国際島嶼教育研究センター
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研究会などの記録 
2005年(多島研)

  • 2005年12月5日(月)第65回 多島圏研究センター研究会
    高橋 守 (埼玉県立川越総合高校)
    「日本および東南アジアの恙虫病 -媒介種の生態とリケッチアの伝播-」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    <要旨>恙虫病は、現在ではロシア極東地域から中国、東南アジア、西南太平洋諸地域に広く発生が認められているが、最初は日本の患者をもとにBaelz and Kawakami(1879)により初めて世界に紹介されたダニ媒介性感染症である。
     ダニの仲間であるツツガムシは、その生活環(卵、幼虫、若虫、成虫)のなかで、若虫と成虫(いずれも脚は4対)は土中で自由生活を送るのに対し、幼虫(脚は3対)だけは通常1回(2-4日間)だけ、主に野ネズミなどの小哺乳類に寄生し,それらの体液や宿主組織の溶解物を取り込む。ツツガムシの中には卵から孵化したばかりの未吸着幼虫がヒトに吸着する種類もあり、もしこれらの幼虫が病原体であるツツガムシ病リケッチアOrientia tsutsugamushiを保有していると、ヒトや野ネズミなどが感染することになる。この未吸着幼虫が保有するリケッチアは、親の卵巣から伝播されたものと考えられ、このことは川村ら(1917)が日本の浸淫地から採集した アカツツガムシ(Leptotrombidium akamushi)成虫を実験室内で飼育し、孵化した未吸着幼虫を猿に吸着させたところ、この猿が発症したことで証明された.その後わが国ではタテツツガムシ(L. scutellare)、フトゲツツガムシ(L. pallidum)もリケッチアの経卵伝播が明らかにされた。しかし長い間、リケッチアの伝播については、リケッチアを保有している野ネズミに寄生していたツツガムシが簡単に野ネズミからリケッチアを獲得出来ると思われていたが、実際にはリケッチアは容易には移行しないことが明らかになってきた。ツツガムシ幼虫は宿主の血液は吸わず、細胞と細胞の間にある体液を吸引して養分にしており、また宿主の皮膚にさし込まれたツツガムシ口器周辺の細胞は消化崩壊されているので、おそらくリケッチアも崩壊されて摂取されているものと思われる。それゆえ、たとえ野ネズミがリケッチアを保有していたとしても、これに寄生したツツガムシへのリケッチアの移行は大変難しいものと考えられるが、たとえ移行したとしても次世代幼虫に伝播される可能性はきわめて低い。結局、リケッチアはもともと成虫の卵巣に共生体として存在するものが、卵を介して伝播されているものと解釈されているにとどまっている。
     一方、野生動物に寄生していたツツガムシからリケッチアが検出された種類は10数種にのぼっている。しかしこれらのツツガムシがリケッチアを保有するに至った経過は、親から経卵伝達により伝播したものか、またはリケッチアに感染していた宿主から移行したものなのかは明らかではない。わが国ではリケッチアの経卵伝播が証明された種はすでに述べたようにアカツツガムシ、タテツツガムシ、フトゲツツガムシの3種であるが、これらのツツガムシが全く分布していない地域で捕獲した野ネズミに、しばしばリケッチア感染例が認められることを考えると、これら3種以外にもリケッチアを経卵伝播しているツツガムシがいる可能性がある。

