国際島嶼教育研究センター
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研究会などの記録 
2003年(多島研)

  • 2003年12月13日(土)13:00- 多島域フォーラム・シンポジウム
    「東南アジアにおけるイスラームの現在」
    13:00-17:00

    東南アジアには、インドネシア、マレーシア、フィリピンといった島嶼部を中心におよそ2億人のイスラーム信徒(ムスリム)が住んでいます。これは全世界のムスリム人口の17%にあたる数です。おりしも2001年の同時多発テロ事件に始まるアフガニスタン侵攻、イラク戦争という一連の流れの中で、日本でもイスラームに対する関心が高まっていますが、それは、しばしば中東に限定された、しかもテロリズムという極限的な行為を念頭においたイスラーム理解となっている懸念があります。このような偏った理解のバランスを取るためにも、多島圏研究センターでは、多島域フォーラムの一環として、学外から3名の専門家を迎えた今回のシンポジウムを企画しました。

    • マレーシアにおけるイスラームの「制度化」―イスラーム教義と現代的価値との「整合」をめぐって―
      多和田裕司(大阪市立大学大学院文学研究科)

      【要旨】ひとりひとりのムスリムはイスラーム教義を信奉し、それにしたがって生きることに絶対的な価値を見いだしている。しかし現代社会にあっては、現実的にはムスリムを含めたすべての人間が近代国民国家の諸制度のもとで暮らしているのであり、近代国家として「普遍的に」共有される価値(民主主義、男女の平等、政教分離など)を否定することはできない。
      本発表においては、マレーシアにおけるイスラームの法的、制度的側面に焦点をあわせることによって、イスラーム教義と現代的価値との「整合」がどのようにはかられているのかについて検討する。とくに多宗教、多文化の共存が実現され、政治的、経済的、社会的安定が達成されたマレーシア・イスラームの事例は、これからのイスラーム社会のありかたを考える上で格好の手がかりを与えてくれよう。

    • 〈正しい〉宗教のポリティクス―マレーシア・サバ州海サマ人のイスラーム化―
      長津一史(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)

      【要旨】本報告では、マレーシア・サバ州に居住する海サマ人のイスラーム化について考察する。対象とするのはサバ州東岸センポルナ郡の海サマ人である。ここでのイスラーム化は、かれらが地域社会でムスリムとしての認知を獲得していく過程を含む。報告は、かれらのイスラーム化の歴史過程を、マレーシア全体からサバ州、センポルナ郡にいたるそれぞれのレベルでの、イスラームをめぐる政治的、社会的文脈をふまえて理解することを目的とする。
      近年、東南アジア島嶼部のイスラームに関する人類学的研究においては、マクロな政治的、社会的文脈を視野にいれて、イスラームを動態的に把握しようとする試みが盛んにおこなわれている。本報告では、そうした研究と問題関心と接近法を共有しつつ、主に公的宗教機関によって制度化された、つまり公的なイスラーム行政・教育との関係において、海サマ人のイスラーム化を考えてみたい。

    • インドネシアにおけるイスラームのベクトル
      小林寧子(南山大学外国語学部)

      【要旨】近年イスラームの多様性が知られるようになってきた。イスラーム社会はそれぞれ地域色彩を帯びながら発展しているが、同時にグローバルな性格も失うことはなく、しかも、常に国際的な動きと連動している。同様に、ひとつの社会にもいくつもの方向、大小の磁力を有した運動が展開している。このような多様性を生み出す要因は複合的である。
      穏健派が多数派を占めるインドネシアのイスラーム社会にも、常に急進派は存在する。両者はどこが分岐点になっているのか、その歴史的経緯と、政治社会的要因をさぐり、今後の動きを展望してみたい。

    • コメント
      桑原季雄(鹿児島大学法文学部)
  • 2003年11月15日(土)多島域フォーラム・公開講座
    タラソテラピー(海洋療法)

