国際島嶼教育研究センター
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研究会などの記録 
2020年(島嶼研)

  • 国際島嶼教育研究センター第206回研究会
    2020年12月7日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    奄美の土着的環境教育の発見

    小栗有子(鹿児島大学法文学部)


    [要旨]
     報告では、報告者が現在奄美大島を中心に取り組んでいる環境教育研究の概要について紹介したい。
     環境教育の研究動向は、この60年ほどの間に①個人の行動変容、②社会構造の改変、③人間の存在のあり方へと研究関心の主題を拡張させてきた。近年では、人間が自然を支配し、富の源泉(資源)として自然をみなすような認識を改め、人と自然を切り結ぶ異なる世界観の獲得を志向する研究が、“indigenous environmental education(先住民環境教育)”として立ち上がっている。
     報告者は、欧米社会を中心に生まれた“indigenous environmental education”を日本の文脈に置き替え、日本の「土着的環境教育」として描き出すことを目指している。具体的には、遊びと労働と学習が未分化な伝統的な社会や文化を色濃く残す奄美大島をフィールドに、無意識に伝承されてきた(いる)〈人と自然環境(山野河海)〉とのつきあい方の知識とその知の獲得方法を明らかにしようとしている。
     報告では、以上の研究動向を簡単に紹介した後に、2019年度に取り組んだ「奄美の環境文化に関する100人インタビュー」(鹿児島大学鹿児島環境学プロジェクト)の内容を取り上げ、幼少期にはじまる人と自然の関わり方の質と量が、その後の自然や地域認識の形成にいかなる作用をもたらしているのかについて論じ、奄美の土着的環境教育の可能性について提起したい。



  • 国際島嶼教育研究センター第205回研究会
    2020年11月16日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    「海とヒトを学びでつなぐ」3710Labの活動紹介

    菅野康太(鹿児島大学法文学部/3710Lab)
    田口康大(東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター/3710Lab)


    [要旨]
     菅野と田口はSendaiの高校の同級生であった。SendaiはSendaiでも、仙台の川内というところの近辺にある高校である。その後、菅野は生物学を、田口は教育哲学をそれぞれ志す。菅野は研究のかたわら、科学を非専門家に伝える活動である科学コミュニケーションを副専攻で学び、以降独自プロジェクトをいくつか続けてきた。
     田口は、教育哲学者として海洋教育に携わることとなり、今回紹介する3710Labというプロジェクトがスタートした。ここ数年は、宮城県や九州の島で高校生とのプロジェクトを手掛けている。地域の文化を再発見するためのワークショップを行い、鹿児島県立与論高等学校の授業ではその成果を『与論の日々』として出版している。
     本発表では、3710Labの活動の背景にある科学コミュニケーションや海洋教育の問題、3710Labの活動、今後の展望などについて紹介したい。現代社会と、歴史・文化・科学・環境などとの繋がりは、ゆるやかだが、しかし確かに存在し、そのことを「海」という一つのキーワードによって有機的に思考することが可能になる。



  • 国際島嶼教育研究センター第204回研究会
    2020年10月19日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    「奄美大島におけるタンカン生産者の出荷行動と産地マーケティングの課題」

    李 哉泫(鹿児島大学農学部)


    [要旨]
     鹿児島県奄美大島においては、農業生産額(2017年)に占める果樹生産額のシェア(42.9%、8億5610万円)が高く、とりわけタンカンの生産額は果実生産額の42.5%を占めるほど大きい。なお、奄美大島は、全国のタンカン栽培面積の25%を集積しており、屋久島と沖縄に並んで、数少ないタンカン産地としての地位を有している。
     ところが、同島のタンカンの出荷を巡っては、複数に及ぶ出荷先の選択が個々の生産者に委ねられているために、統一した産地体制の下で効果的な産地マーケティングを展開することが困難な状況にある。
     そこで、本研究では、タンカンの出荷先を「産地(卸売)市場」、「農協系統共販」、「個販」に区分した上で、各々の出荷先における①入・集荷及び販売の仕組み、②出荷者の経営概要及び出荷先選択に見る出荷行動、③結果としてのマーケット・パフォーマンスを比較分析した。
     分析結果によれば、一つに、産地市場は、ルーズな品質・規格要件と限定的な買受人により品質の底上げや需給調整の役割を果たしていないほか、二つに、個選・個販中心の独自の出荷体制を確立した大規模経営は農協共販への参加に消極的であった。三つに、農協系統共販は、共同選果場が設ける厳しい品質及び規格要件や営業努力が品質向上、販路確保、付加価値向上に一定の成果をもたらしたが、生産者の機会主義的行動に遭遇し、依然として出荷ロットの確保に苦戦している。



