- 2006年12月16日(土)多島域フォーラム・シンポジウム「アジア多島域と鹿児島の戦略〜周辺と学際・国際貢献〜」
13時30分〜17時30分
場所:鹿児島大学大学院 連合農学研究科3階大会議室
[要旨] 鹿児島県にはアジア地域を対象にした草の根の交流において、先駆的な活動をしたNGO団体がある。また鹿児島大学にも、アジア・太平洋島嶼域を対象にした研究蓄積が多い。それは、単発的研究のみではなく学際的・チーム研究や実践的研究を通じての成果であったり、間接・直接の技術協力だったり、国際交流的(調査・研究活動の派生的効果ともされる)意義を持ったり、さらには人材育成や地域開発への具体貢献であったりしたものも多々ある。無論鹿児島県庁をはじめとする地方公共団体やNGO・企業などの貢献事例には枚挙のいとまがない。近年では国際協力機構(JICA)等政府関係機関・地方公共団体・NGOと大学との連携での諸事業も増えつつある。これらの過去の実績を振り返ると共に、それらを結びつけ、その展望についてさらに深く考えることは、鹿児島の国際・地域貢献戦略の上でも、きわめて重要である。今回はアジア多島域を対象とした考察を行う。アジア多島域は日本の周辺(非中心)域である鹿児島から琉球弧を通じて一部は南に繋がる島嶼域であるとともに、広くアジア広域や太平洋とも隣接する海域である。
鹿児島大学国際戦略本部プログラム・ディレクター「鹿児島大学のリソースと展望」を手かがりに、【周辺と交流】アジアへの草の根交流と鹿児島、【医療】鹿児島における島嶼医療を活用した国際貢献、【環境】熱帯雨林の研究を通じた展開と展望、【食資源】海草の取り持つアジア多島域との交流についてさらに深めた議論・討論を行う。なおこの会場には、今回テーマにふさわしく、インドネシア政府派遣約60名の水産・教育関係短期研修生も拝聴(討論も期待したい)に参加予定である。一般市民・行政・企業・NGO関係者と共に、国際貢献に関する鹿児島固有の役所(やくどころ)、大学や研究組織が担うべき役割と責任などについて、共に考える場としたい。
【基調講演】
鹿児島大学のリソースと展望 -ASEAN地域の開発の歴史・現在と協力展開の可能性-
高間英俊(国際戦略本部)
この4月までタイのバンコクで、ASEAN地域への日本のODA(開発援助)の企画の仕事をしていた。これまで、およそ20数年間アジア開発問題及び10数年間太平洋地域の島嶼問題に関わってきた。その経験を踏まえて、鹿児島大学とアジア太平洋地域との関わりとその国際戦略を論じてみたい。鹿児島大学は、本学が所在する鹿児島・南西諸島周辺と地理的に類似性を有する東南アジア・太平洋地域に数々の国際貢献をしてきた。その活動は、1980年代より本格的に進められている。1984年から89年マレーシア農科大学のJICA人造りプロジェクトでは、9人の鹿大の教官が専門家として派遣された(うち3名は長期)。その後第2フェーズとして、1998年から2003年まで同大学のマラッカ海峡の環境調査プロジェクトにも協力した。両プロジェクトでは、鹿大教官のもとで、現地でも鹿児島でも一生懸命に人材を育成した結果、何人かには、鹿大の学位が与えられた。たとえば、現在マレーシア・サバ大学(1992年設立)のボルネオ島海洋研究所では、研究者20人中4人が、本学の学位を有している。彼らの熱い視線が本学に向けられている。しかし、こういうことを知っている方は、本学では少なくなった。いままでの輝かしい鹿大の成果が、単発的であったり、成果が点としてあったり、線や面として組織的に共有されていなかったりしたと思う。一方、目をアジアに転じれば、ASEANの経済統合のスピードは非常に速い。70年代には、シンガポール、マレーシア、インドネシアの三国による成長の三角形(シンガポール、バタム、ビンタン島開発計画)から始まって、現在、インドシナ5カ国と中国南部を含めたGMS(Greater Mekong Subregion、メコン地域開発計画)が進んでいる。将来、この地域が農林水産業や工業の一大生産地帯として、またマーケットとして機能することになることであろう。一方その地域の対立軸として、ASEAN島嶼部(フィリピン南部、マレーシア、インドネシアのボルネオ、インドネシアのスラウェシからイリアンジャヤまでの4カ国)の開発構想(BIMP-EAGA)がある。この地域の将来性は、豊富な資源をはじめ、生物多様性の面からも比較優位性の高い地域である。ASEAN諸国は、このような地域開発だけでなく、域内で必要な共通課題解消や基準作りについても、一生懸命取り組んでいる。しかし、統合は良いことばかりではなく、国境を挟んだ地域横断的な問題も顕在化する。それがこういう地域の開発課題として浮かび上がってくる。鹿児島大学が有している島嶼開発に関する資源を総合的に活用して、ASEAN地域なかでも島嶼地域に活用できると確信する。
【バネラー】
- アジアへの草の根交流と鹿児島
桑原季雄・尾崎孝宏(法文学部人文学科)
1年前に、闘牛に関する共同研究を立ち上げた。そこで分かったことは、沖縄、鹿児島、愛媛、島根、新潟、岩手といった日本の周縁諸県の地域同士が、個人および市町村レベルにおいて闘牛を通して直接結び付き、毎年「全国闘牛サミット」を開催するなど、活発な草の根交流を展開していることであった。さらに韓国の闘牛開催地の自治体などとも結びついて闘牛の草の根交流の輪がアジアへと世界展開する勢いだ。これは従来支配的であった「都市と地方」といった垂直的な「中央=周辺」的視点に対するまったく新しい視点であった。かくして我々は「周辺=周辺ネットワーク」という視点を得た。この視点で鹿児島を見ると、1980年代にすでに鹿児島は全国に先駆けてアジアを舞台に「カライモ交流」や後の「カラモジア運動」という「周辺=周辺」ネットワークを展開していることにあらためて気がついた。つまり、鹿児島は草の根交流の最先端を独走していたのだ。本報告では、カラモジア運動を「周辺=周辺ネットワーク」の視点から再評価し、さらに「闘牛文化」による周辺同士の草の根交流の検討を通して、鹿児島とアジアとの関係のなかで、グローバル化の時代の草の根交流の可能性について考えてみたい。
