国際島嶼教育研究センター
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研究会などの記録 
2004年(多島研)

  • 2004年12月13日(月)第56回 多島圏研究センター研究会
    「農作業従事者のストレスとその対策」
    上田厚(熊本大学大学院医学薬学研究部 環境保健医学分野)
    16時30分 総合教育研究棟5階

     われわれは、QOLを評価し、それに関与する様々な因子の関連を解析するための調査表を開発し、農作業従事者のストレスの様態とその対策を明らかにした。  農作業従事者の男性48%、女性59%がストレスを感じており、年齢別には男女ともに60歳未満が60歳以上に対してより高率であった。強いストレッサーとして抽出されたのは、作業の心理特性として「作業の要求度(デマンド)」、作業の要素として「危険な設備」「重量物の運搬」「粉じん」「炎天下の作業」「長い作業時間」「不規則な食事」、ライフイベントとして「借金」「減収」「共同作業の不和」「近隣との不仲」「老人の介護」「こどもの教育」「自分や家族の病気」であった。これらのストレッサーに対するストレスは、女性が男性に比してより強く現れることが示された。これらの変数を用いた多変量解析によれば、農作業従事者のQOLを阻害する最も直接的な要素はストレスであり、ストレスを増強させる因子は「作業の要求度」「作業の要素」「ストレス症状の有無」であり、QOLを向上させる要素は「社会的支援」であった。これらの成績より、農作業従事者のQOLを向上させるためには、農作業従事者に比較的保たれている「作業の自由裁量度(コントロール)」を活かしつつ、「作業の要求度」を強める農作業の要素を改善し、「社会的支援」につながる農村地域の様々なネットワーク要素/資源を見直し、それを活用することが有効であることが示唆された。

  • 2004年11月22日(月)第55回 多島圏研究センター研究会
    「ヴァヌアツ共和国のマラリア対策プロジェクト -文化人類学的視点より-」
    白川千尋(新潟大学人文社会・教育科学系)
    16時30分 総合教育研究棟5階

     ヴァヌアツ共和国は、オーストラリアの北東約2,500キロメートルに位置する人口約20万人の島嶼国である。同国はまた世界のマラリア分布帯の最東端に位置しており、マラリアは人々の間で常に保健衛生面における主要な問題の一つとなってきた。約80の島々からなるヴァヌアツでは、島嶼国としての地理的条件などからアクセスに難のある地域が多く、大規模なトップダウン型のマラリア対策活動を行うことが難しい。このため、政府の政策では住民参加型の対策活動を実施することに比重が置かれており、そうした方針の下で、1991年以降、マラリア温床地に暮らす人々に対して殺虫剤を染み込ませた蚊帳を配布し、それを利用してもらうことによってマラリアをコントロールする、というプロジェクトが積極的に推し進められてきた。本発表では、このプロジェクトに焦点を当てて報告を行うとともに、それが抱える問題などについて文化人類学的視点から考察する。

  • 2004年7月10日(土)多島域フォーラム シンポジウム
    「南太平洋における人と自然の”共生”」
    13:00-17:00 鹿児島大学大学院連合農学研究科棟3階会議室

報告1

”Agriculture and the Economics of Pacific Islands Countries: Issues and Challenges”
(太平洋島嶼諸国の農業と経済:課題と取り組み)
REDDY Mahendra(南太平洋大学・鹿児島大学多島圏研究センター)

 本報告は太平洋島嶼国経済の発展において農業部門が果たす役割を概観し、太平洋島嶼経済にとって成長の源泉となりえる主な農業に関して検証し、この源泉の利用という観点から太平洋島嶼国が直面する課題を検討する。グローバル化、そして急速に変化するグローバル経済環境の変化は国内の政策の変化に多大な影響力を持ちつつある。本報告では、太平洋島嶼国の経済がグローバルな変化に対し国レベルで行ってきた対応について検証する。さらに、本報告では島嶼国経済の直面する特有な問題の枠組みを提供する。

報告2

「南太平洋の深海底鉱物資源ポテンシャル」
岡本信行(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構)

