国際島嶼教育研究センター
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研究会などの記録 
2016年(島嶼研)

  • 2016年12月12日(月)第174回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「甑島列島に分布する上部白亜系姫浦層群の地質と産出化石」

     三宅優佳 (薩摩川内市教育委員会)


    [要旨]
      九州の南西部には、上部白亜系の姫浦層群が広く分布しており、甑島列島でも非海生〜海生の化石が多く見つかる。下甑島北部の姫浦層群では、下部〜中部カンパニアン階の河川成堆積物や潮汐堆積物、波浪堆積物を伴う外浜や陸棚などの浅海相が繰り返しており、非海成層からはマガキ類のカキ礁や脊椎動物化石が産出し、外浜や陸棚堆積物には二枚貝やアンモナイトなどの大型化石や放散虫などの微化石が含まれている。中甑島の姫浦層群は、主に中部〜上部カンパニアン階からなり、浅海相を伴うものの土石流堆積物やスランプ層が特徴的な陸棚斜面相が主体で、半遠洋性の泥岩からイノセラムスや放散虫などが産出する。また、土石流堆積物には、マガキ類の破片殻が含まれており、陸域から運搬されてきたと考えられる脊椎動物の骨片を伴う。
      本発表では、甑島列島の地質に加えて、産出する化石について紹介する。また、イノセラムスやアンモナイトなどの化石を用いて明らかになった下部〜中部カンパニアン階の層序や動物相にも注目する。



  • 2016年11月14日(月)第173回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「少子高齢化を見据えた地域医療実習」

     大脇哲洋 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)


    [要旨]
      少子高齢化の日本は、これまで世界中で経験したことのない、人口減少社会へと突入している。確実に減る人口を前に、地方はどのような社会を構築し、維持していくのか?正解の見えない政策を展開しなければならない。それでは医療はどうなるのか。2025年に団塊の世代が後期高齢者となり、死亡数が増加する。老年医療が医療の主体となり、2040年頃には日本全体の医療はピークを迎える。その後、急激に変化し、縮小する医療環境に対応するために、医育機関としてどのような教育が必要で、どのような実習が求められるのかを考察する。
      その上で、現在我々が行っている、医学科6年生全員への「離島・地域医療実習」、希望する全国の医学生に提供している「全国医学生夏期離島実習」、桜ヶ丘の医療系学生に提供している「地域医療トレーニングキャンプin北山」や「地域医療トレーニングキャンプinさつま町」、地域枠医学生に必修としている「地域枠医学生離島実習」などを紹介する。



  • 2016年9月26日(月)第172回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「離島地域の漁業発展―マダガスカル島南西部の事例をふまえて―」

     飯田 卓 (国立民族学博物館)


    [要旨]
      漁業先進国の日本において、沿岸漁業の技術革新のほとんどは、漁業協同組合と研究者、漁具メーカー三者の連携によっておこなわれている。しかし離島部や島嶼国家では、こうした産業的なイノベーションは期待できないか、あるいは、移植されるまでに時間がかかる。この問題を解決するためには、個々の漁業者の能力の範囲内でイノベーションが達成できればよいのだが、マダガスカル島沿岸部ではそうした事例がたて続けに観察された。
      本発表では、その事例を紹介して個人的イノベーションが生ずる条件を特定する。とりあげる事例は、@1998年頃に普及した木製銛銃、A2003年頃に普及した木製イカ疑似針、B導入時期は不明だが2008年頃に目撃されたゴムタイヤ製地曳網、C2008年頃に普及した電灯潜り漁の装備である。いずれの事例も、新奇な近代的素材を旧来の素材や漁撈技術と組みあわせて実用化されたもので、ブリコラージュ(ありあわせの素材を活用した工作)の日常化と着想の公共化がその背景にあるといえる。
      なお、マダガスカル島は世界で4番めに大きな島なので、島嶼国家と呼ぶには語弊があるが、公共交通が発達しておらず漁業部門と製造業部門との結びつきが未熟であるため、今回の発表に関するかぎりは、疑似的な小島嶼的環境にあると表現することができる。



  • 2016年7月11日(月)第171回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「半島性と臨海性:放射状列島と運河区域開発」

     フィリップ・ヘイワード (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


    [要旨]
      ゴールドコーストは太平洋側に沿って広がる大都市で、クイーンズランド州南東の後背地に位置し、オーストラリア第6番目の都市である。過去60年間の急激な発展によって、河川や河口、海岸線、そして関連する生態系は多大な影響を受けてきた。本発表では、放射状列島(フィンガーアイランド:海に面した狭い半島状の居住地)と、それを支える運河区域開発について紹介したい。まず、オーストラリアの放射状列島区域開発のモデルとなったアメリカ合衆国・フロリダ州の事例と比較して、放射状列島の特徴を明らかにする。次に、クイーンズランド州南東部における開発の特異性を考察する。最後に、フランスの「presqu'i?le?ite?」(半島性:島嶼性とほぼ同義)や日本・琉球の「しま」という概念を用いて、放射状列島および運河区域開発を概念化する。