  • 2005年10月29日(土)多島域フォーラム・シンポジウム
    「しまうたの未来」
    13:00-17:15 連合農学研究科棟3階

    <要旨>シマウタを取り巻く状況は、ここ数年大きく変化しています。元ちとせをはじめとる若手の唄者たちの台頭、さまざまなレーベルから発売されるCD、増加する本土でのコンサートなど、その周辺は年々賑やかさを増しているようです。
    奄美のことばで「シマ」といえば、もともと集落(ムラ)のこと。シマウタとは まず集落の唄の意味です。シマウタは各シマの独自な生活様式や文化を反映して、シマごとに異なることばやフシまわしでうたわれていました。「ヨソジマ」の人間が真似ることのできない「わきゃシマ」の唄、それがシマウタでした。
    しかし人の移動やメディアの多様化は、唄掛けや唄遊びといったシマウタの日常 的な伝承の場を衰退させ、シマウタはいつしかシマから切り離されて、全島を対象とする「島唄」へと変わりました。いまではその演奏もステージが中心で、伝承の場も教室に限られるようになってきています。本土のシマウタ教室では、奄美と縁もゆかりもない人がシマウタを学ぶ光景も珍しくありません。過熱するコンクール志向は、シマウタの表現を変質させてしまうのではと危惧されてもいます。演奏も多様化し、洋楽器による伴奏やアレンジはもちろんのこと、若い唄者のなかには「メジャーデビュー」を夢見てポップの世界に向かう者も少なくありません。一方、シマウタの 魅力をなすシマグチはといえば、すでにその伝承が危ぶまれて久しいのが現状です。
    今日のシマウタの表面的な隆盛は、果たしてその豊かな未来を約束するものなの か? その伝承における課題とは何なのか? 研究者や唄者とともに考えてみたいと思います。

    プログラム
    13:00 開会挨拶      野田伸一(鹿児島大学多島圏研究センター)
    13:05 趣旨説明      梁川英俊(鹿児島大学法文学部)
    13:10 シマウタ演奏    坪山豊(唄)川畑さおり(囃子)
    13:15 報告1       中原ゆかり(愛媛大学法文学部)
    13:50 報告2       西元久明(鹿児島大学大学院博士後期課程)
    14:25 報告3       梁川英俊(鹿児島大学法文学部)
    15:00 休憩
    15:10 ラウンドテーブル  坪山豊 川本栄昇 泉茂光 川畑さおり
    16:30 コメント      中原ゆかり(愛媛大学法文学部)
    16:40 シマウタ演奏    坪山豊 川本栄昇 泉茂光 川畑さおり
    17:10 閉会挨拶      櫛下町鉦敏(鹿児島大学農学部)
    17:15 終了

    報告要旨
    報告1  奄美のシマウタと歌い手たち
    中原ゆかり(愛媛大学法文学部)
     シマウタは、シマ(集落)の生活の中で口頭で歌い継がれてきた歌謡である。 伝承の舞台であるシマごとに節まわしの特徴が認められ、人々のシマウタに対する好みや感受性も、シマの人であることと深く関係する。なぜなら、いずれのシマでも「自分のシマの歌が一番」であることを理想とし、真のシマウタの良さはシマ人だけが理解できると考えられているからである。シマを出て都会に暮らす者が、シマウタをきいて懐かしさに涙し、シマ人である自分を意識することは多い。
    近年は生活の変化や舞台化等の影響により、シマウタも大きく変化し、歌に対す る言説も多様化した。歌い手たちのシマウタとの関わり方、語り方に焦点をあてて、私の調査資料をもとに報告していきたい。

    報告2  八月踊りの現在
    西元久明(鹿児島大学大学院博士後期課程)
    奄美のシマ(集落)社会において八月踊りは、人々の共同体行事(暦のうえで三 八月(みはちがつ)、その他にも敬老会等)のなかで踊られてきた。この点で八月りは、シマの共同体意識を象徴する踊りといえる。しかし近年、経済基盤や社会組織の変化に伴って、人々のシマ社会への意識自体も変化し、また過疎化と本土への人々の流出により八月踊りが衰退しているシマもある。一方、かつて流出した人々により、アイデンティティの再確認として八月踊りが保存、踊られている郷友会(同郷組織)もある。この点で鹿児島市では、笠利町大笠利の出身者で構成されている大笠利親睦会が活発な動きをみせている。今回、報告者は親睦会メンバーらの三八月の帰郷に同行し、出身地であるシマの人々八月踊りを通じた交流を調査した。本報告ではこの交流から、現地での八月踊りと、異郷で八月踊りを保存している人々との差異に着目することで、シマの外部(異郷)に住む出身者の視点から、八月踊りの現在を逆照射する。