- 鹿児島における島嶼医療を活用した国際貢献
嶽崎俊郎(大学院医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座)
鹿児島大学は、行政と協力して鹿児島県離島における地域医療への貢献や研究を行ってきた。医歯学総合研究科国際島嶼医療学講座では、これらの経験を生かし、開発途上国における離島へき地医療に関わる人材育成を行う目的でJICA「離島医療」コースを行っている。これは鹿児島県の提案のもと平成14年度に開始され、これまでにフィリピンとインドネシアから7名の研修生の受け入れを行ってきた。このコースでは沿岸離島や外洋小離島、外洋中大離島など多彩な離島医療システムを持つ鹿児島県で行なわれている巡回診療や遠隔医療などのシステムに関する研修に加え、離島において特に必要とされる全人的医療に根ざした地域包括医療を体験習得する。また、与論や奄美大島において行われているタラソテラピーを活用した住民の健康増進活動の事例も体験し、離島地域の特性を生かした健康増進法や地域活性化の方策について研修している。このコースは鹿児島が持つ特性とそれに対する取組みを国際貢献に活用しているものである。
- 熱帯雨林の研究を通じた展開と展望
米田健(農学部生物環境学科)
インドネシアのスマトラにおいて、日本の多数の大学研究者が参加した自然研究事業が1980年から続いている。本報告では,国際共同研究事業の1例として本事業の展開過程をまず紹介し、ついで研究対象としている熱帯雨林の現状を報告したい。最後に,亜熱帯域に広がりを持つ鹿児島を拠点として、森林研究さらには学際的研究においてどのような取組みが可能か、アジア多島域の国々とどのような連携が組めるのか、その展望を語りたい。
スマトラでの自然研究計画は、熱帯雨林の生態構造の解明を目指した自然研究である。生物学を中心とするものの土壌学さらには社会学の組み込んだ学際的研究が、非常にゆるい縛りでスタートした。80年代は官民の様々な支援で基幹事業を動かし、各分野が自己努力で資金調達するスタンスで運営された。90年代ではJICAプロジェクトとして自然研究を通じて現地研究者の育成に力点をおいた。熱帯雨林の植物分類・生態,自然保全の分野では、事業の当初から本学の教員が多数参加してきた。2003年にはアンダラス大学と鹿児島大学との間に大学間交流協定が締結され,共同研究事業や研究者・留学生の交流が進められている。
熱帯雨林の劣化・減少はなお進行形である。人間による直接・間接的な撹乱が最大の原因であるが、近年では異常乾燥・温暖化などの気候変動の影響を示唆する現象が各地から報告されている。森林開発の恩恵が地域に充分還元されること無く、人々の生活圏から森林は次第に遠ざかりつつある。南西諸島に分布する亜熱帯林は,熱帯林と暖温帯林を結ぶ要の位置にある。その固有性と両気候帯の森林特性の理解に果たすべき役割は大きい。学際的な視点から、自然環境の保全に配慮した持続的土地利用を目指すランドスケープマネージメントの研究も興味深い。それら研究には、全国の、また多島域の国々からの研究者が参加し、地域研究から広域への展開につなげる構想が重要である。鹿児島大学はその基幹大学として果たすべき役割は大きい。
- 海藻の取り持つアジア多島域との交流
野呂忠秀・寺田竜太(水産学部)
海藻類は陸上に生育する植物と異なり、普段我々が直接目にすることのない植物である。日本では古くから海苔やワカメ、コンブなどの海藻を食品として利用して来たが、それ以外にも多くの海藻類が全地球規模で生育しており、光合成による酸素の放出(二酸化炭素の吸収)や食物連鎖の基礎生産者として、海洋生態系上重要な役割を演じている。鹿児島大学水産学部においては1960年代に故田中剛名誉教授が南ベトナムに滞在し海藻相の研究を行い、多くの新種も報告している。また、その後、田中剛らは、フィリピンのルソン島北部ににかごしま丸で調査航海を実施、海藻類を採集した。その縁で、フィリピン大学のコルデロ氏が大学院生として来日し、学位取得後はフィリピン国立博物館の隠花植物部門の研究者として比国の海藻相研究に貢献した。
その後、井上晃夫鹿児島大学名誉教授(元多島圏研究センター所長)は顕微鏡的な大きさの海藻である渦鞭毛藻ガンビエデイスクスがタヒチ沿岸のシガテラ魚毒の原因であることを東北大学の研究者とともに発見し、その培養と栄養要求に関する研究を1970年代に行った。
JICA専門家としてフィリピンの水産学校に1年間滞在した野呂は、フィリピン国内の海藻、特に褐藻ホンダワラ属の分布や分類を研究するとともに、その後は、文部省海外学術調査や拠点大学プロジェクトにより頻繁にフィリピンを訪れ、海藻類の分布を調査してきた。また、鹿児島大学は1998年から5年間、マレーシアでマラッカ海洋研究所の設立と支援を行ってきたが、その際には、海藻の分布と生育環境に関する研究が野呂らによって行われてきた。さらに、寺田は2000年以降、ハワイ、インドネシア、タイ、ベトナムや南太平洋諸国で、紅藻オゴノリの分類と生態に関する研究を行っている。
