島嶼研シンポジウム
「甑島列島の魅力と可能性を探る」
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日時:令和5年3月11日(土)13:30~17:30
会場:鹿児島大学共通教育棟2号館1階212号
主催:鹿児島大学国際島嶼教育研究センター
中継:国際島嶼教育研究センター会議室、奄美分室、オンライン
参加費:無料(事前登録が必要です) |
・プログラム ・要旨 ・English Page
●要旨
『甑島列島の地質と化石』
三宅優佳(薩摩川内市企画政策課)
甑島の象徴とも言える、見るものを圧倒する大迫力の断崖や数々の奇岩。甑島の海岸の大部分は岩石海岸で、白亜紀後期及び古第三紀の堆積岩類、中新世閃緑岩類が波食を受けて海岸となっている。 その断崖を構成する白亜紀後期の地層である姫浦層群は、上甑島の西部と中甑島、下甑島に分布する。2009年に初めて、下甑島の姫浦層群から恐竜やカメ類、ワニ類、魚類などの脊椎動物化石が報告され、その後、より上位の地層である上甑島の姫浦層群からも恐竜を含む脊椎動物化石が見つかった。恐竜を含む脊椎動物化石群集として、日本で最も新しい時代のものである可能性が示唆されており、恐竜絶滅前のアジアの恐竜の多様性や生態について解明するためにも、今後の成果が期待されている。さらに、上甑島の大部分と中甑島の北端部には、上甑島層群が分布する。近年、上甑島層群中甑層からは、国内最古の古第三紀哺乳類化石群集が報告されており、前期始新世の大陸間の哺乳類の進化と変遷史を調べるために研究が進められているところである。 甑島の自然、風土、文化、産業などは、それらが根付いた土地、つまり甑島を構成する地層や地形に大きく左右されている。甑島の多くのものが地質的・地理的資源に育まれているため、地域振興の資源としても貴重である。
『甑島で古くから伝えられてきたカンキツ』
山本雅史(鹿児島大学農学部)
甑島では経済活動としてのカンキツ栽培は行われていないが、古来、様々なカンキツ類が庭先等で栽培されてきた。これらは、遺伝資源として貴重であるだけでなく島の文化を担う文化資源としての価値も高い。そのため、これらの栽培保存となる基礎情報を得るため、上甑島と下甑島で在来カンキツを調査した。甑島全体で栽培されているキノスはダイダイ、キネブはクネンボで、これらは甑島以外の鹿児島県島嶼域で確認できる導入種である。コウズミカンはクロシマミカンと考えられ、これも島嶼域で広く観察される。シロミカンおよびホックイは南西諸島にも分布しているカンキツと同じものと考えられた。一方、イシミカン、トウミカン、ガーガー、ニタイ、ゴダユウ、ヤマタテ、ガラガラミカンの同定はできなかった。今後これらの来歴を解明する必要がある。
『甑島漁業の現状と今後の展望』
鳥居享司(鹿児島大学水産学部)
甑島の基幹産業は水産業であり、鹿児島県内有数の生産を誇ってきた。周辺ではキビナゴを始め、ブリ、バショウカジキ、タカエビなど多様な魚介類が水揚げされてきた。しかし近年、水揚げの不振が続いており、甑島での漁業経営は厳しさを増している。漁協の経営をリードする漁協も職員の高齢化と減少により、新たな事業に手を付けられない状況下にある。 漁業経営の悪化に危機感を抱いた漁業者を中心に、漁獲物の生産から販売を担うことができるグループが立ち上がった。取り組みは緒に就いたばかりであるが、新たな販売先も確保できており、甑島漁業を支える母体として期待されている。
『甑島の食文化ストーリー「旅と暮らしと食さんぽ」』
大脇裕美(甑の旅ソムリエ協議会)
私たち甑の旅ソムリエは、甑島の自然、そこに暮らす人々の文化の保護・継承・解説・発信などを通して、その資源のモニタリングや体験プログラムの企画・実施をしています。そのひとつである「食文化ストーリー」のプログラムは、島の暮らしと観光、そして食文化を掛け合わせて、甑島の食文化の継承の芽を育てていくきっかけづくりにチャレンジしています。 島の食文化は、島内にある限られた食材の中で、工夫してつくられ、それぞれの集落で歴史的な背景や暮らしによる違いがあります。食文化を知ることは、その地の歴史を知ることでもあり、先人たちの知恵を学ぶことでもあります。暮らしに根差した食文化は、島の暮らしの糧になり、人々の思い出を紡いでいき、思い出は生きる力となり、島の誇りに繋がると思い活動しています。 今回は、島のあちこちで出会う「すす」に着目し調査を進めることで、いろいろな食に出会うことができました。 甑島ならではの暮らしに触れる「食文化ストーリー」をお伝えします。
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