    報告3  民謡はいかにして伝えられるか−ブルターニュの場合
    梁川英俊(鹿児島大学法文学部)
    フランス北西部の半島地帯に位置するブルターニュ地方は、フランスでも独自の アイデンティティーをもつ地域として知られている。この地方の人々は、もともと5世紀から7世紀にかけてブリテン島から移住した「ケルト人」を祖先とし、長くフランス語とは系統を異にするブルトン語ということばを話してきた。その独特なことばで歌われる民謡が民俗学者たちの注目を集めるようになったのは、19世紀中頃のこと。以来、ブルターニュはフランスでも指折りの歌の宝庫として内外に知られることになった。今日のブルターニュは、アイルランドなどと並んで、ワールドミュージック・ブームの一翼を担う「ケルト音楽」の重要な発信地のひとつである。夏期に ブルターニュ各地で行われる音楽イベントは、フランスはもとよりヨーロッパ中から多くの聴衆を集め、重要な観光資源にもなっている。ブルターニュの民謡はなぜ注目され、なぜ歌い継がれるようになったのか。本報告では、ヤン・ファンシュ・ケメネール氏をはじめとするブルターニュの代表的な「唄者」たちの活動を紹介しながら、合わせてシマウタの伝承との比較を試みる。


  • 2005年10月17日(月)第64回 多島圏研究センター研究会
    小林 泉(大阪学院大学国際学部)
    「太平洋の新しい政治アクター、島嶼諸国とは」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    <要旨>沢山の島々が散在する太平洋地域には、20を超える政治単位がある。そのうち現在の独立国は12、これらを指して「太平洋島嶼諸国」と呼ぶことが多い。小さな新興国家ばかりだから、国際社会にその名が登場する機会も少ない国家群である。
    しかし、これら国々の一つひとつを「島嶼諸国」として一括理解するには無理がある。国土面積で日本の1.25倍、人口500万人のパプアニューギニアから国土21平方キロ、人口1万人弱の極小国ナウルまで国家様態はいろいろで、言語や生活文化に関しても島ごとに独自性を発揮しているからだ。
    それでも島嶼諸国は、類似する独立経緯や旧宗主国との関係性、あるいは共通の地理性のもとに地域国際機関「太平洋諸島フォーラム」を組織し、国際社会にもその国家群としての存在を強烈にアピールしてきた。太平洋を共有する日本とも、漁業資源、安全保障、経済協力等々の分野で日に日にその関係を深めつつあり、近年注目度が高まっている。とはいえ、島嶼諸国の実態については、日本ではあまり知られていない。この地域に関する情報や研究の蓄積が少なかったからだ。
    では、これら島嶼諸国とは、どのような国々なのだろうか? 島々の伝統的社会の構造、経済活動の試み、国家建設の状況、地域の国際関係等々の側面から、国々ならびにその国家群の実情に迫っていきたい。

  • 2005年9月12日(月)第63回 多島圏研究センター研究会
    嶽崎俊郎(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
    「あまみ島嶼地域における生活習慣病とその予防」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    <要旨>あまみ島嶼地域は長寿者の割合が高い地域である。一方、女の平均寿命は日本や鹿児島県の平均と比べほぼ同様かやや高いものの、男では低い。宿主および環境要因の上で選ばれて高齢に達した人々にとって、あまみは長寿に適した地域であると考えられるが、活気ある社会を維持するためには壮年層の健康を保つことが重要である。平成8〜12年の名瀬および徳之島保健所管内における男のがん標準化死亡比(SMR)は、日本の平均値に比べ同様もしくはやや低い値を示し、低い胃がんのSMRが大きく寄与している。また、心疾患や脳血管疾患においても、男のSMRは日本の平均とほぼ同様の値を示し、女においてはいずれのSMRも低い値を示している。あまみ地域における生活習慣病の発生は、現在のところ全国に比べ高くはないが、男壮年層の死亡率が高くなりつつあり、その主な原因となっている生活習慣病の予防が今後の重要な課題である。当講座では、本年度よりあまみの生活習慣病予防のための分子疫学研究を計画している。これは、生活習慣情報とSNPs等の遺伝子情報を用いて、あまみ特有かつ個人の体質に応じた予防情報を構築しようとするものである。さらに生活習慣病予防対策として、与論町や和泊町、瀬戸内町などでタラソテラピーを活用し、その効果検証を伴った健康増進事業が始まっている。本研究会では、これらの取組を紹介し、離島における健康維持と増進について考察する