これらアジアの諸国では海藻類への関心は大きく、例えばゲル化剤として食品業界に不可欠なカラギーナンを抽出するための紅藻キリンサイはフィリピンで大規模に養殖されており、現在フィリピンの水産物の中では輸出額のトップの地位をしめている。このキリンサイの養殖は技術的に簡単であることが、国連FAOも発展途上国の漁村での養殖を推奨しており、インドネシアの水産学校ではその養殖技術の移転を望んでおり、さらには全国の水産高校で教鞭を取る教諭の研修先を鹿児島大学に委託しようとしている。
[司会] 尾崎孝宏(法文学部人文学科)・長嶋俊介(多島圏研究センター)
- 2006年11月13日(月)第74回 多島圏研究センター研究会
鹿児島県の小児医療事情とNPO法人こども医療ネットワークの役割
河野嘉文(鹿児島大学医歯学総合研究科)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] 鹿児島県で働く小児科専門医数は、小児人口10万人あたり59.2人であり、全国47都道府県中45位という少なさである。鹿児島県より下位にあるのは関東地区の県なので、離島という地理的ハンディを持つ本県の小児科専門医数は実質全国最低と考えられる。その状況下で、鹿児島県の28の有人離島には、約3万人の子ども達が生活をしており、彼らの健康は総合医として活躍する診療所の医師によって支えられている。しかし、子どもが高度医療を必要とする難病に罹患した場合には、鹿児島市の病院に長期間入院しなければならない。自宅を遠く離れた病院で、家族と分かれて母親と2人で闘病するための心労と経費は、本土に住んでいる者には想像できない負担である。
鹿児島県内の小児科医を中心に、小児医療関係者が集まって設立したNPO法人こども医療ネットワークは、離島在住の難病をかかえる子どもたちの闘病支援と離島で活躍する総合医のサポートを目的に2005年8月に設立された。「すべての子どもたちに適切な小児医療と快適な闘病生活を」という理念を掲げ、子どもたちを支援するネットワーク作りを目指している。
- 2006年10月16日(月)第73回 多島圏研究センター研究会
村落共同体崩壊の構造―トカラの島じまと臥蛇島無人島への歴史―
皆村武一(鹿児島大学法文学部)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] 今回の報告は、人間が生活していくうえで、自然的・社会的に限界的存在であるトカラ列島の諸島、なかでも臥蛇島で、人々は太古の昔からどのような組織や掟のもとに生活を営んできたのか、そして、近代化、商品・貨幣経済の進展にともなって、共同体社会はどのように崩壊していったのかを明らかにすることを目的としている。そこで、以下の順序で考察していくことにする。
1.島嶼社会の一般的特質 2.トカラの島じまの自然的・社会的特長 3.臥蛇島の部落規定及び金銭入出帳簿の分析 4.全島民離村に至るまでの過程 5.市町村合併をためらう十島村の現状
- 2006年9月25日(月)第72回 多島圏研究センター研究会
Environmental Quality and Economic Growth: The Case of Pacific Island Countries
John Asafu-Adjaye(多島圏研究センター客員)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] Does environmental quality improve as a country develops? This question has been the source of intense debate since Grossman and Kruegerユs landmark paper in 1991 on the environmental impacts of the North American Free Trade Agreement. In that study, the authors concluded that there is an inverted U-shaped relationship between pollution levels and income. That is, there is an increasing level of pollution for people living in lower income countries. However, as incomes rise, pollution levels decline. This phenomenon has now come to be known as the environmental Kuznets curve (EKC) after the nobel prize winner Simon Kuznets who proposed a similar relationship between income inequality and income level in 1955. The existence (or non-existence) of an EKC has significant policy implications. For example, if it is true, it provides justification for the view that pollution is a necessary evil for countries at an early stage of development and that economic growth is the key to solving environmental problems.