 南太平洋諸国は大小多くの島々からなる島嶼国であり、その国土は狭く陸上の資源は限られているが、その排他的経済水域(EEZ)は、多くの離散した島々からなるが上に広大なものであり、太平洋全体の16%を占める。これらの国々にとって海洋、海底は貴重な資源を有し、経済発展を考える上で、これらの利用は不可欠なものといえる。
 1985年以降、日本政府は、SOPAC(南太平洋応用地球科学委員会)及び加盟国の要請に応え、鉱物資源探査専用船「第2白嶺丸」を活用し、南太平洋諸国のEEZ内において、海洋資源調査を実施してきている。その結果、クック諸島海域でのマンガン団塊、マーシャル諸島海域でのコバルト・リッチ・クラスト、フィジー諸島共和国海域での海底熱水鉱床の賦存状況が明らかになりつつある。今回のシンポジウムでは、深海底鉱物資源の概要、その探査方法について紹介するとともに、南太平洋諸国における深海底鉱物資源のポテンシャルについて述べたい。

報告3 「パラオの農業」
高橋敬一(元パラオ農業局)

 パラオ共和国は日本の真南、赤道付近に位置し、火山起源の300以上の海洋島からなる。最大の島バベルダオブ島(屋久島ほどの大きさ)の土壌は強酸性。2万人あまりの人口のほとんどが首都のある小さな島コロール島およびその周辺に集中する。かつての日本の南洋庁所在地。1994年にアメリカより独立したが、現在も様々な面においてアメリカの影響が強く見られる。国家財政は他国の援助に負うところが大きく、主要資源は”国連の一票”。観光、鮮魚の輸出以外の外貨獲得手段はないに等しく、ほとんどの物資は輸入に頼っている。外国資本の参入は厳しく制限され、実現した場合も問題が多い。本来の主食はタロイモで、マンゴーなどの果樹も含めて自家消費用の農業が主体。首都向けの野菜栽培農家も若干ある。首都のスーパーにはアメリカからの輸入農産物、缶詰等が多く見られ、食生活もアメリカ化しつつあり、成人病が大きな問題となってきている。パラオからの農産物の輸出はない。物資の輸入、持ち込みに伴う病害虫の進入は急増しつつあり、その防除は困難を極める。以上、外国資本参入の制限、生活様式の変化、進入病害虫の急増等により、パラオの農業は将来、衰退をたどるものと思われる。

  • 2004年6月21日(月)第51回 多島圏研究センター研究会
    小針 統(鹿児島大学水産学部)
    黒潮海域におけるプランクトン生物量、生産量、群集組成の季節変化

    プランクトンから魚類へ至るエネルギー効率(Ecological efficiency)は、食物網の構造に大きく影響を受けることが知られている。すなわち、食段階の多い食物網では途中でのエネルギー消費が多くなるため、より上位の食段階では利用できるエネルギーが少なくなるからである。これまで、太平洋におけるプランクトン食物網に関する研究は、大型プランクトンが卓越する生産性の高い海域を中心に行われてきたが、小型プランクトンが卓越する亜熱帯海域についてはあまり行われていない。本セミナーでは、黒潮海域におけるプランクトン生物量、生産量、群集組成の調査結果から、亜熱帯海域のプランクトン食物網の特徴について述べたい。
    黒潮海域において、プランクトン生物量には明瞭な季節パターンは認められなかったものの、バクテリア、独立栄養ナノ鞭毛藻、カイアシ類が1年を通して卓越した。植物プランクトン日間生産量は、独立栄養ナノ鞭毛藻によるところが大きく、明瞭な季節パターンを示さなかった。動物プランクトン日間生産量は夏に増加する傾向を示し、バクテリアと従属栄養ナノ鞭毛藻がこれに貢献した。年間生産量は、植物プランクトンで177.0、動物プランクトンで244.3 gC m-2 year-1と推定された。溶存態から粒状態炭素への転換者であるバクテリアを考慮すると、バクテリアの生産量(135.8 gC m-2 year-1)と植物プランクトン生産量の合計(つまり312.8 gC m-2 year-1)が、動物プランクトンが利用できる量となる。黒潮周辺の亜熱帯海域では、ナノプランクトンを介するエネルギーの流れが重要であるかもしれない。