  • 2005年7月25日(月)第62回 多島圏研究センター研究会
    アブドル・カリム(鹿児島大学・多島研)
    「バングラデシュにおける作物生産とリョクトウ(Vigna radiata L.)研究の現状」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    バングラデシュの人口密度は約900人/km2とかなり高く、その人口の多さから、食糧確保のための農業生産が問題の一つとなっている。バングラデシュの主食は米であり、作物の基本的な作型は稲作が中心となっている。耕作可能地の90%以上はすでに水田や畑地となっており、これ以上その面積を増加させることは難しい。近年、バングラデシュは穀類(米と小麦)については自給率100%を達成した。野菜についても目標に近づいており、高品質という市場の要求も満たしつつある。しかし、果実については、いまだ需要を満たすには至っていない。また、豆類及び油料穀物の生産は急激に減少しているが、これは、栽培面積の減少によるところが大きい(後述)。
    豆類は植物蛋白源として重要な役割を担っている。豆のスープはバングラデシュの人々の毎日の生活に欠かせないものであり、豆類から作られた色々なスナックも人気が高い。しかし、それらの需要を満たすために、必要量の50%以上を輸入に頼っているのである。
    バングラデシュの豆類には種々のものがあるが、大きく、「冬豆類」(ガラスマメ,ヒヨコマメ、レンズマメ、エンドウマメ、インゲンマメ、ササゲ、その他)と「夏豆類」(リョクトウとケツルアズキ)に分けられる。夏豆類の中では、リョクトウは味も良く、種々の用途に用いることができるので最も人気がある豆である。リョクトウの生育期間は長いものでも60日と短く、品種も早生(kharif I)や晩生(kharif II)がある。また、冬作の作物と夏作の稲(amon rice)の間作としても栽培が可能で、両者の栽培に影響を与えることも少ない。
    上述したように種々の利点があるにも係わらず、リョクトウの生産量は減少しつつある。これは、灌漑設備の増加にともない、それら好条件の圃場は水田となり、結果的に、リョクトウやその他の作物が劣悪な条件のところに追いやられるということになるからである。さらには、バングラデシュは熱帯に位置することから、生物的及び非生物的要因によって引き起こされる種々の問題も多い。すなわち、貧栄養土壌や乾期の乾燥、雨期の堪水、土壌中の塩分等は栽培上大きな問題となっており、また、リョクトウ黄色モザイクウイルス(MYMV)による被害も大きい。一方、このようなきびしい環境下でも十分な特性を発揮するMYMV耐性の早生種作出のための研究も進められており、その育種材料として、これまでにリョクトウ約1000品種が集められた。また、政府も栽培品種の多様化を進めようとしている。これらの政策及び種々の問題を解決するような技術の開発により、豆類の生産は近い将来には上昇に転じるものと思われる。