Although the EKC debate has generated a considerable number of empirical studies, none so far have specifically considered the case of the Pacific Island countries (PICs). At this seminar, the speaker will present the results of his research on the relationship between environmental quality and economic growth, with specific attention to the PICs. It will be argued that the PICs are diverse in terms of land area, population, resources, ecosystems and levels of economic development. Therefore, the results of studies conducted elsewhere may not be applicable to these countries. Following presentation and discussion of the results, the policy implications for improving environmental quality in the PICs will be addressed.
- 2006年7月3日(月)第71回 多島圏研究センター研究会
Culture and cultural identities in contemporary island societies
Philip Hayward(Macquarie University)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] In the late 20th and early 21st Centuries island cultures have been affected in various ways by the spread of global (and inter-local) economies and media operations. The global nature of this phenomenon marks it out from preceding local incidents of change occasioned by external and internal factors.
Drawing on the speakerユs research in the Whitsunday archipelago (off mid-north coast Queensland, Australia), south eastern Pacific islands such as Lord Howe and Norfolk; New Britain and Mioko island (Papua New Guinea), Ogasawara and Pitcairn Island, the presentation will examine aspects of the relationship between natural and cultural heritages in Small Island Cultures.
Discussion will identify the simultaneously fragile and tenacious nature of island cultures and how this balance affects cultural survival and mobility. The paper will go on to develop assertions based on a reading of Jared Diamondユs 2005 book Collapse: How Societies chose to fail or succeed. After identifying the relevance of Diamondユs work to small island cultures, the paper will propose a set of related factors to explain and typify the development and re-stabilisation of small island cultures during periods of change. An understanding of the role of periods of cultural turbulence will be proposed, with particular regard to migration patterns across islands. Discussion of various facets of migration to island communities will focus on the nature of change occasioned by new settlers.