    1.国内におけるタラソテラピーへの取り組み
      野田伸一 (鹿児島大学多島圏研究センター)
     現在ヨーロッパを中心としてタラソテラピー施設が建設されている。タラソテラピー施設はリゾート型、シークリニック型、健康増進型、都市型、およびこれらの複合型に分けることができる。なかでも健康増進を目的としたものは日本独特の考え方で、最近大規模な施設が建設され始めている。多くの離島を有する鹿児島県にもタラソテラピー施設の立地条件が整っていると考えられる。本年4月には、沖縄宜野座村に「かんなラタソ沖縄」が住民の健康増進さらに地域活性化へ貢献する施設としてオープンした。この施設の視察と体験を中心に、国内の施設の状況について紹介する。

    2.医学からみたタラソテラピー
      安部 智(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科国際島嶼医療学) 
    タラソテラピーの効能については多くのことが言われてはいるが、まだその医学的根拠は十分には確立されていない。しかし、高度化・複雑化した現代社会での心身の健康増進や健康回復に、代替医療のひとつとして自然を利用したタラソテラピーを導入するための医学的研究が注目を集めている。医師の監督のもとで、海の環境に恵まれた立地で、海洋気候、海水、海泥、海藻、砂、海から取り出したその他の物質など、海洋環境のさまざまな恵みを活用する試みが行われている。海洋環境に恵まれた鹿児島はタラソテラピーに適した条件を備えており、昨年、鹿児島タラソテラピー研究会が発足した。タラソテラピーの医学的な根拠と現時点での医学的評価、鹿児島タラソテラピー研究会の活動を踏まえたタラソテラピーの今後の展望について考えてみたい。

  • 2003年10月27日(月)第44回 多島圏研究センター研究会
    James P. Terry(多島圏研究センター客員)
    「Climatic hazards in the Fiji Islands」
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] This presentation describes how small island nations in the South Pacific Ocean are vulnerable to the effects of two types of extreme climatic events - tropical cyclones and droughts. Such events are often associated with the ElNino Southern Oscillation phenomenon (ENSO), but operate on different time scales. Tropical cyclones form quickly and are short-lived and intense, whereas droughts develop slowly but may last many months.
    Within the island nation of Fiji, different types of islands -such as steep volcanic islands, raised limestone islands and low sandy coral reef islands- suffer a range of contrasting environmental impacts resulting from tropical cyclone and drought events. Recent droughts are linked to depletion of water resources, wildfires, outbreaks of pests and diseases, stress on natural ecosystems, and damage to agriculture. In comparison, tropical cyclones illustrate the problems of storm surges and coastal inundation, large waves and beach erosion, destruction of coral reefs, torrential rainfall, dangerous river floods, landslides and soil erosion. All of these impacts cause human hardship, especially for the poor, and place difficult economic burdens on small island states with limited resources.
    Climate scientists now predict that South Pacific regional climates will experience more frequent or sustained ElNino-like conditions in future, owing to global atmospheric and ocean warming. The implications include the potential for increased tropical cyclone intensities, greater cyclone numbers, changes to spatial patterns of storm origins, and farther poleward travel after vortex formation. Similarly, more episodes of prolonged rainfall failure may be felt if strong ElNinos become more common. Scientific investigation of climatic extremes is therefore important for developing and implementing appropriate climate change adaptation techniques for South Pacific island nations like Fiji.

  • 2003年9月22日(月)第43回 多島圏研究センター研究会
    青山 亨(多島圏研究センター)
    「14世紀ジャワの年代記に見る古代東南アジアの王権―王・儀礼・海域世界―」
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] 紀元後第一千年紀の初めに東南アジアにはインド的原理に基づく王国が多数出現した。これらの王国には、インド系文字の使用、サンスクリットからの語彙借用、インド起源の暦の導入、ヒンドゥー教および大乗仏教の隆盛といった「インド化」の特徴が共通して見られる。インド化した古代東南アジアの王権については、ハイネ=ゲルデルンの古典的な王権論やその流れをついだギアツの劇場国家論、さらには大小の政治中心の流動的な階層的関係を説いたタンバイアの銀河政体論などが提出されている。しかしながら、王国の状況を当事者の側から記述した史料はけっして多くはない。この意味で、14世紀にジャワの王国マジャパヒトの宮廷詩人が書いた王朝年代記にして風土記である『デーシャワルナナ』は、王宮側の視点から王国の状況を描いた数少ない現地史料として重要である。本報告では、年代記の中に記述された王宮の恒例儀礼を分析することによって、ジャワ世界の中心にあって王が宮廷儀礼の中で担っていた機能を明らかにするとともに、年代記の記述とジャワ外部の史料を比較参照することによって、王宮中心の視点に内在する限界を明らかにし、16世紀におけるマジャパヒトの没落の遠因を論じる。

