつけている。より廉価に輸入され、高付加価値産品を持たないこの地域の、生産・消費分離構造はますます加速化されていく。地域経済はMIRAB(移民・送金収入・援助・官僚経済)構造に走りつつ久しいが、その中で人の移動は加速化し、現金経済・消費先行型経済は益々進んでおり、その資金源であった連合協定資金の減額化の中で、展望を持ちがたい危機を迎えている。
     展望を得るとしたら、隔絶・環海・狭小性の是正である。時代は変わりつつある。地球の1/3をしめる大海原の「距離の暴虐」克服には情報化と高速移動手段の発達、「Small is beautiful」「Slow Life」の見直し、個性ある文化振興、海洋性の発揚・再生、情報化リンク・EEZ入漁料・観光振興・バイオ産品開発等が、彼らの希望であり、未来である。しかし、それへの橋渡しは「持続可能性「の尺度での十分条件的基盤充実を前提にしなければならない。「生存経済ベースの生命系経済」振興以外にあり得ない。それへの危機意識・問題意識も「対策」として結実していない。
     その生存・生産基盤崩壊はさらに気候変動で促進化されつつある。地球温暖化の海水面上昇問題(その平均値認識的無理解)だけではない。現実問題としての、エルニーニョ(高温干害の持続・海水面の著しい一時的低下の重なった珊瑚壊滅被害・海焼け)による陸上・海面生物破壊、ラニー二ァ(海水面の著しい一時的上昇)による塩害被害、強力台風の増大、その暴風雨・高潮の重なりによる被害の甚大化、都市化・構造部・高潮による海砂移動と減少(外洋深海構造)、高潮頻度の増大と水位上昇による淡水レンズ希薄化、による植生衰退の趨勢展望がもたらす社会不安・生存条件不安である。
     これらの実態について、チューク環礁縁辺部小島嶼と中央部小島嶼の実態調査を行った。その概要は、まさに上記内容の個別的具体事例群であった。米国型ライフスタイルの変化は、文化基盤に浸透するのみではなく消費先行型の経済構造にも強い影響を及ぼしている。ビジネス機会の欠如での、現金経済獲得機会は、ハワイ・グアム・米国本土への移民を促進している。生産基盤崩壊は、人口圧を下げる対応で乗り切るしかない。また国際経済の変動は、移入価格への敏感な「生活行動調整反応」としても具現化する。例えば石油価格高騰は、出漁範囲調整・リスク高い移動での漂流頻発などである。極端にやすい輸入米はグアム米(再梱包)として売られ、「芋腹の生活文化」での健全性保持を、健康面(部分食・肥満)・家計面・生産構造(基盤)面で崩壊に導き続けている。この変化の持続の上にどのような未来設計があり得るのか。現世代に危機感が存在していることが唯一の展望であった。
     学問的に関心が在るのは、@持続可能性の危機の臨海点(critical point)を、学問的に(それぞれの分野で)提示(定義・基準・対策)できるかどうか、またその総合的整理は可能かどうか(以前マルタのリノ教授 Lino BriguglioがEconomic Vulnerability を示したが、外形的な指標だけでは対策が見えてこない。GEO(Group on Earth Observations)による統合観察を巡る試みに呼応しつつ、ミクロ次元・生活次元からの島嶼内統合的研究が必要である。諸島民自身の健全な発展とその未来構想に耐えられるものでなければならない。5Ware-5Hierarchy, 3Life ModelとSocial Risk Management Procedureでの検討がそのGlobalization+ Climate Changeへの対抗力たり得るかの検討が課題である→AがさらにそのDevelopment Passの検証), A伝統回帰ではなく、未来志向的に「生命系の経済(第1層エコ経済、第2層対人的活動経済、第3層市場・政府経済)」の間のバランスで、太平洋小島嶼、特に離島が世界モデルを構築できるか。(モデルとその具体内容の提示可能性チェックをしてみる。) B消費者教育・環境教育的に「海進危機」「地球異常気象」の人為原因に対して、どう熱帯太平洋・極地海岸島嶼域「理解」が、力を発揮できるかに関して、国際政治的(国連・国際連携等)・科学技術的(モニタリングと予測・シュミレーション)に加えた第3の柱であり得る可能性についても、考えてみる必要がある。%ルール的移転と対策、原因物質削減、観測とエビデンス報道などの具体策に対して、教育の果たしうる役割の対比論である。Cそれらの上での島嶼域の国策的ビジョンとしての、脱MIRAB戦略の練り直しは、Traditional + Modernization + Globalization + Sustainability + Collaboration + Empowermentで十分条件であり得るのかどうか。その内容に盛り込むべきもの具体的内容である。 D特に、21世紀末の+88cm海進シナリオは、これら対応・対策に耐えられない問題を残している。それら不安と対策の社会モデルに関する研究上の課題と見通しまで、論じておく必要がある。その鍵は、社会的意志決定である。従来のパシフィックウエーに加えるべき知・理念・手法を考える。

    台風の被害に備えて: 気候変化がミクロネシア島嶼の相互関係及び人々の移動に与える影響
    ドナルド・ルービンシュタイン (グアム大学・アメリカ)