  • 2016年6月27日(月)第170回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「海溝型巨大地震の地質学」

     北村有迅 (鹿児島大学大学院理工学研究科)


    [要旨]
      日本列島はプレートの沈み込みに伴って形成される「島弧」からなる。プレートの沈み込みは,島弧において地震の発生,火山活動,付加体の形成など様々な地質学的現象を引き起こす。付加体とは海洋プレート上の堆積物が大陸に付加してつくられる地質体のことである。日本列島の大きな部分を占める付加体を研究することによって,この島弧がどのように形成されたか,地震がなぜどのように起こるのかを知ることができる。
      石を掘って地震の何が分かるのか。本発表では沈み込み帯地震研究の最前線である日本列島弧の例から,地下のプレート境界で起こっている現象をいかにイメージするかについて,地質学的な研究アプローチを紹介したい。西南日本には,世界に先駆けて発見されたプレート境界断層の化石を陸上で観察できる場所がいくつかある。その岩石がプレート境界で地震を起こしつつ変形した過程を地質学的に解き明かした過程を紹介し,巨大地震発生帯の実体を浮き彫りにする。



  • 2016年5月30日(月)第169回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「南方系の薬用植物や海洋生物から南九州特有の病気の治療薬を探索する」

     濱田季之 (鹿児島大学大学院理工学研究科)


    [要旨]
      天然の動植物は、生態系の厳しい生存競争の中で生き残る術(すべ)として、自らの体内で毒や薬となる有機化合物を作り出し、蓄えている。これらの有機化合物の正体を解明し、生命現象の疑問や不思議を解明するという挑戦が天然物化学(Natural Products Chemistry)の原点である。一方、昔から人間の病気や怪我の治療に用いられてきた動植物の有効成分を明らかにするという創薬目的の天然物化学研究も進展してきた。抗体医薬や核酸医薬分野が脚光を浴びている現在でも、医薬品の約6割は天然物に関連した化合物である。
      私の研究室では、南九州、特に鹿児島の地の利を活かした天然物化学研究を行っている。今回、奄美大島以南の熱帯・亜熱帯地域で広く発生している、世界最大規模の魚毒食中毒、「シガテラ(Ciguatera)」、および、鹿児島県に陽性者・患者の多い難治性疾患、「成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia: ATL)」について、南方系の伝承薬用植物を探索源として細胞レベルのスクリーニング手法を用いて治療薬のリード化合物を探索した例を紹介する。



  • 2016年4月25日(月)第168回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「奄美大島における林道での観光がアマミノクロウサギの生理や行動に与える影響の評価」

     鈴木真理子 (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


    [要旨]
      アマミノクロウサギ(Pentalagus furnessi)は奄美大島と徳之島にのみ生息する日本固有種である。夜行性で、林道や河川などの開けた場所に排泄や採食のために出没する習性がある。この習性を利用して、夜間に車で林道上を探索する観光が近年増加している。しかし、観光を含む自然を利用した娯楽活動の過多は、そこに生息する野生動物にストレスを与え、行動や行動域の変化、個体数の減少を招くことが様々な種で知られている。本研究では、奄美大島における観光による林道利用がアマミノクロウサギの行動や生理に影響しているかを明らかにするため、まず、糞塊による出没頻度調査と自動撮影から、アマミノクロウサギの林道利用の実態について調べた。糞塊による調査では、DNAによる個体識別を行った。次いで、ストレスの指標となる糞便中コルチゾル濃度について、林道交通量の異なる時期、および人の利用頻度が異なる林道間で比較をおこなった。分析の結果、調査を行った林道区間で4個体以上が利用しており、その排泄場所は局所的であった。林道上では休息や匂い嗅ぎ、2匹による追撃行動なども見られ、林道が重要な活動空間であることがわかった。しかし、今回得られた結果では、林道への出没頻度およびコルチゾル濃度と交通量との関連は見られなかった。一方で、交通量の異なる林道間ではコルチゾル濃度の差が見られた。アマミノクロウサギの生態や林道利用については、繁殖期や食物量の変化、捕食者の有無なども考慮する必要があるため、これらについても考慮しながら、観光の影響について考察したい。



  • 2016年3月7日(月)第167回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「国内におけるパッションフルーツ、アボカドなどの熱帯果樹栽培の現状と課題」

     近藤友大 (宮崎大学地域資源創成研究センター)