  • 2003年7月28日(月)第2回 与論勉強会
    麓 才良(与論町文化財保護審議委員会委員長)「与論の歴史と文化財」
    古川誠二(医療法人誠友会理事長)「離島医療から離島で癒す医療へ」
    池田 勝(与論町漁業協同組合組合長)「与論の水産業」
    15時-17時 総合教育研究棟201講義室
  • 2003年7月14日(月)第42回 多島圏研究センター研究会
    細 谷 章 夫(鹿児島県立短大・名誉教授)
    「カント研究から南の島々に魅せられて」
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] 前半は私の専門のカント哲学の話をし、後半は新カリキュラム実施により、南の島々の調査に参加することになった経由、およびその映像をお見せいたします。  カント哲学に関しましては、哲学の一般的な研究の傾向、カント哲学の特徴的な側面(・科学的な基礎にもとづいた新しい形而上学の追求、そのために認識論、あるいは科学論という分野への道を開いたこと、・その結果、私たちの知識のうちにア・プリオリなものが存在するとのカントの主張、その1つの例として「因果法則」によって、ア・プリオリな意味の説明をします。・ニュートン力学のカントへの影響など)と非ユークリッド幾何学の出現にみられるようなカント哲学では説明しきれない問題についてお話します。  当研究所の前身「南海研」のグループに入れていただき、1995年のパラオ調査に参加しました。そのときのVTR(マングローブ、カヤンゲル島)、それ以外に個人で調査したときのVTR(インドネシアの人形劇、チュアンジュラン[スンダ地方の唄])などをお見せしたいと思います。

  • 2003年6月23日(月)第1回 与論勉強会
    河合 渓(鹿児島大学・多島研)「与論の海」
    冨永茂人(鹿児島大学・農学部)「与論の農業」
    桑原季雄(鹿児島大学・法文学部)「与論の文化」
    15時-17時 総合教育研究棟5階ホール

    薩南諸島の南端、与論島についてのインフォーマルな勉強会
    多島研の研究プロジェクト「離島の自律的発展のための学際的研究」参加者がそれぞれの視点から与論について語ります

  • 2003年6月16日(月)第41回 多島圏研究センター研究会
    Andrew Tupper(鹿児島大学・教育学部
    Challenges for volcanic cloud monitoring in the western Pacific
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] Over the past 21 years, many dangerous encounters between passenger aircraft and volcanic ash clouds have occurred. Volcanic ash can stop aircraft engines during flight, and causes extensive damage to windows, wings, and other surfaces of the aircraft.
    During the 1990s, an international network was developed to warn for volcanic ash clouds. The network, the International Airways Volcano Watch, is based around the national meteorological and aviation agencies, with nine centres around the world serving as central locations for making forecasts of ash cloud movement. The western Pacific is covered by centres in Australia, New Zealand, the U.S.A. and Japan.
    In the Pacific, most countries do not have enough resources for volcanic monitoring. Parts of the tropical Pacific are not only among the most volcanologically active in the world, but are also the most meteorologically active, with very high sea surface temperatures contributing to deep tropical moisture and daily thunderstorms. The available moisture in the tropics makes volcanic clouds higher and also more difficult to detect with remote sensing than in the mid-latitudes.
    Kagoshima is an ideal place to practise volcanic cloud observation techniques, and to learn about volcanic cloud / atmosphere interactions. The lessons learned in Kagoshima can be applied for countries throughout the tropical Pacific and Indian Oceans.