Following on this discussion, the paper will then address parallels between ecology and Green politics in understanding culture. Drawing on the work of geographers such as Eric Carter and his approaches to ヤbiocultural geographyユ the paper will explore this notion and its complexities. Through a brief critique, the paper will propose an agenda for engaged and supportive island research with regard to the founding principles of SICRI (as identified at www.sicri.org and in Hayward [2005]).
In conclusion , the paper will address the role that imagination plays in societies and the manner in which heritage forms can be understood to embody social imagination.
- 2006年6月26日(月)第70回 多島圏研究センター研究会
「琉球列島における陸棲脊椎動物相とその起源−古生物学の視点から」
大塚裕之(鹿児島大学名誉教授)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] 種子島から与那国島までの1100kmにわたって連なる琉球列島には、1〜3万年前に絶滅した陸棲脊椎動物の化石種を多産するほか、絶滅を免れた固有種 が多数現棲しており、島嶼における生物の多様性の形成過程や進化を研究する上で、世界でも最も重要な地域の一つとなっている。それらの化石ならびに現生 脊椎動物相は、第四紀更新世の氷期における数回の陸繋期に大陸から渡来した動物群の遺存種である。それらの起源ならびに渡来時期については、従来、古生物学的あるいは分子生物学的な多くの学説が提唱されてきたが、その解答となるべく説得性のある実証的データが十分に示されているとは言えなかった。近年の同 列島における地質学的・古生物学的研究成果は、1)その最古の動物群が、中国大陸は揚子江下流域の鮮新世脊椎動物化石群に起源を求めることができること、2)列島へ渡来後、150万年以上にわたって島嶼へ隔離され、適応・繁栄し、多様化し、また、あるものは種分化し、そのうちの大型哺乳類・爬虫類は 1〜3万年前のウルム氷期の寒冷期に一斉絶滅した、3)この寒冷期に絶滅を免れた種が、琉球列島の現棲動物群の母体となった、などである。
- 2006年5月27日(月)第69回 多島圏研究センター研究会
「新・道の島々」センサーゾーン拠点形成 報告会
- 2006年5月22日(月)第68回 多島圏研究センター研究会
「モンゴル国東部牧畜地域における近年の移住現象について」
尾崎孝宏(鹿児島大学法文部)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] モンゴル国の総人口は1995年から2004年に12.5%増加しているのに対し、その間首都ウランバートル市の人口は43.8%増加している。こうした首都への人口集中は「エクソダス」と呼ばれるほどの大きな社会問題であったが、この種の「過疎
化=都市集中」現象には、著しい地方性及び同一地域内部での偏差が見られる。
一般に、移民発生の大きなきっかけとして認識されているのはプッシュ要因とし
て2000年にモンゴル全土を襲ったゾド(雪害)であるが、こうした偏差の存在を
理解するためには、移住先のプル要因をも検討する必要がある。
本発表では、発表者がフィールド調査を行っているモンゴル国東部地域の中から、
蛍石鉱山が散在するヘンティ県南部ダルハン・ソムおよび隣接するドルノゴビ県
イフヘット・ソムを、プル要因の検討材料として取り上げ、モンゴル国草原部に
居住する人々の現在の生存戦略および「移動」とはいかなる現象であるかを検討
したい。
- 2006年3月13日(月)第67回 多島圏研究センター研究会
「好気性微生物群を用いた家畜排泄物の迅速堆肥化及び土壌消毒」
櫛下町鉦敏(鹿児島大学農学部)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] 鹿児島県は日本一の畜産県である。本県の家畜排泄物は年間膨大な量(15年度574万・)に上る。国は2000年に家畜排泄物の管理適正化・利用促進法など、環境三法を制定した。2004年までに素堀や野積みでの保存管理を禁止し、堆肥への利用を促進することになった。農産物の生産の行き着くところは「健全な土壌」の維持管理である。有り余っている家畜排泄物を堆肥化すれば食糧生産に欠かせない良質堆肥になる。そこで、好気性微生物群を用いて家畜排泄物の堆肥化に取り組んできた。その結果、通常では熟成まで3ヶ月間を要するが、好気性微生物群を用いると、水分含量65〜70%で増殖し、ブロワ槽に堆積し、強制通風後2日間で70〜80℃に達し、牛糞堆肥では3週間程度で分解される技術を開発した。このように短期間で熟成した堆肥は慣行栽培は勿論のことだが、有機栽培やエコ農産物認証制度下の化学肥料不使用栽培、化学肥料節減栽培等の作物栄養の不足を補う分として施用される。さらに、園芸用施設ハウスでは土壌病害菌やセンチュウ等が原因の連作障害による被害は深刻である。土壌病害菌やセンチュウ類は地温が50〜52℃で10分も継続すると死滅する。そこで、好気性微生物群による有機物の発酵熱を利用したハウス土壌の消毒法も開発中である。