  • 2005年6月27日(月)第61回 多島圏研究センター研究会
    山本智子(鹿児島大学水産学部)
    「死んだ鯨に集う生物たち〜鯨骨生物群集の遷移〜」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    <要旨>鯨などの大型哺乳類が海洋で死亡し死骸が深海底に沈降すると、脂質の分解が進むにしたがって硫化水素やメタンが発生し、化学合成バクテリアが生産者となる化学合成生態系が形成されることが知られている。化学合成生態系は光合成が行えない深海でメタンや硫化物が豊富な環境に形成されることが多く、プレート生成域や海底火山周辺には熱水噴出孔生物群集が、プレートの沈み込み域で堆積物中から冷たい間隙水がわきだしている場所には冷水湧出帯生物群集が分布している。このような系では、化学合成バクテリアを体内に共生させて栄養を得るように進化した底生生物が特異的にみられ、錦江湾で発見されたサツマハオリムシ(Lamellibrachia satsuma)はその1種である。
    鯨の死骸に形成される特異な群集は特に鯨骨群集と呼ばれ、パッチ状に分布する熱水噴出孔や冷水湧出帯で化学合成生物が分布を拡大する際のステッピングストーンになると考えられてきたが、その実証はされていない。また、腐食連鎖や化学合成系を通して深海底の物質循環及び周辺の環境に与える影響を定量的にとらえる試みはほとんど行われていない。2002年1月に鹿児島県大浦町に集団座礁したマッコウクジラは、うち12頭が薩摩半島野間岬沖に海洋投入され、生前の体長が明らかなこと、同時に近接して沈設されその位置が明らかなことから、その後の追跡調査に最適であると考えられた。そこで演者らは、ステッピングストーン仮説の検証と鯨骨群集の定量的把握を目的として調査を行ってきたので、鯨骨群集の遷移を中心にその結果をまとめる。

  • 2005年5月30日(月)第60回 多島圏研究センター研究会
    西村明(鹿児島大学・法文学部)
    「戦後における戦没者遺骨の収集をめぐって」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    小泉首相の参拝問題でたびたび話題となる靖国神社のすぐ近くに、千鳥ヶ淵戦没者墓苑が存在する。ここにはアジア太平洋戦争時の戦没者の遺骨のうち、身元の判明しないものや引き取り手のないものの一部が納められている。ここに持ち込まれた遺骨は、戦後に厚生省が中心となっておこなった遺骨収集事業によって戦地から集められたものであるが、この収集事業は大きく3次にわたって企画されており、その後も断続的に続けられている。
    これまでの慰霊研究においては靖国神社や忠魂碑などが政教分離問題との関連で焦点化され、この遺骨収集に関しては、ほとんど対象とされてこなかった。近年は遺族や元兵士による慰霊の実態を把握しようとする地域史や民俗学による調査研究が次第に盛んになり、慰霊について考える際には、その多様性を考慮すべきだという認識が共有されつつある。本発表では、以上のような研究動向を踏まえながら、具体相を視野に入れることによって、遺骨収集をたんに政府の援護政策として理解するだけでなく、死者をとりまく生者の営みとして宗教人類学的にとらえる可能性を探りたい。

  • 2005年4月18日(月)第59回 多島圏研究センター研究会
    大久津昌治(鹿児島大学・農学部)
    「人工繁殖技術を用いた希少動物の保護と絶滅動物の復活の可能性」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    現在、地球上では、多くの生物が絶滅あるいは絶滅の危機にあり、これらに対処す るには,人類自身の新たな生命観の構築とともに、地球環境の保護・保全と、生物の 多様性の確保などが必須です。
    現在、絶滅の危機に瀕した動物の中には、本来の自然繁殖のみでは、もはや絶滅を 免れないものがいます。近年、動物のバイオテクノロジーの発展は目覚ましく、これ まで私どもは、家畜の人工繁殖技術を研究・開発してきています。そこで、これらの 技術を応用して、希少動物を絶滅の危機から守る研究を進めており、わが国の貴重な 遺伝資源である日本在来の野生化牛を保護・増殖する取り組みについて紹介します。
    家畜の人工繁殖技術の研究成果をさらに応用して、既に絶滅した動物の復活の可能 性を探る研究も行っています。シベリアの永久凍土で長期間(数万年)冷凍保存され ているマンモスや他のマンモス動物群を発掘し、それらの細胞や遺伝子について研究 したり、これらの絶滅動物を復活させようとするプロジェクト(マンモス復活プロジェクト)を進めてきています。これまでの本プロジェクトの活動成果や今後の展望を紹介しながら、絶滅した動物の復活の可能性について考察します。

