国際島嶼教育研究センター
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研究会などの記録 
2009年(多島研)

  • 2009年11月16日(月)第101回 多島圏研究センター研究会

    「南西諸島のさとうきびと新制度 」
    坂井教郎(鹿児島大学農学部)
    16時30分 総合教育研究棟5階

     鹿児島県から沖縄県に連なる南西諸島では,長年,多くの島々でさとうきびが栽培され,粗糖(白糖の原料)や黒糖が製造されてきた。さとうきびはその島の「基幹作物」と言われ,これまで島の農家の所得を支え,島社会を維持する役割も果たしてきた。
     このさとうきび作は,一連の農政改革の流れの中で,2007年から「品目別経営安定対策」の対象となった。この新制度の意図は,さとうきび作の生産コストの低減を進めることで国民負担を減らすとともに,さとうきび作の担い手を育成・確保することとされている。新制度の下では,さとうきび農家が従来通りの収入を得るためには,政府が定めた要件を満たす必要があり,南西諸島のさとうきび生産は現在,大きな変革を迫られている。
     本報告では,南西諸島におけるさとうきびの現状とさとうきび・製糖の制度的な仕組みを述べるとともに,新制度の影響やそれに対応する島の取り組み・課題等について考察を行う。
  • 2009年10月19日(月)第100回 多島圏研究センター研究会

    「ケルト学とは何か?」
    原聖(女子美術大学教授)/ ピエール=イヴ・ランベールPierre-Yves Lambert(フランス国立高等研究院教授)
    16時30分 総合教育研究棟5階

     ケルト学は19世紀に西ヨーロッパで生まれた学問で、最初は「ケルトマニア」に対する反動として登場しました。ケルト学がカバーする領域は考古学、歴史言語学、文学史、さらには方言学、フォークロア等々、多岐に及びます。これらの学問分野のそれぞれが、時代と場所に応じて、ケルト人の一側面の解明に寄与するのです。ケルト学はこの多様性のため、人文諸科学の全体に目配りしなければなりません。たとえある種の考古学者や言語学者が今日「ケルト人」という概念を使うことに難色を示しているとはいえ(「ケルト懐疑主義」です)、歴史のなかで、また現代においてもなお、「ケルト」という紛れもない現実があるということは動かしがたいことであり、最も重要なことは、アイルランド、ブルターニュ、スコットランド、ウェールズにおいて、現代のケルト文化がいまなおそこにあり続けているということなのです。
  • 2009年9月28日(月)第99回 多島圏研究センター研究会

    「沖縄の環境問題〜泡瀬干潟の開発問題を中心に〜 」
    水野隆夫(泡瀬干潟大好きクラブ代表)
    16時30分 総合教育研究棟5階

     1972年の本土復帰以来、過重な米軍基地負担の見返りと沖縄振興という美名の元に、投下された巨額の国家予算は沖縄の海も山もずたずたにしてきた。そんな中で、泡瀬干潟は沖縄本島に奇跡的に残された沖縄最大の干潟である。
     面積は約265ha。琉球諸島が世界自然遺産に登録されるときには、その中核となる貴重な自然である。絶滅危惧種の多さは驚くほどである。地元の沖縄市が国が埋め立てる人工島にホテル、人工ビーチ、マリーナなどによる海洋リゾート計画を作った。2000年12月埋め立て工事187haが認可され、内閣府沖縄総合事務局は2002年埋め立て工事を開始した。環境アセスメントは驚くほどずさんだった。今や埋め立てによる生きものの減少や砂州の変形などが著しい。
     昨年11月、那覇地裁は県、市に公金の支出禁止を命ずる画期的な判決を下した。今年1月15日、深夜のニュース23はサンゴの海に大量の泥投入が強行される映像を流し全国の視聴者を驚愕させた。本土復帰以来、沖縄振興計画が沖縄県にもたらしたものは実は県民の財産である貴重な自然の破壊に過ぎなかったことを泡瀬干潟の埋め立て強行が証明しているようだ。4月、琉球新報は内閣府が夏からの埋め立て工事を保留するらしいと報じた。福岡高裁那覇支部は10月15日に判決を出す。控訴審にも勝ち、埋め立て工事を中止させたい。泡瀬干潟がエコツーリズムの全国のメッカとなる日もそう遠くはない。
  • 2009年7月13日(月)第98回 多島圏研究センター研究会