- 2006年3月6日(月)第66回 多島圏研究センター研究会
「鹿児島湾水銀汚染魚の謎」
坂元隼雄(鹿児島大学理学部)
16時30分 総合教育研究棟5階
[要旨] 昭和48年(1973)11月、鹿児島湾北部で漁獲されたタチウオから、魚介類の水銀の暫定規制値(0.4ppm)を超える水銀(総水銀2.55ppm)が検出された。この原因を究明に、鹿児島県や大学などを中心した研究グループがつくられ、湾に流出する河川水、湾内の海水、底質(泥)や魚体中の水銀なごの環境調査が実施された。その結果、農薬、工場排水や温泉水等からの原因説は否定された。また、鹿児島湾の海水中の水銀含有量についても異常は認められずに原因究明は困難を究めた。その後、水銀の発生源探しが続けられ、湾北部に見られるガス噴出“たぎり”に疑いが掛けられていった。“たぎり”周辺海域の噴出ガス、底質、海水の化学組成や生物試料などについて詳細な調査が実施された。しかし、海面上からの調査には限界があることが分かった。そこで、有人の作業用潜水艇“はくよう”[定員3名(操縦員2名)、排水量6.6トン、最大使用深度300m]を用い、海底噴気孔およびその周辺の試料を採取し、分析することにより新しい多くの知見が得られた。本講演は、水銀汚染魚問題の解明に取り込んだ研究成果の一端を紹介する。
「牛の先天異常」
濱名克己(鹿児島大学農学部)
[要旨] 一般に先天異常は「出生時における形態や機能の異常」とされてきたが、今日では、「何らかの原因によって、出生前にすでに正常からのひずみが方向づけられているもの」と、広く定義されている。原因として遺伝と環境の原因があるが、実際には両者の相互作用によることが多い。牛でも人と同様にその種類は多く、日本での発生率は高い。牛の先天異常は、飼育農家にとって罹患子牛の損失のみでなく、同居および血縁子牛の商品価値の低下、母牛の流産死産、難産、不妊症など繁殖障害の増加、飼養管理や育種改良計画の変更など、経済的な影響が甚大である。臨床獣医師にとっても、流産、難産、不妊症などの診療機会が増加し、予後判定や原因の究明が要請される。獣医師はこれらに精通し、農家に防止対策の実施を励行するよう指導する。また症例を死蔵せずに公表して知見の交流を図ることが病因解明の鍵となる。
- 2006年2月4日(土)第65回 多島域フォーラム・国際シンポジウム「地球温暖化と太平洋島嶼地域」
地球温暖化は地球規模で深刻な問題になっており、異常気象の発生や海水面の上昇など色々な影響を地球全域に与えている。地球温暖化が最も早期にそして大きく影響を及ぼすと考えられている地域が太平洋に多く見られる島嶼低島部である。すでに海水面上昇に伴い陸地の浸食や減少が見られ、ニュージーランドなどへ移住を強いられている地域もある。これにより地域に密着した国家維持が成り立たなくなる可能性が考えられ、この地域の新たなるアイデンティティ形成の模索が必要になってくる。このように太平洋島嶼低島部においては自然環境、社会経済システム、国家条件、アイデンティティ形成など色々な方面への影響が引き起こされており、地球温暖化問題は太平洋島嶼の新たなる地域形成に密接に関係した問題となっている。
地球温暖化に影響を与える温室効果ガスの排出は主に先進国に偏っており、太平洋島嶼に見られる国々は温室効果ガスをほとんど排出していない。そのためこの問題においては太平洋島嶼地域の国々は完全なる被害者である。一方、日本の温室効果ガス排出量は先進国でも上位をしめている。したがって、日本は地球温暖化防止京都会議(COP3)の議長国を務めたこともあり、温室効果ガス排出量の低下に率先して努力しなければならないとともに、この分野において国際的なリーダーシップを発揮しなければならない。
このシンポジウムでは太平洋島嶼部で見られる地球温暖化により引き起こされている影響について報告し、太平洋島嶼地域の地球温暖化に伴う影響の現状と各種課題を浮き彫りにする。そして、この地域の将来像に対して日本を含めた先進国の貢献について論議する。
(同時通訳が付きます)
- ナンP(鹿児島大学・南太平洋大学):太平洋島嶼域における気候変動に対する適応
Much of the response to past climate change and future climate change in the Pacific Islands has been driven by outside bodies that have agendas which are international but not necessarily applicable locally. There is an undue focus on the negative aspects of climate change in the Pacific that has created a widespread sense of helplessness amongst Pacific Island peoples. Much uncertainty in responding to climate change by Pacific Island decision-makers has also arisen because of the international view of ヤclimate changeユ (or global warming) as a problem that is isolated from others. In the Pacific Islands, issues of environmental sustainability are intermeshed with those of climate change.