  • 2005年3月14日(月)第58回 多島圏研究センター研究会
    木下紀正(鹿児島大学・教育学部)
    「南西諸島・フィリピンの火山と噴煙自動観測」
    16時30分 総合教育研究棟5階
  • 2005年2月26日(土)多島域フォーラム・公開講座「島の農業」
    13:00-17:00 総合教育研究棟2階201講義室

    鹿児島県は南北に約500kmと長く、その中に大小約200の島を持っている。その中でも鹿児島県の27の有人島にとって農業を中心とした1次産業は重要な産業となっている。しかし、南北に長く広く分布する鹿児島県の島では、それぞれの島で大きく環境条件が異なるためそれぞれの環境にあった農業をしなければならない。そのためには農薬や遺伝子組換え作物など多方面での応用技術の利用を考慮する事も重要になってくる。一方、安全で安心できる農産物を供給する事が今後の産業の発展には必要不可欠である。そのためにはそれぞれの応用技術の正確な知識を身につけ、今後の産業の展望を持つ事が重要になってくる。
    多島圏研究センターでは鹿児島県における「島の農業」の発展をめざし3名の講師を迎え公開講座を開催します。今回の公開講座では奄美諸島を中心に鹿児島の島々の農業を総括し、「遺伝子組換え作物」と「農薬」について解説した後、「島の農業」への応用を考える予定です。

    プログラム
    13:00 開会挨拶  野田伸一(鹿児島大学多島圏研究センター)
    13:05 講演 1   冨永茂人(鹿児島大学農学部教授)
    13:55 質問 1
    14:05 講演 2   河原畑 勇(九州大学名誉教授)
    14:55 質問 2
    15:05 休憩
    15:15 講演 3   高木康至 (鹿児島大学農学部非常勤講師)
    16:05 質問 3
    16:15 総合質問
    16:35 閉会挨拶  櫛下町鉦敏(鹿児島大学農学部)

    講演 1 
    奄美諸島の農業の現状と将来
    冨永 茂人 (鹿児島大学農学部)

    鹿児島県には南北500kmにわたって、200以上の島々がある。そのうち奄美群島は大島本島、喜界島、徳之島、沖永良部島、与論島からなり、温暖多雨な亜熱帯海洋性気候で、水稲を除く多様な作物が栽培されており、最近は肉用牛の生産も増加している。各島ともサトウキビの栽培面が最も多いが、その生産性は低い。近年はサトウキビを基幹作物としながら、野菜、花き、果樹などの園芸作物と肉用牛を組み合わせた複合経営など、島ごとに特色ある農業が展開されている。また、台風や干ばつの被害を受ける年も多いことから、畑地かんがい施設などの整備も進められている。今後は、サトウキビの安定的な生産体制を維持しながら、亜熱帯性気候を生かした競争力のある農業産地を島ごとに確立していくことが重要である。ここでは、奄美群島における農業の現状と将来展望について述べる。

    講演 2
    遺伝子組換え作物及び食品と安全性
    河原畑 勇(九州大学名誉教授)

    遺伝子組換えは有性生殖を行う生物全般にごく普通に見られる現象です。そして、卵細胞と精細胞の細胞融合により新しい組換え型個体が出現しています。一方、バイオテクノロジーを利用した遺伝子組換えについては、新聞紙上その他で様々な議論がおこなわれていますが、その原理を十分に理解しないままの、当を得ない論議がすくなくありません。遺伝子組換えを十分理解するには最低限の生物学、遺伝学、生化学、分子遺伝学の知識が要求されます。バイオテクノロジーを利用した遺伝子組換えにより育成された作物の実際的利用は1995年以来北米を中心に急速に拡大し、代表的な遺伝子組換え作物には多目的トウモロコシ、ワタ、バレイショがあります。今回、北米における多目的トウモロコシ、ワタ、バレイショの生物学的安全性およびこれらの作物を原料として作られる食品の安全性について皆さんと科学的に考えて見たいと思います。

