国際島嶼教育研究センター
トップページヘ
研究会などの記録 
2017年(島嶼研)

  • 2017年12月11日(月)国際島嶼教育研究センター第183回研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「「学校芸能」の誕生とその展開―八重山諸島の事例を中心に―」

    呉屋淳子(沖縄県立芸術大学音楽学部)


    [要旨]
     近年、学校教育のなかで民俗芸能が積極的に行われている。学校教育で教えられている伝統芸能を見てみると、その在りようは年々多様化しており、学校教育で民俗芸能の教育が導入される状況は、地域によってもさまざまである。たとえば、地域社会を主体として民俗芸能の継承を行うには、困難な状況となり、学校教育が民俗芸能の継承の一翼を担っている場合がある。本発表が対象とする八重山諸島は、地域社会だけでなく、八重山諸島の3つの高等学校のそれぞれの学校が主体となり、地域社会と相互に関わり合いながら民俗芸能の教育が行われている。そして、民俗芸能が地域と切り離されて教授されてきた訳ではなく、むしろ地域社会と密接な関わりを保ちながら行われていた。
     このようなことから、本発表では、八重山諸島の歴史的、社会的、文化的背景を踏まえて、現代八重山における八重山芸能の継承の現状と展開を、現在、3つの高等学校で行われている八重山芸能の教育の事例から明らかにする。



  • 2017年10月23日(月)国際島嶼教育研究センター第182回研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「琉球国成立前夜の考古学的研究」

    新里亮人(伊仙町教育委員会)


    [要旨]
     1429年に成立した琉球国は中国、東南アジア、日本を結ぶ中継貿易によって繁栄した王国である。その成立過程の解明を目指す研究では、在地の土器や陶器、九州産および中国産の食器類の編年研究を基準に、村落や城郭の構造を分析・序列化し、その発展段階を明らかにする手法が採られてきた。研究史の上では、王都所在地である沖縄本島の考古資料が主な分析対象であったため、成熟した農耕社会の延長線上に王国の成立が位置付けられる発展段階的な歴史観が描き出されてきた経緯をもつ。一方、琉球国の版図内に治められた北側の奄美諸島、南側の先島諸島では発掘調査件数の少なさから本格的研究の開始が沖縄本島よりも遅かったが、近年情報の蓄積が急速に進み、こうした地域を包括しながら琉球国成立史を再構築することは大きな課題となっている。
     これを受け本研究では、グスク時代の琉球列島から出土する食器類の編年研究からそれらの生産、流通、消費の様相を明らかにし、当該期における経済状況の推移を考古学的に復元することを目的とする。対象資料は琉球列島各地の在地土器、九州産滑石製石鍋、中国産陶磁器、徳之島産カムィヤキで、九州島や中国における食器類の生産や流通動向を確認しながら琉球列島の独自性を示すとともに、各島嶼域の地域性を抽出することによって地域的な経済状況と社会の複雑化の関係性を検討していく。重層的階層社会であった三山時代、琉球国時代に至る社会の一端を交易の側面から明らかにしたい。



  • 2017年9月25日(月)国際島嶼教育研究センター第181回研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「非感染者とコミュニケートする:太平洋地域における非感染性疾患の流行問題に取り組むためのメディア開発とコミュニケーション戦略」

    エヴァンゲリア・パボサキ(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター、ユニテク工科大学・ニュージーランド)


    [要旨]
     太平洋諸島民は、非感染性疾患(生活習慣病)の流行によって加速された健康危機に直面している。現在、この慢性的な状況はしばしば家計に重い経済的負担としてのしかかる。また、太平洋地域の死者の70%以上は非感染性疾患によるものとみられている。グローバリゼーションや都市化によるプレッシャー、例えば、健康によくない食品(地元の食物生産の低下と塩分や糖分、脂肪の多い加工食品や輸入食品の増加)や飲酒、喫煙、運動不足などが非感染性疾患の増加につながっている。太平洋諸島民の間に見られるこうしたライフスタイルの変化が、肥満、糖尿病、癌、循環器系疾患などの非感染性疾患の流行をもたらしている。こうしたトレンドを逆転させるためには、コミュニティにおける十分な健康教育や健康に関する問題意識が不可欠であり、これこそが、現在、太平洋諸島全体に求められている。非感染性疾患の多くが予防可能であるとすれば、健康促進活動は太平洋地域における非感染性疾患という問題の低減に重要な役割を果たすことができる。
     本発表は、太平洋地域における非感染性疾患への対処という課題を、コミュニケーションの開発と社会変化という観点から評価し検証する。戦略的メディアとコミュニケーション構想(イニシアティブ)は非感染性疾患増大の要因とみなされる特定の領域をターゲットにできる。本発表では、国によってその対応がどう調整されているのかという事例を検証し、現在、太平洋諸島の国々で展開されている多様なメディアとコミュニケーション構想について考察する。
     本研究は、コミュニカティブ・エコロジーと開発のためのコミュニケーションの原則により導かれたもので、コミュニケーションの全ての形態とモードを網羅する。そこには、コミュニティラジオ、情報通信技術(ICT)構想と伝統的なマスメディアに伴うコミュニティ対話のようなプロセスが含まれる。また、主な研究方法としては、はデスクワークにもとづいた調査、利害関係者へのインタビュー、太平洋メディアと通信専門家への調査が含まれる。回答者から明らかになったことは、非感染性疾患の慢性的性格により、コミュニティはしばしば彼らを死が避けられないか、あるいは自然な死に方として受け入れているということである。回答者は、また、健康コミュニケーションにおけるメディアの役割のより良い理解と、政府、NGO、ジャーナリストの間の連携が強化されることを呼びかけている。
     本発表は、メディアにもとづいた非感染性疾患戦略を設計するときのいくつかの重要な試みや太平洋地域に独特の機会を強調する。国家横断的分析を結び付け、最良の実例のいくつかを含めることによって、本発表は太平洋地域における健康促進戦略のさらなる企画とデザインに関する情報を提供し、かつ支援するため、非感染性疾患の潜在的な解決策を探求する。