    「島嶼地域・奄美における持続可能な観光」
    村上 光信 (赤塚学園教育顧問)
    16時30分 総合教育研究棟5階

     奄美の持続可能な観光についての試論を発表したいと考えています。 ハワイの危機を救った4つのアイディアと沖縄長寿はDNAではなく長 寿食文化の発見が現在の成功を導いています。そこで同じ島嶼地域 である奄美大島の持続可能な観光はどこにあるのかを探る研究です。
     観光の歴史を検証すると観光形態の変化が見られます。@団体旅行 から個人旅行に移行した。A旅行主体の変更も起こり旅行社頼みの旅 行から個人でインターネットを利用しての情報収集からホテル、交通 手段の購入までできる。旅行の主役の変化としては団体旅行から家族 旅行へと変化している。また、旅行志向の面での変化も見る観光から 遊ぶ観光、スポーツ・文化・健康を体験する観光へと変化し、特に近 年は健康志向の影響で長寿食文化への傾向も増加しており、特にWHO 長寿研究班の家森幸男京都大学教授が「沖縄長寿はDNAではなく食文 化が長寿を育むのだ」と科学的に証明した事は大きいと言えます。
     ONLY ONE の存在は観光客が来る大きな要因です。7月22日の皆既日 食ツアーが国内だけでなく、国外からの観光客や研究者の参加をもる とまさしくその1例であると言えます。そこで奄美のONLY ONEは何か? 鹿児島県や国が負のデーターと紹介されている「少子高齢化」に勝利 しているモデルが奄美にはありONLY ONEだと考えています。鹿児島県 のデーターでは「奄美の長寿と高い出生率は重要な共通性がある。」 と紹介しています。さらに、その共通性とは国が出している犯罪白書、 自殺対策白書の問題にも勝利するヒントが含まれていると論者は考え ています。
     観光にはストーリー性が大事と言われるが、奄美の長寿と高い出世 率はウエルネス概念を基盤に新しい奄美のウエルネス観光としての可 能性が含まれるストーリー性がありONLY ONEの観光資源にできると考 えています。
  • 2009年6月8日(月)第97回 多島圏研究センター研究会

    「Histories of the Before: Leluh, Nan Madol, and the Deep Past」
    David Hanlon (多島圏研究センター, University of Hawai'i))
    16時30分 総合教育研究棟5階

      This presentation focuses on the megalithic ruins found at Leluh in Kosrae and Nan Madol on Pohnpei. Both Kosrae and Pohnpei are high volcanic islands separated by 400 miles of ocean; they are part of the Eastern Caroline group of the larger Micronesian geographical area. The similarities between the two sets of ruins are striking, and suggest contact, influence and exchange of a significant degree. Scientists date the beginnings of construction at Leluh and Nan Madol to AD 1250-1400 and AD 900-1100, respectively. The word "prehistoric" does them no justice. While the subject of comment by later explorers, travelers and archaeologists, these similarities invite more extensive consideration for their potential to reconfigure the histories of these islands away from colonial presumptions and categories, and toward more local constructions of time, space, distance, movement, and migration. The very idea of Micronesia is placed at risk by this and other examples of contacts and articulations among islands in the time before the establishment of formal colonial rule in the region. An exploration of the engagement between Kosrae and Pohnpei in the deeper past also offers a different historical perspective on mobility and abiding within and beyond contemporary "Micronesia."
  • 2009年5月18日(月)第96回 多島圏研究センター研究会