    講演 3
    「農薬は危険、だから悪い、したがって要らない」という 命題は“真”か?
      高木 康至 (鹿児島大学農学部非常勤講師)

    今でも多くの人が、農薬について、危険で怖いもの、有毒で悪いもの、だから要らないもの、と思いこんでいる。“農薬は安全か”と聞かれると、答えは“No”。極言すれば、この世の中に“安全な物質はない”。しかし“安全な使い方”はある。 農薬の安全性の確保は、それぞれの農薬(物質)の性質を徹底的に調べ、“安全な使い方”を決めることによってなされている。“安全な使い方”を設定できないものは“農薬”にならない。
     今回は、農薬の安全性評価の考え方、プロセスおよびその問題点等について、詳しく説明し、農薬が要らないものかどうかの判断材料として、無農薬栽培の実例を紹介する。 

  • 2005年2月7日-9日(月)第1回国際小島嶼文化会議
    9時-17時 鹿児島大学大学院連合農学研究科棟3階会議室
    ポスター 会場地図
  • 2005年1月24日(月)第57回 多島圏研究センター研究会
    原 聖(女子美術大学)
    「マン島の自治と言語文化の独自性」
    16時30分 総合教育研究棟5階

    アイルランド島とブリテン島との間に位置するマン島は、ほぼ淡路島に相当する572平方キロの面積をもち、7万1千人の人々が暮らしている。英国王室保護領であり、連合王国(UK)には属さない。11世紀に起源をもつ自治議会による自治政府が機能している。独自の貨幣を発行し(ただし英国通貨も流通)、郵便や電話、ガス、航空機などでも、独自の機関、会社を保持している。ケルト語の一種、マン語が保存され、これがアイデンティティのよりどころとなり、自治意識も高い。税回避地(タックスヘイブン)として、金融センターとなり、経済的にも活発である。人口はわずか数万であるにもかかわらず、外交と防衛を除けば、まったくの独立国といっていい、そうした自治制度を有しているのである。それが文化的な活力にもつながっている。
    フランスのノルマンディー半島の沖合いに位置するチャンネル諸島も、英国王室の保護領であり、マン島と同等の地位にある。その一つ、ジャージー島は、島の大きさはマン島の4分の1ほどだが、同規模の人口をもち、自治の形態もほぼマン島に準じるといっていい。ここでの文化的独自性は、ノルマン・フランス語である。第2次大戦後、この使用が急速に薄れつつあったが、ここ十数年、保存運動が活発化して、島のアイデンティティのよりどころになりつつある。
    沖縄では、石垣島や宮古島がおそらく同程度の規模と文化的背景をもっており、マン島やジャージー島のような自治形態が可能ともいえる。こうした可能性について、またその文化に与える影響について、議論することにしたい。

  • 2005年1月19日(水)かごしまアイランドキャンパス推進シンポジウム
    「離島地域における『学外活動の地域活性化への貢献』及び『アイランドキャンパス』構築の方法,方策について」
    15:00- 
    メイン会場:ホテルニュー種子島
    サテライト会場:鹿児島大学多島圏研究センター
    • パネルディスカッション
      テーマ「アイランドキャンパスの地域貢献」
      コーディネーター吉岡慎一(みずほ情報総研)
      パネリスト 吉田竹也(南山大学人文学部)
      鈴木宏明(株ランド・サーベイ代表取締役)
      長嶋俊介(鹿児島大学多島圏研究センター)
      種子島秀洲(NPO法人ジュントス理事)
      落合造英(西之表市長)
    • 事例発表「地域住民との交流を中心にしたモデル公開講座」
      講師 吉田竹也(南山大学人文学部)





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