  • 国際島嶼教育研究センター第203回研究会
    2020年9月28日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    「植物の繁殖生態学―種内と種間の視点―」

    渡部俊太郎(鹿児島大学理学部)


    [要旨]
     花は言うまでもなく植物が種子を作り、次世代に子孫を残すための器官である。自然界を彩る色とりどりの花は進化の結果として今日地球上に存在しているが、こうした多様性が進化の結果としてなぜ維持されるのかを説明するのは容易ではない。なぜならば進化とは基本的には生存と繁殖に有利な形質を持つ個体が生き残る仕組み=多様性が減っていく仕組み、だからである。本発表では植物の花の多様性とその進化について、同種内と異種間の視点からいくつかの話題を提供し考えてみたい。
    1)種内の多様性の維持
     人間に男女があるように、植物にも雄しべと雌しべがある。そして植物は雄しべと雌しべの配置を様々にアレンジすることで多様な性表現を実現させている。本発表ではクスノキ科の樹木であるタブノキを例にこうした多様な性表現の一端とその維持機構を紹介したい。
    2)種間の相互作用
     花の生態学的研究はこれまでもっぱら同種内の個体同士の花粉のやりとりに関心が注がれてきた。しかし近年の研究から、植物は近縁異種の花粉が付着することで大きな不利益を被る可能性があることがわかってきた。花は植物における重要な種間相互作用の現場となっているのかもしれない。植物に見られる種間送粉の不利益のその生態学的な帰結について紹介したい。



  • 国際島嶼教育研究センター第202回研究会
    2020年2月10日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    「島嶼地域におけるソバの生産と6次産業化」

    坂井教郎(鹿児島大学農学部)


    [要旨]
     ソバは痩せた土地でも短期間で生育し、多くの労働力を必要とせず、比較的長期の保管ができるため、かつては山間部を中心に栽培され、また鹿児島県内でも広く栽培されていた。その後、ソバの生産は衰退するが、1970年代に減少の歯止めがかかり、2000年頃からは、北海道・東北・北陸などの寒冷地を中心に面積が急増する。
     こうした中で、自然条件の不利性に加え、輸送に日数・コストがかかる島嶼地域でも、生産・流通上の不利性が軽減されることから、ソバを生産する事例が見られる。また面積の拡大が制約されるなかで、ソバの加工・販売(6次産業化)に取り組む島もある。
     本報告では、全国のソバの生産・流通の状況について述べたあと、九州・沖縄の島嶼のソバ産地である対馬、種子島、宮古島、沖縄県大宜味村を対象に、その生産・加工・販売の実態と6次産業化の取り組みの特徴について検討する。



  • 国際島嶼教育研究センター第201回研究会
    2020年1月27日(月)16時30分 総合教育研究棟5階

    「ボーダースタディーズと島嶼研究」

    岩下明裕(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター/鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


    [要旨]
     ボーダースタディーズは、空間をどのようにとらえるかの問題意識を政治地理学と共有している。島嶼研究もまた島という空間を扱う学問ではあるが、「環海性」、「狭小性」、「字隔絶性」、「孤立性」などといった概念をもとに島という空間を規定しようとする。これらの概念は島を「ひとつ」としてとらえているようにみえるが、私たちはその考え方に疑念をもつ。例えば、北方領土はよく四つの島をくくるものとして通常語られるが、そのうちの「ひとつ」、歯舞は群島であり、本来、「ひとつ」ではない。例えば、対馬を「ひとつ」の島ととらえるのは正しいのだろうか。上対馬と厳原という2つの空間の歴史を振り返ったとき、これにはやはり無理があるように思われる。
     ボーダースタディーズはこのようなクリティカルな問題意識から島嶼研究を脱構築し、再構築することができるのではないかと報告者は最近、思い始めている。ボーダースタディーズのもつ、3つの分析ツールである「タイムライン」「透過性」「社会構築」をもとに、島嶼なる空間の問題を考えてみたい。






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