    太平洋の島々に住む人々は、気候の変化と人々の生活が密接に関係していることを良く知っている。多くのミクロネシアの人々、特に海抜1、2mしかない環礁に住む人々は、干ばつ、台風、海面の変化といったことに数千年前の定着当初からそれらの状況に適応しようと努めてきた。また、それら気候の変化に適応するために、それぞれの小さな島々の共同体が相互に助け合うための大きな共同体を構成するという文化的な戦略もある。海抜の低い珊瑚礁の島々は、突然、あるいは次第に変化する気候には特に脆弱であり、共同体同士が助け合うというネットワークを作ってきたのである。特に、海抜の高い火山島からなる島々はそれらの危険に対して海抜の低い島々ほどには大きな影響を受けない。そこで、海抜の高い島々がその周囲の海抜の低い島々と政治的にも結びつき、台風や洪水時の避難先として、また援助の手を差し伸べるという役割を果たしてきたのである。
    ミクロネシアで見てみると、ヤップとその外側の島々が、海抜の高い島とその周囲に広がる珊瑚礁の低海抜の島々とで構成される大規模なネットワークを構成している。西太平洋における台風の通り道にあるため、ヤップの低海抜の島々はミクロネシア内では台風や気候の変化に最も弱い島々である。数百年前、ヤップは、「ヤップ帝国」として、その主島の村の支配層がその周囲の島々を支配下に治めるという形態を取っていた。周囲の島々に住む人々は、主島の酋長達に貢ぎ物を納め、台風時にはその援助を受けるという関係を保ってきたのである。
    ごく近年になって、その関係に新しい出来事が認められるようになった。すなわち、周囲の島々の人々は、酋長達との伝統的な関係を利用して、ヤップに移り住むようになったのである。過去5年間で、3ヶ所に新しい移住地が形成された。人々はそこに住宅を建設し、庭を作っているのである。これには多くの要因が関わっていると思われるが、一つは太平洋全域に認められるグローバリゼーションや都市化といった傾向である。もちろん、彼らが元々住んでいた環礁の島々は、海抜が低く、気候の変化の影響をもろに受けるということが最大の原因であることはいうまでもない。気候の変化という問題について、太平洋の島々に住む人々すべてが理解しているとは言えないが、教育を受けている共同体のリーダー達はこれによる長期的な被害についても認識しており、周囲の島々からの移住者のために大きな努力を払っているのである。

    The KoreaミSouth Pacific Ocean Research Center and its Effect on the Local Community
    Charity M. Lee (Korea Ocean Research and Development Institute)

    The KoreaミSouth Pacific Ocean Research Center (KSORC) was established on 30 May 2000 on a small island located within the Chuuk Lagoon of the Federated States of Micronesia according to a Memorandum of Understanding signed between the Chuuk State government and the Korea Ocean Research and Development Institute (KORDI). Establishing a research station in an unfamiliar research territory of a tropical region, in which KORDI had to begin under very difficult economic and institutional circumstances, was a great challenge. However, with full support from the Chuuk State government and the local community, and with great enthusiasm and sacrifices from several KORDI researchers, KSORC currently has 20 local employees involved in various research and maintenance activities. Locally, both the government and the general public expect to gain economic assistance, as well as scientific knowledge, from KSORC activities. KSORC is responding to such expectations by conducting ocean research projects that may help the local economy, such as the development of full life-cycle black pearl production and other bio-resources development projects. Also, to respond to immediate concerns of island nations, oceanographic studies and a monitoring system have been initiated as KSORCユs first and foremost objective since its establishment to understand the process of tropical ecosystems and provide essential scientific knowledge and baseline data needed to understand regional effects of climate change. Such continuous monitoring of ecosystems, as well as biodiversity surveys and coral monitoring, will eventually help to better understand the changes observed in Korean waters. Although the monitoring and periodic oceanographic process studies are still conducted on a small and infrequent scale due to funding issues, we are optimistic regarding the development of more active future global change studies on topics such as ocean acidification, sea level rise, coral monitoring, nitrogen cycling, new production and primary production, mangrove and seagrass eco-environmental processes, remote sensing, and tropical ecosystem studies.

  • 2007年1月22日(月)第75回 多島圏研究センター研究会
    「チンタ・ラウト号の建設と「平成の海援隊」づくり」
    遅沢克也(愛媛大学農学部)
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「要旨」 チンタ・ラウト号と名づけられた木造帆船は、コンジョ船大工の名匠の指揮の下に2003年5月完成し、日本・インドネシア双方の若者を乗せ、ウォーレシアの離島群を対象とする航海を18回実施してきた。スラウェシの伝統的なピニシ(pinisi)を模した2本マスト・7枚帆のスクナ―タイプの帆船(総トン数70トン)で、船内はデータ整理や、調査結果ディスカッションが恒常的に行なわれる空間を実現してる。学生論文の作成・投稿が可能な通信施設「移動する研究室」を装備し、時間のかかる船調査マイナス面を補っている。操縦は経験のある船長以下3名の乗組員によるが、われわれ自身も帆走技術を習得するように試みた。参加学生には 「研究者兼船乗り、船乗り兼研究者になれ」と指導している。面白い教育・研究を目指すこと。白けきった若者達に、毛穴が総毛立つような学問的興奮、胸奥に眠っている夢を覚醒させる研究をめざし、若い世代からの共感を得、海域研究の拠点づくりとなる試金石をめざしている。チンタ・ラウト号建設に先立つ2002年7月インドネシア側に我々の科研の支援を受けて「海域教育研究所」(Lembaga Perahu:NGO組織)が設立された。海域世界研究の活性化と研究担い手づくりを主目的とするこの組織がチンタ・ラウト号を所有し、スケジュールを管理しながら、賛同者を募集している。当面は、ウォーレシア離島群を連ねる調査航海を目的としているが、将来的には、航海の帰路では島々の物産を運び、資金調達が図られる運営も検討されている。経済混乱が続くインドネシアの、若手特に大学院生たちの調査資金を捻出することへの対応である。
     船を動かすことで海の研究者を育成し、船を回すことにで資金調達を図り、船を駆使した研究を展開することで、海と森を保全す る。そうした将来構想を意識しつつ、帆走航海を展開している。





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