Much of the international assistance given to the Pacific Islands has been focused inappropriately, particularly on developing legislation to ensure environmental sustainability, and building national capacity to address climate-change issues. In reality, national legislation, particularly when it involves resource issues, is frequently ignored in the Pacific Islands. Also, building national capacity ignores the reality that in poor archipelagic nations most decisions about the local environment are made at community level, often without any input from government. In the future, more realistic assistance needs to be given to Pacific Island nations to help combat the challenges of climate change.
- クマーR(南太平洋大学):島嶼域の縁に位置する島の問題と見通し -フィジーモツリキ島を例にして-
Outsiders sometimes fail to appreciate the complex geography of the Pacific Islands region when trying to understand the problems associated with global warming and their potential solutions. For this reason this presentation looks at an island on the margins rather than in the centre of a large island group ミ the Fiji Islands.
Moturiki Island is home to some 800 people living in 10 villages, mostly engaged in subsistence farming and fishing. Increasing population has strained the resource base of the island, and making the population less resilient and more dependent on outside assistance. The physical fabric of the land of Moturiki is being slowly inundated by sea-level rise associated with global warming. Agriculture is being affected by rising temperatures. Decisions about adaptation ミ both current and proposed ミ are being driven from the community level and are often inappropriate.
In the foreseeable future it is likely that conditions on Moturiki will become far worse, with large areas of coastal lowland being flooded. Key uncertainties include future precipitation levels and changes in the frequency of typhoons (tropical cyclones). Moturiki is typical of hundreds of smaller, more marginal, inhabited Pacific Islands on which life may be more difficult to sustain in the future because of climate change.