    「離島振興の目的と法制定経緯要旨」
    鈴木勇次(長崎ウエスレヤン大学)
    16時30分 総合教育研究棟5階

     離島を研究する者、離島を所管する行政関係者の間では、離島振興法が存在することは周知のことである。しかし、社会学、地理学、民俗学等「地域」の有り様や変化を研究する者にとっては、島あるいは離島が調査・研究対象になる場合があっても、離島振興、離島振興法は、限定的に認識されるようである。また、歴史学、経済学、法学等の研究分野にかかわる者にとっても同様と思われる。ただし、経済学者の中には、投資効果の視点で離島振興のあり方を分析するものもいる。
     そもそも、離島の存在と離島振興とはいかなる関係があるのであろうか。「しま」を示す表現「島」または「島嶼」と「離島」は同義語と見なしてよいものであろうか。これらについては、未だ十分議論されていない気がする。極論するならば、地理学者でも民俗学者でも、これらを混同して使用している感がある。
     一方、島に関する共通概念は、「満潮時、海面上に現れている陸の固まり」(=四面環海)ということで、大方定まっているようである。しかし、その島と人々の居住・生活との関係については、研究者により異なる。島と人との関係についての議論の第一歩は、有人島、無人島の違いに関わるものであるが、その概念は不確実である。
     さて、本稿では、昭和28(1953)年7月、10カ年の時限法で議員立法により制定された離島振興法について論ずることとする。問題の第一は、離島振興法が適用される地域とはどこかであり、第二は、同法の適用目的は何であるかである。すなわち、第一の問題は、同法の適用地域が有人島であるのか、または無人島も対象になるのかである。仮に対象地域が有人島に限定されるのであれば、有人島の定義が必要になる。
     しかし、今日、有人島の定義は、少なくとも法的には定義されたことがない。多分、学際的にも定義されていないのではないかと思われる。第二の問題、すなわち離島振興法の離島への適用目的が地理学上の陸塊である島、離島そのものであるのか、それとも離島に居住する人々なのかである。「島に生きる人々」が対象であれば、ある面での完結できる生活環境の構築が求められる。しかし、離島自体が対象であれば、旧来から居住する島民に限らず、本土住民も利活用できるための基盤整備可能となる。換言すれば、離島は国民のものか、当該離島民のものかの判断である。
     離島振興法は、制定当初は、本土より隔絶せる離島の後進性の除去が目的であったが、平成14(2002)年の法改正では、領域、排他的経済水域の保全等に重要な役割を担っている離島の役割の達成が目的となった。すなわち、離島に定住する島民のみではなく、本土住民の関わりが容認される状況になったと考えられる。ということは、いわゆる小笠原法、沖縄法の適用範囲に関わる問題である。
     一方、離島の特性である隔絶性の緩和・解消を問題にする時、対本土交通改善は最優先の事項である。しかし、離島振興法はそのための対策面では決して十分機能していない。何故そのような状態であるのかは、十分な研究が必要である。今回は、こうした離島に関する基本的問題の一端を報告する。
  • 2009年4月13日(月)第95回 多島圏研究センター研究会
    「フィジーの野菜と野菜の発達」
    衛藤威臣(鹿児島大学農学部)
    16時30分 総合教育研究棟5階
     フィジーにはフィジー起源の野菜はないが、先住民の人々、移住して人口の半分を占めるインド系の人々それぞれが好む野菜がある。
     栽培植物は熱帯、亜熱帯のやや高地での起源が多いが、野菜は温帯起源も多い。しかし、日本起源の主要な野菜はない。現在の品種改良された野菜でも基本的な性質は起源地での原種の生理生態特性そのものである。そのため、起源地の自然条件、生態に合わせた栽培が野菜栽培の基本である。そして野菜の栽培は栽培技術と品種の両輪で成り立っている。また、野菜の発達とはその品種の発達であり、換言すれば品種の分化である。
     野菜は起源地で栽培化され、人間による無数の選抜を繰り返し、分化が進んだ。野菜の種類によっては種内分化が大きく進んだ。種内分化とは1つの生物学的種から形態的に大きく異なったグループが分化することで、これらの形態的変異は余りにも大きく、以前はそれらのグループが別種とされていた場合もある。選抜による分化の形は大きく3つに分けられる。地域によって異なる選抜、異なる部位の選抜、自然交雑した雑種の選抜の3つである。これらの選抜によって種内分化が進み、更に地方在来品種の分化が進んだ。地方在来品種とは地方で選抜され育てられ現在まで残っている品種で、それらをうまく利用して近代の交雑育種による品種が発達した。これらにより野菜の品種は非常に多様性に富む。
     以上の野菜の発達、進化、多様性をスライドで紹介する。