  • 2004年5月24日(月)第50回 多島圏研究センター研究会
    Modelling Poverty Dimensions of Fiji's Urban Informal Sector Operators
    Mahendra Reddy (鹿児島大学多島圏研究センター)

    Growing poverty is a cause of concern for international, regional and local organisations and policy makers. The growth of the urban informal sector resulting from the urbanisation process has also contributed to the rise in urban poverty. The rise in urban informal economy has both beneficial and detrimental effects on the urban formal economy. It has been argued that the urban informal sector plays an important role in poverty alleviation though stark cases of poverty are evident in the urban informal sector. This duality needs to be examined in light of the socio economic factors of the urban informal population. This study utilises primary data from two cities and a town to examine the contribution of the urban informal sector to employment creation and poverty alleviation. The findings reveal a significant positive contribution of the informal sector towards poverty alleviation and income generation. The data is further utilised to examine the household specific factors affecting poverty in the informal sector.

  • 2004年4月12日(月)第49回 多島圏研究センター研究会
    「異常プリオン分解酵素の発見」
    岡 達三(鹿児島大学農学部)

     ラット肝臓から進化的に高度に保存された新規な蛋白質PSPを発見した (Oka et al. J. Biol. Chem. 270, 30060-30067 (1995))。PSPの一次構造は機能未知のYER057c/YJGFファミリーと高い相同性を示し、大腸菌からヒトに至るまで高度に保存されていることが明らかにされた。これらの事実はPSPが細胞内において重要な生理機能を果たしていることを示唆している。一方、ドイツのDr. K. Carugoとの共同研究によってPSPの立体構造を解明した。興味あることにPSPの立体構造や熱耐性であるとかプロテイナーゼKに対する耐性などの化学的性質は異常プリオンタンパク質と酷似していた。PSPを異常プリオンタンパク質のモデルとして用い、プロテアーゼをスクリーニングした結果、ある種の放線菌を培養した上澄み液からPSPを分解する酵素を発見した。本酵素は羊のスクレイピー由来の異常プリオンやヒトのクロイツフェルト・ヤコブ病由来の異常プリオンをも分解した。精製された異常プリオン分解酵素は、分子量約20,000であり、至適pHはアルカリを示した。異常プリオン分解酵素を用いた応用研究についても紹介する。

  • 2004年3月15日(月)第48回 多島圏研究センター研究会
    「ガラパゴス諸島:生物多様性とその保全」
    伊藤秀三 (長崎大学名誉教授)

    ガラパゴス諸島の生物相は,祖先生物起源地からの大きな地理的隔離に原因して非調和である。このことが空白の立地とニッチを産み出し,生物と生態系に島嶼症候群(放散進化,高固有種率,草本の木本化,動物の逃避行動欠如ほか)の刻印を与えた。南東貿易風の雨影効果が群島に特有の植生ゾーネーション構造を作り,それが植物の種分化の背景をなす。
    生物多様性は2つの側面をもつ。1は分類学的多様性(Systematic diversity),2は生態学的多様性(Ecological diversity)である。1については島ごとの種分化(植物:キク科Scalesia 属,サボテン科Opuntia属ほか,動物:ダーウィンフィンチ,マネシツグミ,ヨウガントカゲほか),さらに植生帯に沿った種分化(キク科Scalesia 属,ムラサキ科Tournefortia 属,トウダイグサ科Croton 属)に認められる。 2には,群落の種多様性(アルファ多様性)と群落間の種多様性(ベータ多様性)がある。植物のアルファ多様性は非調和植物相を反映して極端に低く,同等の気候下の大陸島の約半分である。ベータ多様性は,南東貿易風を受ける風上側の南斜面で高く,風下側で低い。
    空白の立地とニッチを埋めるべく進化したScalesia の森林では,極度に低いアルファ多様性を反映して,森林は一斉枯死と一斉再生を繰り返す。  自然生態系は,一部では人の居住/農耕ならびに人が持ち込んだ家畜動物による植生破壊,偶然に持ち込まれた帰化動植物による空白の立地やニッチへの侵入によって脅かされている。1964年と1968年の創設以来,ダーウィン研究所と国立公園管理局は協力して自然保全への取り組みを続けている。

