国際島嶼教育研究センター
トップページヘ
研究会などの記録 
2021年(島嶼研)

  • 国際島嶼教育研究センター第215回研究会
    2021年12月13日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    地域のこどもたちの心身の健康をサポートする

    網谷真理恵(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)


    [要旨]
     近年のCOVID-19パンデミックによる学校の不規則な登校など生活リズムの変化によりこどもたちの抑うつ状態を増加させるなどの影響を与えているといわれている。COVID-19パンデミック前から「不登校」児童は年々増加傾向であり、文部科学省の調査によると令和3年度は49人に1人が不登校児童という現状にある。その背景として、友達や先生との関係だけではなく、身体の不調、生活リズムの乱れ、インターネットやゲームの問題なども多い。さらに約2割は本人にも理由がわからずに漠然と不安感を感じている。
     このような背景から、学校を休むというこどもたちの行動は、友人関係や教師との関係性などの環境だけの問題ではなく、個々の置かれている背景を身体―心理―社会的な視点から包括的に支援するサポートが必要である。本人や保護者、学校関係者とともに、こどもたちのおかれている悪循環を医療の立場からアセスメントし、腹痛や頭痛などの身体的な不調および心理社会的な背景について、心理療法、親子関係の調整、学校との連携、地域社会の問題点をとらえ、適切に介入しサポートしていくことが求められている。私たちは何らかの理由で学校にいけないこどもたちに対し、生活指導、漢方やヨガを用いた介入、心理療法、保護者―学校連携のサポートを行い、こどもたちの社会適応や自立を促す取り組みを行ってきた。
     本講演では、こどもたちの心身の健康向上に向けて、特に学校にいけないこどもたちの包括的な支援について紹介する。



  • 国際島嶼教育研究センター第214回研究会
    2021年11月8日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    南西諸島北部域における海陸地震観測

    仲谷幸浩(鹿児島大学地震火山地域防災センター附属南西島弧地震火山観測所)


    [要旨]
     鹿児島県が位置する九州南部から南西諸島北部の領域は、東側でフィリピン海プレートの沈み込みによって南西諸島海溝が形成され、西側で沖縄トラフの拡大が進行する、複雑なテクトニクス下にある。このようなプレート運動に起因する地震・火山活動を理解するには、観測に基づく研究が不可欠である。
     1995年の阪神・淡路大震災以降、日本列島には数多くの地震観測点が設置され、現在では約2,000点からなる高密度な観測網が稼働している。しかしながら、島嶼部である南西諸島北部域の地震観測点は極めて少なく疎ら、かつ直線状に並ぶため、地震の震源決定精度が低くなる問題を有する。鹿児島大学南西島弧地震火山観測所では、有人・無人離島の地震観測を強化するとともに、トカラ列島東方海域における海底地震観測を2014年から中長期的に展開しており、地震活動の詳細な把握を目指している。
     本講演では、南西諸島北部域における島嶼部および海底地震計の観測データによって得られた成果を示すとともに、2021年4月にトカラ列島近海で発生した群発地震活動の概要についても紹介する。



  • 国際島嶼教育研究センター第213回研究会
    2021年10月4日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    隆起サンゴ礁の島 喜界島におけるサンゴ礁を通じた研究・教育プラットフォームの構築

    駒越太郎(喜界島サンゴ礁科学研究所)


    [要旨]
     奄美群島喜界島は過去約10万年前より海水準の変動と島の隆起によってサンゴ礁が離水しサンゴ礁段丘という地形がよく発達している。地質的にも地域の暮らしとサンゴ礁が密接に関わっている地域の一つである。そんな喜界島を拠点に喜界島サンゴ礁科学研究所は2014年から活動を開始した。現在まで多くの研究者や地域の方々に支えられ、サンゴ礁と社会を結ぶプラットフォームとしての役割を目指し、活動7年目を迎え研究所では「研究」「教育」「普及」を3本柱として「喜界島・海・サンゴ・サイエンスに関わる全ての人をつなげる活動」を続けている。
     サンゴ礁というフィールドは、理系・文系を隔てず多くの学問分野、さらには芸術アートの分野まで多様な人々が集まる。このフィールドの特性を活かして、喜界島サンゴ礁科学研究所では、サンゴ礁科学を中心に多分野の研究を融合させ地域の過去、現在未来を考える研究プロジェクト「MIRAIプロジェクト」、そして、小学生~大学生・社会人を対象としたサンゴ礁における研究教育プログラム「KIKAI College」を展開している。
     発表者の研究活動としてはこれまで、二枚貝の殻やサンゴの骨格を形成する炭酸カルシウムの酸素・炭素同位体比・微量元素の分析と骨格に刻まれる成長線の解析を通して、現在から過去の海洋環境を推定する研究を行ってきた。現在、フィールド滞在型の研究員として、これまでの地球化学分析に加え、現地だからこそできる地域と協働したサンゴ礁の調査や海洋観測を進めている。
     今回の研究会では、喜界島における研究活動と、そこから生まれたアウトリーチ活動について紹介する。



