- 2015年12月14日(月)第164回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「帝国の境界に位置する島―19世紀後半の極東における島嶼と地政学―」
スティーブン・ロイル (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
極東では欧米諸国に有利な不平等条約のもと19世紀に条約港が設定され、それに伴う衝突が各地で起きた。島津久光の行列に乱入したイギリス人が現在の横浜市鶴見区生麦付近において殺傷された生麦事件は有名である。この事件を契機として1863年に薩英戦争が勃発した。鹿児島市維新ふるさと館には、この戦争が「日本は鎖国をやめて開国するべきであることを明らかにした」との掲示物がある。1865年には薩摩藩遣英使節団19名(うち薩摩藩第一次英国留学生15名)が英国に渡り、1868年に明治維新が起きた。
極東は砲艦外交により開港させられたところが多い。アフガニスタンや英領インドがロシアの脅威に晒されていた戦況下、英国は戦略的に重要な巨文島(Port Hamilton)を1885年4月に朝鮮王朝から奪取した。巨文島占領を他国(特にロシア)に対して先行するために、そして朝鮮(将来的には対馬などの日本の島嶼)に英国の領土を持つために、英国は島を租借あるいは購入することで占領を合法化しようと考えていた。しかし、英国が巨文島を占拠することで、ロシアが巨文島に手を出せないこと自体に意味があった。中国と日本は公的には抗議したものの、暗黙裡には了承していた。
島を防衛するためには大規模な要塞が必要であるとわかったため、アフガニスタンにおけるロシアとの紛争が解決した後、英国は巨文島を放棄したかったが、ロシアの巨文島への進出を恐れた。しかし、中国が「ロシアと中国は朝鮮の正当性を尊重する」という合意を取り決め、ロシアが巨文島を占領しないと思われたため、英国は1887年2月に巨文島を放棄した。
帝国の境界に位置する島における一連の出来事は、無力さや周縁性、戦略上の立地といった島の特徴を典型的に示していると思われる。
- 2015年10月19日(月)第163回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「あなたの知らない寄生虫の魅力を語る―南の島は寄生虫天国―」
上野大輔 (鹿児島大学大学院理工学研究科)
[要旨]
寄生虫。この言葉を聞いて、ポジティブなイメージを抱く人は世界中に一体何人いるでしょうか。おそらく多くの人は、寄生虫に危険、有害、気持ち悪い等々の、ネガティブな印象を持っていることでしょう。しかし、寄生虫の姿形を実際に見たことがあり、鮮明に思い浮かべることができる人はあまりいないのではないでしょうか。一括りに寄生虫と言っても、実は様々な種類が存在し、その暮らしぶりは非常に多彩です。演者はこれまで、主に海に生きる寄生虫に焦点を当てた研究を行ってきました。特に、世界各国の熱帯域から亜熱帯域の島々の海には、様々な動物を宿主とする寄生虫が多数生息し、そのほとんどは未知の生態に包まれているばかりか、一度も発見されたことがないものであるということがわかってきました。果たして、それらはみな人間に危害を加える恐ろしい種ばかりなのでしょうか?今日は、演者が研究してきた海の寄生虫を中心に紹介し、その魅力や研究意義についてお話したいと思います。
- 2015年9月28日(月)第162回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「近世の種子島と家譜史料」
屋良健一郎 (名桜大学国際学群)
[要旨]
中世の種子島を支配していた種子島氏は、16世紀に島津氏に従属し、近世には薩摩藩の家老として活躍した。種子島家が19世紀に編纂した『種子島家譜』は、種子島の歴史を知るための重要史料であり、これまでの研究でも頻繁に利用されてきた。『種子島家譜』以外にも、種子島には延宝5年(1677)に編纂された『種子島譜』、明和6年(1769)に編纂された『種子島正統系図』という二つの家譜、さらには種子島家の家臣によって記された家譜に類する史料が存在する。これらの史料の記述には似通ったものが多いが、若干の違いも存在する。その違いに注目することで、それぞれの家譜の特徴や、『種子島家譜』だけでは見えてこない種子島の歴史について考えていきたい。また、家譜以外にどのような史料が種子島に存在するのかを紹介し、今後の種子島研究の展望についても述べたい。
- 2015年7月13日(月)第161回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「法と映画―インドネシア憲法裁判所判決から見る家族像の変遷―」
疋田京子 (鹿児島県立短期大学商経学科)
[要旨]
近年、アジア諸国において司法審査権の拡大・強化が進み、司法が政治過程や政策形成に大きな影響を与えるようになってきています。インドネシアでも2002年の憲法改正によって設置された憲法裁判所が、法令の違憲審査をはじめ選挙結果に対しても積極な憲法判断を行って政治的混乱に終止符を打つ役割を担っています。