- 久保田泉(国立環境研究所):地球温暖化問題に関する国際交渉 -適応策を中心に-
地球温暖化問題に関する国際枠組みは、締約国会議(COP)等における各国の合意の積み重ねによって形成されてきている。現在、京都議定書の第1約束期間(2008年から2012年まで)が終わった後、どのような温暖化対策のための国際枠組みを構築すべきかに注目が集まっている。昨年12月のCOP11/COPMOP1(カナダ、モントリオール)において、交渉に向けて動きが見られたところである。これまでは、緩和策(温室効果ガスの削減、吸収源の強化)についての議論が中心であったが、昨今、適応策(温暖化による悪影響に対応するための措置)の重要性に対する認識が、急速に高まってきている。適応策は、太平洋島嶼国をはじめとする発展途上国が大きな関心を寄せている事項である。
本報告では、国際交渉における適応策に関する議論や関連研究成果を紹介し、今後どのような制度を構築していくべきか、日本をはじめとする先進国はいかに貢献していくべきかを述べる。
- 神保哲生(ビデオジャーナリスト):今ツバルに何が起きているか -地球温暖化最前線の現状-
南太平洋の真ん中にツバルという国がある。人口1万人あまりの小さな国だが、豊かな海の恵みに囲まれて、平和な自給自足の生活を営む、友好的な人々が住む国だ。
このツバルが今、海に沈み始めている。もともと平均標高が2メートルにも満たない低い国土だったが、過去10年ほど、加速的な海岸浸食と、海水が地下水を通じて内陸に噴き出してくる洪水に悩まされるようになった。
これは地球温暖化に起因する海面上昇の影響である可能性が高い。地球の気温があがることで海水の温度も上昇し、それが海水の体積を増やしている。もちろん、氷河や極地の氷床の溶解も影響している可能性がある。
ツバルの国土全体が丸ごと海に沈むには、まだまだ何十年、いやもしかしたら何百年もかかるかもしれない。しかし、ツバルの人たちはツバルがそう遠くない将来、人間が住めない土地になることを知っている。既にツバルの人たちの生活基盤は根底から奪われ始めているからだ。
地下水を通じて内陸に浸入した海の塩水が、自給自足を営むために不可欠なツバルの畑に入り込み、主食のプラカ芋を始めとする作物が収穫できなくなっている。根菜は塩につかると根が腐ってしまうからだ。
自給自足が維持できなくなれば、食べ物は買うしかない。しかし、これといって産業のないツバルでは、現金収入を得る手段が無い。そのためツバル人の多くが、現金収入を得るために、海外に出稼ぎに出なければならなくなっている。
もはやツバルはこのままでは生き残れない。そう判断したツバル政府は2001年から、海外への移住計画を実行に移し始めた。国を捨てても何とか海外でツバル人とツバル文化を残そうという、生き残りをかけたぎりぎりの選択だった。手始めにニュージーランドに毎年75人が移住している。75人といっても人口1万余のツバルにとっての75人は日本のほぼ100万人に相当する。しかも、働き盛りで英語のできる有能なツバル人が優先的に国を去っていく。このままではツバルは国土の沈没を待たずして、沈んでしまう。
生き残り計画を実践する一方でツバル政府は、自分たちの運命を左右していると思われる地球温暖化の問題でも積極的な働きかけを始めた。ツバルの首相は温暖化の国際会議には必ず顔を見せ、世界に向けて地球温暖化を阻止することの重要性を訴えている。
もしかしたらもう人類はツバルを救うことは出来ないかもしれない。今ただちに抜本的な温室効果ガスの削減を行ったとしても、既にツバルを救うには手遅れの可能性が高い。しかし、人類にとってツバルは炭坑のカナリアなのかもしれない。炭鉱内にガスが出たことを察知するために、あえて抵抗力の弱いカナリアを連れて坑内に入る。カナリアが死んだのを見て急いで炭坑を出れば、より抵抗力のある人間は何とか生きられる。
ツバルが、今苦しんでいる。それを単なる対岸の火事として見過ごすか、それともそれを炭坑のカナリアと見るか。今先進国に住む私たちの常識が問われている。しかも、地球温暖化を起こしているのは、他でもない、先進国に住む私たちなのだ。
- 横木裕宗(茨城大学):気候変動・海面上昇が環礁州島の地形維持機構に与える影響 -マーシャル諸島マジェロ環礁における現地調査-
地球温暖化・気候変動に伴う海面上昇は,2100年までに9〜88cm(最確値48cm)上昇すると予測されており(IPCC第3次報告書),沿岸域における影響も様々なものが考えられている.例えば浸水リスクに限っても,全球をカバーする標高データを用いた解析で,50cmの海面上昇に対して,潜在的浸水域がアジア・太平洋域で現在の約1.5倍に増加し,さらに高潮の影響を加味するとリスクはより増大すると予測されている.とりわけ南太平洋にあるマーシャル諸島やツバルなど,国土が環礁州島から成る国々では,海面上昇により文字通り国土消失の危機にさらされていると言える.そこで,茅根 創氏(東京大学 大学院理学系研究科 助教授)を中心とする地理学・リモセン・考古学・海岸工学の専門家のグループが2003年度より環境省地球環境研究推進費の援助を受けて,これら環礁州島における地形維持・人間生活形成過程の解明を目的とした現地調査を行い,今後加速する海面上昇に対する適応策の検討を行っている.本講演では,本研究チームの環礁州島における現地調査から得られた知見と,海面上昇への適応策の検討状況について報告する.
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