  • 2017年7月10日(月)国際島嶼教育研究センター第180回研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「オキナワウラジロガシ・スダジイ林の維持機構」

     鵜川 信(鹿児島大学農学部)


    [要旨]
      天然林は、野生生物の生息地となることから、生物多様性の維持に大きく貢献している。奄美諸島でも、アマミノクロウサギをはじめとして、ルリカケスやアマミトゲネズミ、アマミエビネなど多くの固有種・絶滅危惧種が森林を生息地としている。そのため、これら森林生態系の保全は必須の課題の1つであるが、それを行う上で、天然林を形作る優占種個体群の維持機構の理解は必要不可欠である。本報告では、徳之島のオキナワウラジロガシ・スダジイの天然林を対象に、両優占種個体群の維持機構について明らかになったことを紹介し、これら天然林の保全の方向性について検討したい。具体的には、奄美諸島におけるオキナワウラジロガシ・スダジイ林の位置付けを紹介したのち、オキナワウラジロガシとスダジイの空間分布と個体群動態について研究成果を報告し、台風の常襲地である背景を踏まえつつ、当該天然林の維持機構を示す。これらの知見をもとに、当該天然林の保全の方向性を議論したい。



  • 2017年6月19日(月)国際島嶼教育研究センター第179回研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「海の人類史-環太平洋に進出したヒトと島嶼適応」

     小野林太郎(東海大学海洋学部)


    [要旨]
      私たち人類は、アフリカ大陸の森林地帯で誕生した。そんな私たちはいつ海と出会い、また海を利用するようになったのか?日本食に欠かせない魚を食べだしたのはいつ頃なのか?本報告ではそのような素朴な疑問に対し、ヒトと海の歴史を人類史的な視点から再検討してみたい。具体的には、私たち新人(ホモ・サピエンス)を含めた人類誕生の地とされるアフリカの事例、さらに私たちの海洋適応がもっとも進んだ可能性のある環太平洋圏における島嶼域の事例を中心に検討していく。とくに近年、世界最古の貝製釣り針が発見された琉球列島や、カツオ・マグロ等の外洋魚類を対象とした最古の利用痕跡が発見された東インドネシア域の事例、また新石器時代以降に中国南部や台湾方面から、ポリネシアのハワイやイースタ島、ニュージーランドをふくむ南太平洋への移住・拡散に成功したアジア系集団の島嶼・海洋適応に関する最新の研究成果を、報告者自身の研究やフィールド体験を交えつつ紹介する。



  • 2017年5月29日(月)国際島嶼教育研究センター第178回研究会
    17時00分 総合教育研究棟5階

    「魚介類のブランド化の取り組みを考える:大分県「かぼすブリ」を事例に」

     鳥居享司 (鹿児島大学水産学部)


    [要旨]
      漁業経営は厳しさを増している。川下決定の価格形成が指摘されて久しく、価格問題に悩む漁業者は多い。こうしたなか、いわゆる「ブランド化」の取り組みによって漁家経営振興を目指す取り組みが、離島はもちろん本土でも散見される。鰤王・鯛王(東町漁協)、海の桜勘(垂水市漁協)、菜の花カンパチ(山川町漁協)、ねじめ黄金カンパチ(ねじめ漁協)などにみられるように、名前のついた魚介類は多数存在する。その一方で、通常の養殖業に比べて遙かに高値で取り引きされるものはほとんど見当たらない。「ブランド化」の取り組みによって生産コストは上昇する一方で、販売価格にそれを転嫁できないケースが相次いでいる。「ブランド化」の取り組みは、漁家経営を一層厳しいものにしかねないのである。
     本報告では、差別的な価格形成に成功する「かぼすブリ」(大分県)の事例を取りあげ, 差別的な価格形成に成功した要因について明らかにしたい。なぜ、「かぼすブリ」は差別的な価格形成に成功したのだろうか。その背景には、良質な養殖ブリを生産しようとする生産者の努力はもちろん、生産計画を練る行政、販路開拓に邁進する漁協や市場関係者の努力があった。