  • 2004年3月1日(月)第47回 多島圏研究センター研究会
    「熱帯雨林の生態:スマトラにおける最近25年間の動態」
    米田健(鹿児島大学・農学部)

    スマトラ島の雨林をこの25年間にわたり観測してきた.数百年の樹齢をもつ雨林の巨木にとって,25年という歳月はさほど長いものではないだろう.しかし,スハルト政権下での四半世紀に森林景観は大きく変化した.抜伐林がもとの状態まで回復することなく,大規模アブラヤシ園へ拓かれることが多い.また新植林・再植林という環境保全を名目に,軽度の択伐林が皆伐され,早成樹の植林へ移行というケースもある.人々の生活は豊かになったように見えるが,不公平感は一層大きくなっているのではないか.新政権下で進められている地方分権化により,森林管理がいっそう乱れた.顕在化しつつある異常乾燥・森林火災などの自然災害が劣化した雨林に一層大きな傷を負わせている.その実態を報告したい.

  • 2004年2月16日(月)第46回 多島圏研究センター研究会
    「フィリピンにおけるキリスト教と民俗世界」
    川田牧人(中京大学・社会学部)

    フィリピンは東南アジア地域にあって唯一のキリスト教国といわれ、国民の八 割以上がローマ・カトリックを信奉している。教会を中心とした典礼や活動だけでな く、日常生活のさまざまな場面にキリスト教が浸透した様態は、「フォーク・カトリ シズム」と称されることもある。しかしこれは、キリスト教が民俗を包摂した様態、 あるいは民俗がキリスト教化したものとしてとらえられる概念であり、一面的でもあ るため、民俗世界からみる必要がある。本発表では、フィリピンのキリスト教化の歴 史を概観した後、教会を中心としつつも民俗レベルでの展開がみられるキリスト教儀 礼、さらに教会とは一見無縁であるような民俗的実践としての呪術信仰などを検討す る。これらの局面から、民俗世界に生きる人々が、必ずしも「フォーク」(個別)と 「カトリシズム」(普遍)との二分法によって、彼らの諸活動を構成しているのでは ない側面があらわれるはずである。これらから、民俗世界における人々の生活そのも のを捉える視点の可能性を考察する。

  • 2004年1月26日(月)第45回 多島圏研究センター研究会
    「日本国内における太平洋〜小笠原村の島々とその振興課題〜」
    長嶋俊介(鹿児島大学 多島圏研究センター)

    奄美群島返還50周年に対し、小笠原は返還35周年を迎えた。多島圏研究センターの 英文名称の対象域として、厳密な意味での太平洋島嶼the Pacific Islands は、どこを指すのであろうか。その純粋コアの一つは紛れもなく、小笠原の島々で ある。とりわけ、奄美・沖縄との比較研究のためにも、研究連携が必要な地域である。@亜熱帯研究は、国内 に於いては、このトライアングルが全域を支配する。その広がりと研究体制のあり方。A地理的・生物差違としての「洋島性」と東 洋のガラパゴス性(奄美もそう呼ばれている)について、B歴史的・文化的相違としての、定住由来から多民族・人種性。ミクロネシア との直接間接的関係。C産業史的な取り組みの類似性と差違(栽培植物・市場・産業基盤、とりわけ西洋野菜・観葉植物・甘蔗・硫黄・ 羽毛)、エコツーリズム及びエコアイランド戦略。D戦跡地 としての重みと位置づけ。とりわけ、中硫黄島と父島の実態と将来的利用。E国家 戦略的な位置づけ、国境性・領海性・排他的経済水域。広域海面の管理と利用の展望。F地域振興の方向性(国家次元・国 民需要次元・島民振興次元)。それらの次元での問題点と、調整から見える政策的展望と可能性。・・・これらに関して、2003年10月 の南北・中硫黄島を含む最新情報も織り交ぜながら、比較論的考察を行う。






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