- 2014年12月1日(月)第154回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「古代ギリシアの農業:農業用テラス(段々畑)について―エーゲ海の島嶼の場合―」
伊藤 正 (鹿児島大学教育学部)
[要旨]
古代ギリシア語にはテラスに当たる言葉がない。現代ギリシア語にはテラスを示す二つの言葉が知られている。一つは、stepped terracesを示すskalaと、もう一つは、narrow
high terracesを示すskamataである。Rackham / Moodyはテラスのタイプを三つに分類している。Lohmannに拠れば、古典期に建設されたテラスはparallel-stepタイプであったとされるが、これはRackhamの分類では、stepped
terracesに当たるもので、現代ギリシア語のskalaと呼ばれるタイプのものである。このタイプのものは、わが国において棚田あるいは段々畑と呼ばれているものである。このタイプの農業用テラスはわが国に限らず、世界の至る所で、あらゆる時代に確認できる。中世以降、段々畑はエーゲ海キュクラデス諸島の田園景観の特徴の一つである。本発表では、古代ギリシアにおける農業用テラスの有無について、クレタ島、アモルゴス島およびデロス島の事例を中心に考察する。
- 2014年11月17日(月)第153回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「ニュージーランドにおける修復的司法および少年司法」
ジョージ・ムスラキス (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
過去30年以上、「修復的司法」として知られる、犯罪と犯罪性に対する社会の反応に関する新たなアプローチは、世界中で普及してきた。この革新的なアプローチは以下の3つの考えを主要なテーマとしている。すなわち、犯罪は第一義的に、被害者、犯罪者およびコミュニティーの関係性の侵害である、という考えである。続いて、司法手続の主要な目的は、違法な行動によって直接影響を受けた者たちの被害を扱うと同時に、彼らを和解させることでなければならない、とも考える。さらには、犯罪に関連した衝突の解決は、被害者と犯罪者の双方の側の積極的な努力、およびコミュニティーによる責任の引き受けを要求する、とも考える。近年、多くの注目を集めてきた修復的司法実務は、カンファレンスというものである。カンファレンスとは、本質的に被害者と犯罪者の調停手続の延長線上にあるものである。それには犯罪者と被害者だけでなく、彼らそれぞれの家族やその他のコミュニティーの成員といった、彼らのより広い「保護のコミュニティー(communities of care)」をも含む。それは、若い犯罪者、被害者、そしてその家族を、‘公正な’結論に関するグループの同意に到達するという目的を持った決定のプロセスに関わらせることを目指す。同時に、それは犯罪者の、彼や彼女の行動が及ぼす衝撃に対する意識を促進させ、犯罪者と被害者の双方が、中心的なコミュニティーのサポートシステムに再度つながることができるようにすることを追及する。「ファミリー・グループ・カンファレンス(FGC)」として言及されるニュージーランドにおけるカンファレンスは、『子供、若年者およびその家族法(CYPFA)』の導入に伴って、1989年に少年司法制度に組み入れられた。この法はある意味では、司法制度は彼らの伝統的文化的価値に対して、より敏感であるように、というマオリ族の要求に応えたものとして現れた。そしてそれは、少年司法および家族の福祉の問題を扱うためのアプローチに関して、重大な変化をもたらすものであった。この報告は、より広い修復的司法哲学との関連において、ニュージーランドにおける「ファミリー・グループ・カンファレンス」の機能を分析するものであり、少年犯罪と関連する問題を扱うカンファレンス・システムの役割を評価するものである。
- 2014年9月1日(月)第152回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「鹿児島における救急医療の現状と未来像−鹿児島大学病院救命救急センターと離島へき地のコラボ−」
垣花泰之 (鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
[要旨]