こうした現象は、確かに民主的統制を受けない司法の政治化は、一方でその正当性が問われます。しかし、民主的意思形成で失敗したジェンダー問題の是正をする役割を担う可能性も秘めています。特にイスラームを抜きには語れないインドネシアの家族像の変遷に対して、憲法裁判所の判断は大きな後ろ盾になっているようにも思えるのです。
メディアのイスラームへの注目は、テロや女性抑圧ばかりに集中しがちですが、そうしたイスラームへの眼差しに対して、新たなイスラームの自画像を作り出そうとするインドネシア社会の動きに注目してみたいと思います。映画は社会の自画像を映し出すとも言われます。近年インドネシアで大ヒットした映画の中の家族像と、憲法裁判所の憲法判断に現れた「あるべき家族像」を、分析してみたいと思います。
- 2015年6月15日(月)第160回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「島嶼文明(?)先史・原史時代の奄美・沖縄諸島」
高宮広土 (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
奄美・沖縄諸島の先史・原史時代にはナスカの地上絵などの「文明的」な遺構は存在しない。しかし、最近の研究によりこの地域の先史・原史時代には世界の島々と比較して大変珍しい文化現象があったことが明らかになりつつある。まず、奄美・沖縄では10カ所以上の旧石器時代の遺跡が知られているが、世界的にみるとほんの一握りの島しかこの頃現生人類は到達していない。続く貝塚時代には狩猟採集民の時代であったが、奄美・沖縄諸島のような島でこれほど長期にわたり狩猟採集民がいた島も知られていない。さらにこの地域の島々では狩猟採集から農耕への変遷および狩猟採集のバンド社会から国への進化がみられたが、このような現象も世界的にみると大変珍しい。最後に島嶼環境は大変デリケートで特にヒトの集団が適応すると環境の劣悪化が起こることが「定説」となっているが、最近の研究によるとこの地域では人々は環境への影響を最小限にとどめ、島の環境と調和して生存していたようである。以上の文化現象は、島嶼環境とヒトという観点からすると、それぞれ一つでも珍しい現象であるが、それが5つも存在したということは(科学的な表現ではないが)奇跡的でもある。また、古代エジプトなどの文明は世界で6カ所知られているが、奄美・沖縄諸島先史・原史時代のような文化を有した島はひょっとしたら1カ所のみかもしれない。その点で、ある意味「島嶼文明」と呼んでもいいのかもしれない。
- 2015年5月18日(月)第159回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「小島嶼におけるサゴヤシ澱粉工業を基礎とした持続的な食料安全保障―インドネシア・マルク州を事例として―」
ワルディス・ギルサン (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
インドネシアにおける食料安全保障の問題点として米食への過度の依存があげられる。気候変動の影響や水不足、外的投入資材の高騰などにより、近年の水稲生産は安定しているとはいえない。米の需要が今後一層高まることを想定して、インドネシア政府は水田の拡張や灌漑の整備、肥料の提供などをおこなうとともに、米の消費量を減らすために地元食品の利用を奨励している。しかし、地元食品の潜在力に関する研究はこれまで非常に少なかった。そこで本発表では、インドネシア・マルク州における地元食品の潜在力、地元食品への嗜好性、小規模サゴヤシ澱粉工業の実態について報告する。調査の結果、マルク州には63,900haのサゴヤシ林が存在し、乾燥サゴヤシ澱粉に換算して一年間で3兆9900億ルピア(約400億円)の経済価値があると推定され、サゴヤシ澱粉はマルク州における食糧安全保障の基幹になりうることが明らかとなった。しかし、現在のサゴヤシ澱粉生産は上記の潜在力の2%以下に留まり、また米の消費量や家計の収入が高くなるにつれてサゴヤシ澱粉の消費量が低下することがわかった。小規模サゴヤシ澱粉工業は、サゴヤシ澱粉に付加価値つけ、地元での雇用を創出し、一年間で3億4650万ルピア(約350万円)の純利益を得てきた。しかし、サゴヤシの高騰やサゴヤシ澱粉の低価格、労働者の低賃金、輸送費の高騰、市場への限られたアクセスなどを理由に、小規模サゴヤシ澱粉工業は持続的とはいえない。それゆえに、市場の拡大、地元食品産業による特産品の開発、現存する水田の集約化、農民組織能力の強化、地元食品工業発展のための優遇措置などが持続的な小規模サゴヤシ澱粉工業に必要と思われた。
- 2015年4月20日(月)第158回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「温暖化最前線にある鹿児島の果樹生産―南北600kmの自然条件を活かして―」
冨永茂人 (鹿児島大学農学部(現・かごしまCOCセンター))
[要旨]
鹿児島県は熊本県境から与論島まで、南北の緯度にして5°、距離にして約600kmあり、南側の約500kmには200以上の島々がある。このように南北に長い鹿児島県では気象条件が地域によって異なり、平均気温は大きく異なる。夏の気温は南北の差は小さいものの、秋冬季にあたる10〜3月の平均気温は地域によって大きく異なり、島しょ地域は秋冬季が温暖で10月から3月の平均気温は高く推移している。