  • 2009年3月16日(月)第94回 多島圏研究センター研究会
    「離島におけるコミュニティ・ブロードバンドの整備」
    升屋 正人 (鹿児島大学学術情報基盤センター)
    16時30分 総合教育研究棟5階
     小規模な離島や山間部など地理的条件が不利な地域では、自治体や通信 事業者によるブロードバンド整備が技術的には可能であるにもかかわらず、 莫大な費用がかかることから現実的には不可能な状況にある。そこで、比 較的安価なIEEE802.11gに準拠した無線LAN製品を用いた中継回線の構築に 関する技術的検討を進めるとともに、地域住民が主体となって整備するブ ロードバンド情報通信基盤であるコミュニティ・ブロードバンドを実現す るために必要な民生用無線LAN機器による地域内無線ネットワークの構築と 利活用に関する研究開発を行うことにした。無線LANを用いた中継回線は国 内最長となる三島村竹島と指宿市山川間のほか、十島村悪石島・諏訪之瀬 島・平島において検証を行い、潮位の変動が無線LAN通信に与える影響を評 価した。コミュニティ・ブロードバンドの整備は十島村平島・小宝島・宝 島、三島村竹島など行ったが、特に平島では12台の無線LANアクセスポイ ントを屋外に設置し、全世帯でブロードバンドインターネット接続を可能 とし住民が日常的に利用している。一世帯あたりの構築コストは5万円以 下であり、障害発生時にも住民が自ら対応するなど、地域住民主体のブロー ドバンド情報通信基盤を構築することができた。

  • 2009年2月2日(月)第93回 多島圏研究センター研究会
    Thomas P. Bouquet (鹿児島大学理学部)
    " 日本の火山におけるSO2ガスの観測と解析"
    16時30分 総合教育研究棟5階

    The measurement of volcanic sulphur dioxide (SO2) is an important part of volcano hazard monitoring as SO2 emission rates can indicate changes in subsurface activity. This study applies a new approach to SO2 emission monitoring, using a powerful ultraviolet (UV) imaging camera that is capable of recording SO2 flux at an unprecedented time resolution. The camera was deployed at a number of Japanese volcanoes, and this presentation will concentrate on results retrieved at Sakurajima and Satsuma-I?jima. In addition, further analysis into the dispersion of volcanic SO2 will also be presented, focussing on the unique situation at the island of Miyakejima where strong winds transport dangerously high SO2 concentrations from the vent to low-lying, populated coastal areas. Interesting dispersal patterns can be observed from hourly ground-level concentration records (dating back to April 2004) along with cross-sectional profiles obtained using UV spectrometer measurements.

  • 2009年1月19日(月)第92回 多島圏研究センター研究会
    「動く遺伝子等を利用した生物種の進化解析と地理的移動の推定」
    前川 秀彰 (琉球大学分子生命科学研究センター)」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    動く遺伝子として知られており、植物からヒトのゲノム中に存在するマリナー に似たマリナー様配列(mariner-like element:MLE)を目印にして、生物種の進化 を解析している。カイコの野生型であるクワコをモデルにして、特定の座位に転 移し固定されたMLEを中国、韓国、台湾、日本に生息するクワコゲノムDNAから 単離し、塩基配列を比較した。その結果、台湾に生息するクワコは中国からの ルートと、韓国、日本から、かつて陸続きであった南西諸島(現在南西諸島には 1000mを越える山が無いためクワコは生息していないと考えている。台湾は2000m 越える山があり、クワコは高地に生息している。)を経由して台湾にいたる2つの ルートを通って移動したと推定できた。MLEを利用した方法で、沖縄に生息する ツヤオオズアリがアフリカ大陸ではなく東側のリ・ユニオン島に生息するものと近 いことがわかり、古くフランスの東インド貿易と海のシルクロードを経由して沖縄 に運ばれ住み着いた可能性を明らかにした。一方、変化の少ない遺伝子である リボゾーマルRNA遺伝子を利用して、クワコの進化を解析している過程で面白い ことが発見できた。多重遺伝子の進化において協調進化という現象が知られて いる。これは変化した一つの遺伝子が遺伝子群全てを置き換えてしまう現象で、 中国のクワコやカイコと異なる配列がある日本のクワコに生じていた。この差を 利用して、約2000年前に日本に養蚕のために移入されたカイコの染色体が野生 の日本のクワコに侵入していることを見出した。このような人為的な移動や操作 がゲノムにも影響を与えることを考慮しながら、モデル動物やモデル遺伝子を応 用して多様な生物が生息し、地殻変動が頻繁に起こっていた南西諸島で進化の 研究を進めている。





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