  • 国際島嶼教育研究センター第212回研究会
    2021年7月12日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    占領期奄美・沖縄の青年団

    農中 至(鹿児島大学法文学部)


    [要旨]
     占領期の奄美・沖縄の若者たちはどのように生きていたのか。占領期の奄美・沖縄の青年団に注目することでこの事実を浮かび上がらせることができる。また、青年団は組織である。このことから、青年団は個人では到底成し遂げられない問題にも取り組むことができる。青年団活動の検証とは、占領期の若者個人と若者集団を取り巻く現実や願いを読み解く作業でもある。
     本報告は、占領期の奄美・沖縄の青年団の歴史を紐解き、占領期の奄美・沖縄の実態を考察することを目的とする。その際、奄美・沖縄の青年団によって発行された機関誌『沖縄青年』(沖縄)および『新青年』(奄美)に注目する。この機関誌の比較検討を通じて、占領期奄美・沖縄の青年団組織の独自の歩みを示していきたい。
     日本本土の青年団は戦後に再建され、地域差はあるものの地域の課題に対処し、文化運動などに取り組んできたことがよく知られている。しかし、奄美や沖縄の場合、本土とは異なる独自の歩みがあり、固有に解明されなければならない特有の歴史がある。奄美・沖縄では、地域課題といっても本土と切り離された直接統治という事実が前提となる。これは日本本土の青年団にとっての地域課題観とは著しく異なるものである。



  • 国際島嶼教育研究センター第211回研究会
    2021年6月28日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    琉球列島におけるゴカイ類の生活

    佐藤正典(鹿児島大学名誉教授)


    [要旨]
     ゴカイ類(環形動物多毛類)は、海域や汽水域における底生生物群集の主要なメンバーであり、日本からは約1000種(奄美群島の周辺海域からは約200種)が知られている。ここでは、琉球列島の島々に生息している下記の種の興味深い習性を紹介する。
     1) 汽水域に生息するゴカイ科。イトメは、日本列島の汽水域に広く分布し、琉球列島(奄美大島、沖縄島)が分布南限となっている。本種は、主に10~12月の大潮の満潮時直後に生殖群泳を行う(体前部に卵または精子が充満して「生殖型」となり、退化した体後部を切り離し、一斉に水中に泳ぎ出て、河口に向かって流下しながら、水中で放卵、放精する)。一方、琉球列島の固有種であるクメジマナガレゴカイなどでは、群泳を伴わない産卵が推測されている(詳細は不明)。
     2) イバラカンザシ(カンザシゴカイ科)。通常は塊状または板状のハマサンゴ類などの生きたサンゴと共生している。本種の石灰質の棲管はサンゴの骨格中に埋没しており、赤、黄、青などの色彩多型を有する鰓冠を水中に広げて摂餌している。奄美大島での定点観察の結果、本種の「空き巣」を利用するヤドカリ(カンザシヤドリ)がイバラカンザシの新規加入個体のサンゴ体表面への定着を助けていることが示唆された(菊地和美ほか:発表準備中)。



  • 国際島嶼教育研究センター第210回研究会
    2021年5月17日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    九州から琉球列島におけるウミエラ類の基礎研究

    櫛田優花(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


    [要旨]
     ウミエラ類は刺胞動物門花虫綱八放サンゴ亜綱に属する群体性底生動物である。ウミエラ類は世界中の浅海から深海まで幅広い海域の砂泥底に生息しており、他の小型甲殻類、軟体動物類、魚類などに住処や隠れ家を提供するように海洋生物生態系エンジニアとしての役目を果たす。近年、その生態学的な重要性から、欧米諸国では、ウミエラ類は保護や保全の対象として扱われている。それにも関わらず、標本を得ることや扱うことが難しいこと、そして砂泥環境に対する関心の低さなどといった理由から、ウミエラ類の分類・多様性・系統・進化・生態などといった基礎的知見はこれまで十分に得られてこなかった。演者はこれまで琉球大学(沖縄)を研究拠点として、北西太平洋産ウミエラ類の基礎研究を行ってきた。例えば、分子系統学的知見を基にした種数推定では、琉球列島産ウミエラ類が既知種数の2倍以上であることが示唆され、砂泥海域でのさらなる多様性調査が必要であることが考えられた。本講演ではウミエラ類がいったいどのような生き物なのか、演者が行ってきた九州から琉球列島におけるウミエラ類の多様性・分子系統・生態に焦点をあてた研究について紹介したい。



  • 国際島嶼教育研究センター第209回研究会
    2021年4月19日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    奄美の人々の自然観の変遷―住用町の住民との会話を通して―