  • 2017年4月17日(月)国際島嶼教育研究センター第177回研究会・総合研究博物館第23回研究交流会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「日本海開裂と日本列島の誕生―もう一つの物語―」

     鹿野和彦 (産業技術総合研究所地質調査総合センター)


    [要旨]
      日本列島主部は、大陸から分離して現在の位置に移動してきた火山弧であり、日本海は、その過程に伴って火山弧の背後に形成された凹地である。これは、1915年に発表されたWegenerの大陸移動説に接した寺田寅彦らがいち早く唱えた説で、長い間、地向斜造山運動論の中に埋もれてしまっていたが、1980年代になって、日本列島各地の古地磁気方位の変遷に基づいて西南日本の時計回りの回転と東北日本の反時計回りの回転によって日本列島が移動したとする説が発表されると広く受け入れられるようになった。とはいえ、移動の時期と移動プロセスの詳細については依然として議論が絶えない。それは、日本列島が大陸から分離移動した時期の地層と目されるグリーンタフについて、その年代を確認し、そこに記録されているはずの地質プロセスを読み取ることがむずかしかったためである。火山岩相解析や信頼性の高い年代測定法を導入して行われた最近のグリーンタフ研究から見えてくる日本海開裂と日本列島誕生についての新たな見方について語る。



  • 2017年3月13日(月)第176回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「なぜ私は首狩(くびかり)を研究するのか?」

     山田仁史 (東北大学大学院文学研究科)


    [要旨]
      私は2015年、『首狩の宗教民族学』(筑摩書房)を刊行し、人類諸社会において過去に行われてきた首狩(くびかり)という習俗の諸相、とくに宗教的側面についてくわしく論じた。今回の発表では、本書の概要をざっとおさらいした上で、その後の研究の展開について述べるとともに、このような文化現象を研究するにいたった動機とその意義について、あらためてお話ししたい。
      多くの人が驚くのだが、首狩慣習は狩猟採集民にはほぼ皆無であり、むしろ焼畑農耕民にひろく行われてきた。とりわけ東南アジア大陸部と島嶼部では20世紀前半までこれが盛行し、多くの類似点を示している。狩ってきた敵の頭部が自分たちの村の守護者になり、農耕における豊穣、狩猟の成功、女性の多産や病気の駆逐を確保してくれる、という観念が広汎に見られたのである。
      日本史上においても、合戦の中で「首取(くびとり)」や耳鼻削ぎといった行為がなされたことは、よく知られている。そのことは、本書の後に出版された清水克行『耳鼻削ぎの日本史』や室井康成『首塚・胴塚・千人塚』(いずれも洋泉社、2015年)に見られるとおりだ。同じく本書の後、ラーソン『首切りの歴史』の邦訳も出た(河出書房新社、2015年)。冒頭で言及される南米ヒバロ(シュアル)族の「乾し首」をめぐる諸観念も、首狩と多くの共通点を持っている。
      さて、なぜ私は首狩を研究するのか?それは、現代日本社会の常識から遠く隔たった物事にこそ、人類の本質を知る手がかりがあるのでは、と思うからだ。人命の軽重についての見方がいかに変化したかは、一つの驚異である。



  • 2017年2月13日(月)第175回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「パプアニューギニアにおける犯罪の現状と課題―日本の事例と比較して―」

     ゲリー・サリ (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


    [要旨]
      本発表では、パプアニューギニアにおける犯罪の現状だけではなく、犯罪が起きる背景について、日本の犯罪および司法制度と比較しながら明らかにしたい。様々な媒体から得られる文献資料や事例を用いて、知能犯罪や越境犯罪、民族紛争、窃盗犯罪、暴力犯罪の観点から、パプアニューギニアの犯罪の現状を紹介する。犯罪は孤立・分断した問題ではなく、パプアニューギニア人や日本人が日々の生活を営んでいる社会的文脈に由来している。多くの先進国や発展途上国と比較しても、日本は低い犯罪率を維持してきた。パプアニューギニアは、日本の刑事司法制度だけではなく、日本の低い犯罪率に関係している構造要因を学ぶ必要がある。パプアニューギニアは危機駆動型アプローチから脱却し、様々な構造要因が混ざり合って犯罪が成立していることを理解すべきである。パプアニューギニアの最悪な犯罪情勢に対応するためには、政治的意志・資源だけではなく、強く、活気があり、安定的で、弾力的な官僚制度・司法制度が必要となる。










Webmaster: YAMAMOTO Sota sotayamacpi.kagoshima-u.ac.jp
(c) Copyright KURCPI