この多様な気象条件のために、鹿児島県で栽培されている果樹もナシ、ブドウなどの落葉果樹からマンゴーやパッションフルーツなどの熱帯・亜熱帯果樹まで多彩であり、北部および内陸部の伊佐、姶良、川薩地域ではナシ、ブドウ、ウメなどの落葉果樹が、海岸線に近い出水、日置、南薩および大隅地域ではウンシュウミカンなど常緑性のカンキツ類やビワの栽培が主体になっている。ウンシュウミカンより温度要求量がやや高いポンカンは南薩および熊毛地域での栽培が多く、さらに温度要求量が高いタンカンは熊毛、大島地域が主要産地である。指宿、枕崎、佐多地域以南では冬季の低温不足のため落葉果樹の栽培は困難で、屋久島、種子島の熊毛地域と奄美大島を中心とする大島地域では、ポンカン、タンカンに加え、熱帯性スモモの「カラリ(花螺李)」やマンゴーの栽培が多い。
- 2015年3月16日(月)第157回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「島嶼学−三兎を追う私の学問−」
長嶋俊介 (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
日本のことわざに「二兎を追うもの一兎も得ず」という諺がある。島嶼学では三兎を追わないと、島の島らしさを捉えられず、島の人に得心してもらえる学問にはならない、という信念で取り組んできたことについてここでは話したい。
島学を志して45年。三職場「官(公会計)環(生活環境)研(多島圏)」を経て、現在いる国際島嶼教育研究センターは「三柱の学際=(海・人・土地)」「三柱の拠点(国際拠点・国内拠点・島拠点:今年奄美分室)」の場である。まだ志学の途上だが、自分なりに求めてきたものの幅と学術的挑戦について改めて短く検討してみる。「産官学(公共民)」「社会地元貢献・学術貢献・教育貢献」「島を学ぶ(島論)・島で島から学ぶ(フィールド学)・島と学ぶ(地元学)」「島内(シマンチュー学)・島外(旅ンモン学)・島出入(アイランダー学)」「島ライフの総合学術(命=生理的生殖的存在 暮らし=社会的・経済的存在 人生=精神的・文化的存在)」「鹿児島島嶼学(奄美学・薩南島学・北薩島学)」「九州広域島嶼学(琉球ネシア・鹿児島ネシア・九州北ネシア)」「日本島嶼学(太平洋ネシア・日本海ネシア・内海ネシア)」「太平洋島嶼学(ミクロ・メラ・ポリ)」「国際島嶼学(大西洋・太平洋インド洋・沿海内海)」「島嶼多様性(陸島・洋島・内陸(湖/川/運河)島)(大型・中型・小型)(近接・連結・遠隔)(火山・珊瑚・地塁)(熱帯・温帯・寒帯)(里地・里山・里海:里島)(日常[防災]・非日常[被災]・修復[復興]」「認識学(島嶼学原論)―実体学(島嶼生活環境論)―実践学(島嶼産業教育医学福祉技芸)」「学際・学融・超越学」「学会連携(国際島嶼学・日本島嶼学・島嶼関連学会)」等々がその内容になろう。三兎を追わずして小島嶼はみえない。島嶼学らしさの独自性も展望もない。という基本姿勢での研究・著作をますます本格化したいと考えている。
- 2015年2月9日(月)第156回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「島を巡る紛争と「解」−教訓的・事例的考察−」
Godfrey Baldacchino (マルタ大学)
[要旨]
この研究会では、小島嶼の歴史的パラドックスを概説する。島々の直接的な戦利的価値は、無視すべき程の利権であっても、地理戦略的・象徴的・士気喚起的理由では、決定的な違いがあるために重要とされてきた。ここ数十年間においては小島嶼の存在による排他的経済水域への寄与が追加された。
本報告では、尖閣諸島をめぐる日中間の紛争の概要から論を始める。
次に地域の大規模な対立の一部として小さな島を荒廃させた(島自体に利害関心がある場合はそれほどのことにはならない)歴史的ケースを調べる。
最後に、ゼロサム・ゲーム(利得の総和が常にゼロ)であるかのように見える紛争に対して、別の『解』を考える上での、教訓的ヒントを、過去から今に至る島嶼例をもとに提示する。ここでは、南極大陸、スヴァールバル諸島、オーランド諸島、セントマーティン島、ヴァヌツ等を事例として考察する。
- 2015年1月26日(月)第155回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「南太平洋の人類移動−自然環境との関わり−」
森脇 広 (鹿児島大学法文学部)
[要旨]
南太平洋のメラネシアからポリネシアにいたる東方への人類の移動・拡散過程は大きな関心事の一つである。これと関わる自然環境について次の二点から考える。第一に移動の起点であるビスマルク諸島、ニューブリテン島と終点の一つであるニュージーランドにおいて、火山灰編年の果たす役割を考える。第二にクック諸島における海岸低地・植生の変化を紹介する。東ポリネシアの西縁にあるこの諸島は、人類の移動過程の一つの謎とされる西ポリネシア・東ポリネシア間の年代ギャップを明らかにする上で、鍵となる位置にある。クック諸島最大の島であるラロトンガ島を中心に海岸低地と植生変化の知見がこれとどう関わるかを考える。
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