    宋多情(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


    [要旨]
     鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県の沖縄島北部と西表島は、2021年の夏に世界自然遺産登録を目指している。これらの島の特徴は、高い生物多様性であり、数多くの固有種や絶滅危惧種が生息・生育していることが評価されている。
     奄美の人々にとって奄美の自然とは、世界遺産になりうる価値あるものとして評価される前に、身近に存在する当たり前の風景であり、普段の生活に利用される資源であった。奄美大島では1980年代後半から、地元の人々によって自然観察会が立ち上がったり、開発による自然破壊の懸念から自然保護活動が行われたりしてきた。一方、金作原国有林での散策や住用マングローブ林でのカヌー乗りなど、陸域の自然を体験する観光も同時期に始まるようになった。これらの観光は、世界自然遺産登録推進の中でエコツーリズムとして位置づけられるようになった。近年には、アマミノクロウサギを観察するナイトツアーが代表的な観光に加わり、奄美の自然への関心はさらに高まりつつある。
     本報告では、前述のような奄美の自然をめぐる動きを踏まえた上で、アマミノクロウサギの生息地の一つである奄美市住用町を事例に、世界遺産や観光利用の対象となる自然が、その身近に住んでいる地域の人々の目にはどのように映ってきたのかについて検討する。そして、これから奄美の人々が、奄美の自然にどのように向き合い、関わりを持つのがいいのか一緒に考えてみたい。



  • 国際島嶼教育研究センター第208回研究会
    2021年2月15日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    大学と地域コミュニティ間における教育連携モデルの構築―下甑島プロジェクト―

    吉田明弘(鹿児島大学法文学部)


    [要旨]
     第3期中期目標期間での鹿児島大学法文学部は、「南九州・南西諸島を舞台とした地域中核人材育成を目指す新人文社会系教育プログラムの構築」の課題として、平成28~31年度の4年間をかけて取り組んできた。この教育プロジェクトでは、法文学部人文学科で開講される地理学における講義や演習、実験・実習を連動させ、一貫性のある大学教育を学生たちに提供するとともに、大学と地域コミュニティの双方にメリットのある地域連携を目指した教育モデルの構築を目的した。この教育プロジェクトでは、自治体や地域コミュニティからのニーズを基にして学生実習の課題設定を行い、鹿児島県薩摩川内市の下甑島手打地区において約1週間の地理学実習を4年間に渡って実施した。さらに学生実習による調査成果を基にして、2016~2019年度には地域住民を招いた学生報告会を実施した。この長期的な教育プロジェクトの実施は、学生には地理学分野の知識や技術などの習得度を向上させるだけなく、地域住民と関わり合いながら地域の問題点やその解決策の模索をすることによって、より実践的な地域人材として卒業後の進路に大きな影響を与えた。一方、地域における様々な問題と向き合ったり、学生の若い意見を聞く機会になったりと、地域コミュニティにとても学生実習を良い刺激になった。以上の点を踏まえ、本発表ではこの課題内で4年間に渡って実施された下甑島における教育プロジェクトの成果を中心にして報告する。



  • 国際島嶼教育研究センター第207回研究会
    2021年1月18日(月)17時00分 総合教育研究棟5階

    新型コロナウイルス感染症のリスクと予防

    西 順一郎(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)


    [要旨]
     鹿児島県の離島では、2020年7月以降、与論島や徳之島で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大規模なクラスターが相次ぎ、瀬戸内町や屋久島町でも集団感染がみられた。離島の陽性者は205人(2020年12月26日時点)であり、県全体の946人の21.7%を占め、人口あたりの陽性者数は本土の2.5倍であった。離島に多い理由として、観光客による持ち込みと良い意味での人と人のつながりの深さが挙げられており、飲食店での集団感染とそれに引き続く家庭内感染が多くみられている。
     COVID-19の感染経路は、近距離で細かい飛沫を含む空気を吸い込むエアロゾル感染が主体であり、換気の悪い密集状態での大声の会話が最もリスクが高い。しかし一方で、通常の社会生活で容易に感染する感染症ではないことも事実である。鹿児島県の事例をみても、1人だけの単発事例数は124であり、2人以上のつながりのある事例数83よりもかなり多く、周囲の誰にも感染させていない陽性者が多くみられた。
     感染力が強いと言われている変異株には注意が必要であるが、あまりにも過剰な感染対策は弊害のほうが大きい。多人数での会食を避けることを主眼とした的を絞った感染対策が必要である。また、ワクチンの導入が期待されているが、わが国での有効性と安全性を科学的に評価した上で接種すべきである。離島生活の良さを失うことがないように、寛容の気持ちをもった現実的な感染対策が望まれる。






  • (これまでの研究会についてはこちら









Webmaster: YAMAMOTO Sota sotayamacpi.kagoshima-u.ac.jp
(c) Copyright KURCPI