    [要旨]
      温暖化の進行などの影響により、近年国内では西南暖地を中心に熱帯果樹栽培に注目が集まっている。特にカンキツの生産地では温暖化に伴い浮皮や低酸化、貯蔵性の低下など栽培上の問題が顕在化してきているので、新規熱帯果樹の導入などの対策が望まれている。現在国内で栽培されている代表的な熱帯果樹はマンゴーであるが、重油代の高騰などによって栽培面積の増加は頭打ちになっている。そこで西南暖地において無加温での栽培や露地栽培が可能な熱帯果樹に注目が集まっている。パッションフルーツは1年生作物のように毎年更新しながら栽培することが可能なので暖房費はほとんどかからない。またアボカドは低温に比較的強く、品種によっては‐6℃まで耐えると報告されており、露地栽培や無加温での施設栽培が可能と考えられる。したがって、パッションフルーツの栽培面積は急激に拡大しており、アボカドの栽培は国内各地で始まっている。
      パッションフルーツもアボカドも国内での栽培が始まったばかりなので、数多くの栽培上の課題が存在する。パッションフルーツおよびアボカドの国内での栽培状況と課題、これまでの研究成果や今後必要となる研究に関して発表する。



  • 2016年2月15日(月)第166回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「捕鯨の国際政治学―北極域グリーンランド島における先住民生存捕鯨と国際捕鯨委員会―」

     高橋美野梨 (北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)


    [要旨]
       国際捕鯨委員会(International Whaling Commission: IWC)は、鯨類を適切に保存し、捕鯨産業の秩序ある発展を目的に1948年に設置された。管理対象は、全世界に約85種いる鯨類中、大型13種に限定される。しかし、クジラを資源として、さらには産業として管理する主要な国際機関であり続けている。そのようなIWCが公式に規制・管理する捕鯨形態の一つに先住民生存捕鯨がある。その定義は、第33回(1981年)IWC年次会議において確立されている。

    • 先住民生存捕鯨とは、先住民による地域的消費を目的とした捕鯨であり、古くからの伝統的な捕鯨やクジラ利用への依存が見られ、地域、家族、社会、文化的に強いつながりをもつ、原住民/先住民/土着の人々により、またそれらの人々に代わって行う捕鯨。

      享受する主体は、アメリカ(アラスカ州)のイヌピアット/ユッピク、アメリカ(ワシントン州)のマカー、ロシア(チュコトカ自治管区)のチュクチ/ユッピク、デンマーク(グリーンランド)のカラーリット、セント・ヴィンセントおよびグレナディーンのベクウェイ島民である。商業捕鯨に対する風当たりが強まり、その一時停止(いわゆるモラトリアム)が採択された第34回(1982年)IWC年次会議以降も、先住民生存捕鯨はIWCが管理し、実施される主要な捕鯨形態となっている。しかし、IWCにおいて先住民生存捕鯨は、認められるべき権利として常に位置付けられていたわけではなかった。本報告では、先住民生存捕鯨枠を享受する地域の一つ、グリーンランドを事例に、IWCの制度と現実との相反を明らかにする。



  • 2016年1月25日(月)第165回 国際島嶼教育研究センター研究会
    16時30分 総合教育研究棟5階

    「海藻研究者37年の回想」

     野呂忠秀 (鹿児島大学水産学系/水産学部)


    [要旨]
       鹿大における藻類学の研究は、川内川産チスジノリを記載した岡田喜一や紅藻アマノリの分類学的な研究をした田中剛に始まり(1950’s)、その後は植物プランクトンや海草類の野澤洽治(1970’s)と紅藻イギス科の分類学的研究を行った糸野洋(1980’s)、赤潮プランクトンの井上晃男(元島嶼センター長、1970’s)へと継承された。演者は野澤研究室で奄美大島瀬戸内町の藍藻を卒論で研究し(1974)、北大大学院で正置富太郎に師事し、紅藻サンゴモの分布生態を研究し磯焼け海域におけるサンゴモがLithphyllum yezoenseであるとした。その後は、鹿大水産学部に助手として採用され、鹿児島湾産赤潮の原因種がChattonella marinaであることやその微細構造を調べ、冬季の低温下で休眠胞子が海底の泥の中で越冬できることを証明した。後に緑藻ヒトエグサの養殖や褐藻ホンダワラ属の分類学研究に転向し、鹿児島湾の海洋観測調査(2000)や種子島におけるトコブシ(小型アワビ)の資源調査も行った。島嶼センターのYap島調査ではモンパノキのシガテラ毒低減効果を調べ、インドネシア水産高校教員研修、“3億円プロジェクト(通称)”の運営を主導したが、このたび37年の鹿大勤務を終えるにあたってこれらを回想したい。









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