医療分野における「へき地」とは「交通条件及び自然的、経済的、社会的条件に恵まれない山間地、離島その他の地域のうち、医療の確保が困難である地域をいい、無医地区、無医地区に準じる地区、へき地診療所が開設されている地区等が含まれる。」と定義されています。鹿児島県には、無医地区が16地区(うち離島は4地区)、準無医地区が37地区(うち離島は33地区)あり、離島・へき地にみられる医師不足・救急医療体制の不備などが深刻な問題として指摘されています。県内のどこに住んでいても,医療ニーズに応じて,いつでも、どこでも安心・安全で質の高い医療サービスを受けられるようにすべきです。その実現に向けて、鹿児島県の離島・へき地における医師供給システム、医師研修システム、傷病者搬送システムをどのように構築していくのかが重要です。鹿児島大学病院救命救急センターがその問題に対してどのような役割を担っていくのかに関して考えたいと思います。
- 2014年7月14日(月)第151回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「100歳と長寿の文化人類学―沖縄・済州島他諸外国470人インタビュー―」
全 京秀 (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
百歳人の特性は、民族誌作成のフィールドワークの中で個人的な面談を通じて明かされるさまざまな範疇についての記憶、仕事および労働倫理、人生についての態度そして、食べ物のような範疇を通して帰納的に理解されるものである。彼らの家族構成員および友達と関連した意識に関する記憶は彼らの社会的ネットワークとの関係を表している。一部の記憶はとても古くなり民族誌的面談の間に思い起こすことが難しい場合もあった。また、一部の百歳人は不幸な記憶を話したがらなかった。このような場合には大概、口数少ない面談に終わったため研究者は正確な内容を聞くことができず、その結果百歳人は社会的人生としてだけでなく研究対象としても無視される傾向がある。
老年学者が使用する日常の暮らしに関する調査活動のような構造的なアンケートは百歳人の研究に使用することができない。民族誌的な研究は百歳人の身体的反応と記憶回想力と関連したゆっくりした精神的な過程を調整しながら待つ時間と忍耐心を必要とする。このような状況がまた、百歳人の研究を天佑神助的なものにするのである。
フィンランド、サルデーニャ、ウェスカおよび沖縄の多くの百歳人は病院で寝たきりの生活を送っている。ウイグルと済州島では、彼らの大部分は家で家族と共に生活しており、一部の百歳人はまだ畑で仕事をしたりもする。寝たきりで生活する多くの百歳人が人間化石になっていくことは事実だが、皆が皆そうであるわけではない。18 世紀の済州島の牧使は王に「80 代と90代の人々は幸せの象徴である。百歳人は国家にとっての非常に重要な象徴である」と報告した。百歳人は化石ではなく社会の宝石と見なされていたのである。未来の「年齢地震(agequake)」に順応する長寿文化を過去の社会で老人を遇してきて伝統的な脈絡に基づいて再発明されなければならないのではないだろうか。
- 2014年6月30日(月)第150回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「シーカヤックで観たルソン島東岸の漁村」
山岡耕作 (高知大学名誉教授)
[要旨]
黒潮は日本に多くの恵みをもたらす。その下流域に位置する我が国では、黒潮に関する自然科学、人文社会科学的な研究はかなり行われてきたが、源流域であるルソン島東海岸ではほとんど研究はなされていない。新たな学問分野である「黒潮圏科学」を創り上げる為には、黒潮上流域の情報を集めることが必要だが、道路のないところも多く、アクセスすることが困難であった。その時、シーカヤックが持つ移動手段としての能力を知ることとなり、2010から2012年度の三年に渡り、石垣島在住の海洋冒険家八幡暁氏と共に、約千キロにわたってルソン島東海岸の漁村を訪問する機会を得た。出発地はルソン島南東部アルバイ県タバコ市、最終到着地は島北東端のカガヤン県サンターナ。各漁村では漁業や生活について聞き取りを行った。その結果について報告すると同時に、シーカヤックの持つ野外調査ツールとしての可能性について考えたい。
- 2014年5月26日(月)第149回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「衛生昆虫・寄生虫の種分化に関連する研究について」
大塚 靖 (鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
衛生昆虫・寄生虫の研究において種の同定は大変重要な部分である。近年、塩基配列を用いた分類が行われるようになり、これまで知られていた種の中に隠蔽種 cryptic species の存在が明らかになってきている。その例としてタイのマラリア媒介蚊の一種であるAnopheles barbirostris種グループは塩基配列や染色体や交配実験などで5種に分けられるがわかったが、実際にはそのうちの一種のみがマラリアを媒介していると思われる。また、日本で初めて見つかった人獣共通オンコセルカ症はイノシシに寄生するOnchocerca dewittei japonicaが起因種であるが、日本のイノシシには形態の大変似ているもう一種が存在していることが明らかになり、そちらの病気との関連も疑われることとなった。このような研究が今後どのように展開していくのかを考えていく。
- 2014年4月21日(月)第148回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「南西諸島における近世陶磁器の流通−三島・十島における考古学的踏査から−」
渡辺芳郎 (鹿児島大学法文学部)
[要旨]
報告者は南西諸島における近世陶磁器の流通に関心を持っている。しかし三島・十島(トカラ列島)の考古学的情報はきわめて少ない。そこで基礎資料の蓄積を目的に、2012・2013年に考古学的踏査を実施した。その結果、三島・十島の近世陶磁器の流通は、鹿児島本土域と共通する点もある一方、とくに十島においては中国磁器の分布が密であったことから、沖縄との密接な関係が想定できる。また明治時代の文献などを手がかりに流通形態を推定した。三島・十島では、別の目的で鹿児島や奄美・沖縄に渡航した際に陶磁器もあわせて入手したと想定できる。また日用品以外に、神社への奉納品としても陶磁器が島に持ち込まれた可能性が指摘できた。
- 2014年3月17日(月)第147回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「寄生虫に寄生して37年」
野田伸一 (国際島嶼教育研究センター)
[要旨]
人に人以外の生物が寄生する病気が感染症である。感染症の原因となる生物は幅が広く、そのうち原虫や蠕虫(線虫、吸虫、条虫)を対象とするのが人体寄生虫学である。人の体表に寄生する外部寄生虫、病原体を伝播する媒介生物、さらに人に直接危害を与える生物などに重点を置いた名称として医動物学が用いられる。わが国では生活環境の改善によって多くの寄生虫病が克服され、現在問題になっている寄生虫病は、動物の寄生虫が人に感染し診断困難な症状をひきおこす幼虫移行症である。鹿児島県の畜産業との関連で発生したブタ回虫症について解説する。鹿児島県はダニ類が媒介するツツガムシ病や日本紅斑熱の多発県であり、重症熱性血小板減少症(SFTS)も発生していることから、媒介するダニ類についても述べる。ミクロネシア連邦における蚊の分布調査は本センターに赴任後に始め、4州における分布調査を終えることができた。ヤップ州やコスラエ州ではデング熱の流行が報告されており、蚊の分布調調査はデング熱対策の基本となるもので、調査結果について紹介する。
- 2014年2月17日(月)第146回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「アジアにおけるアリの多様性調査とネットワーク」
山根生氣 (鹿児島大学理工学研究科)
[要旨]
これまでに12,500種ものアリが世界のあちこちから見つかっている。しかし、アジアの発展途上国には未知のアリが数知れず密かに生息 している。生涯に一度しか出会えない稀な種がいるかと思えば、人手をかりて世界中に広まっている種もいる。約20年にわたるアリ類の多様性研究をふりかえり、アジアにおけるアリ研究のホットな話題を紹介し、現在の研究の到達点を報告する。また、充実したコレクション設立や自立した研究者の出現が分類学や多様性生物学にとっていかに重要かを、アジア・アリ学ネットワーク(ANeT)の活動を通じた経験から紹介する。重要なことは、人材の発掘、個性の尊重、国際的視野、交流の持続である。
- 2014年1月20日(月)第145回 国際島嶼教育研究センター研究会
16時30分 総合教育研究棟5階
「ある藩士の流罪―八丈島を事例に―」
佐藤宏之 (鹿児島大学教育学部)
[要旨]
延宝7年(1679)正月、越後高田藩において家老小栗美作と反美作派の永見大蔵の対立に藩主松平光長の継嗣問題が絡んで紛争が激化(いわゆる越後騒動)。この騒動は幕府重職間の対立も絡んで長期化したが、延宝9年6月、5代将軍徳川綱吉の親裁により小栗父子の切腹、永見以下の遠島・配流、松平光長の改易など一連の処罰が決定する。
本報告で扱う「ある藩士」とは越後騒動の主役のひとりである永見大蔵のことである。永見は綱吉の親裁によって八丈島に遠島を申し付けられる。
本報告では遠島にかかる、幕府・藩・預け人を取り巻く環境や相互の関係性に迫り、遠島が意味するものを考えてみたい。
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