  • 2003年5月19日(月)第40回 多島圏研究センター研究会
    落合雪野(鹿児島大学・総合研究博物館
    暮らしのなかの有用植物−東南アジア島嶼部におけるジュズダマ属の事例から−
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] ジュズダマ属(Coix、イネ科)は、薬用や装飾用に使われるジュズダマのなかまや、穀類のハトムギが含まれる、人とのかかわりの深い植物群である。その分布域はインドや東南アジア大陸部を中心に、世界の熱帯、亜熱帯に広がっているが、なかでも多くの種類が特徴的な方法で利用されている地域として、東南アジア大陸部とニューギニア島が注目される。
    それでは両地域の間に位置する東南アジア島嶼部では、ジュズダマ属植物がどのように利用されているのだろうか。本講演では、さく葉標本調査やフィールドワークをもとに、東南アジア東部島嶼域の人々の日常生活におけるジュズダマ属植物の役割について、民族植物学の視点から報告する。

  • 2003年4月21日(月)第39回 多島圏研究センター研究会
    寺田竜太(鹿児島大学・水産学部資源育成科学講座
    真夏にも生育している種子島の海苔の生態
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] 紅藻アマノリ属は,日本各地で採取や養殖がおこなわれている有用海藻である。本属は,一般に初冬から春の間のみ生育し,冬の海苔養殖は日本の風物詩となっているが,近年は夏から秋の高水温の影響で養殖開始時期が遅れており,高水温耐性種の策出等が求められている。タネガシマアマノリPorphyra tanegashimensis Shinmuraは,日本で唯一の熱帯性アマノリだが,原記載以後の存在や生態の詳細については明らかになっていなかった。今回は,通常の海苔ではありえない「真夏にも生えている」本種の個体群動態を紹介し,夏季の高水温にも個体群が維持される要因と他の熱帯性アマノリ属との分類,島嶼域有用資源としての本種の利用や保全についての展望について論じる。

  • 2003年3月3日(月)第38回 多島圏研究センター研究会
    北野元生(鹿児島大学・歯学部口腔病理学講座
    「化学発がんの感受性を左右する遺伝要因について
    −ラット舌がんモデルでの解析−」
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] Dark-Agouti (DA) 系ラットは 4-nitroquinoline 1-oxide (4NQO)-誘発舌がんに対 して高感受性を示し、反対にWistar /Furth (WF) 系ラットは感受性が極めて低い。 この両系ラットの4NQO誘発舌がんを化学発がんのモデルとして、遺伝要因を解明する 目的で simple sequence repeat length polymorphism解析(QTL解析)を行った。ま ず両系のラットを交配して130匹のF2ラットを作成し、発がん実験を行った。発生し た舌がんの大きさと数を指標として、PCR法を応用したQTL解析を行ったところ、5つ のQTLsが舌癌発生に重要に関わってくることが分かった。ほかにも弱い関与が疑われ る3つのOTLsを認めた。舌がん発生についても、ほかの部位のがんと同様に、多くの 遺伝子が錯綜して関与しているものと理解される。

  • 2003年2月17日(月)第37回 多島圏研究センター研究会
    土田充義(鹿児島大学・工学部)
    「神々の住まい」
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] 神の住まいを神社本殿と称し、その本殿形式は種々様々である。最も有名な伊勢神宮本殿は棟を地面に立てた2本の柱で持たせ、これを棟持柱といい、内部は広々とした一室住まいである。住吉大社本殿は前室・後室からなる二室住まいで、宇佐神宮本殿は内院と外院を連続させた三室住まいである。巨大さを誇る出雲大社本殿は中央に心御柱を立てた四室住まいである。一室住まいから二室へ、更に三室、四室へとは繋がらず、いったん本殿形式が成立するとそのまま現在まで、踏襲されている。それらは神々の独自の住まいといえる。そのうち三室住まいの宇佐八幡宮本殿の成立要因を探ってみたい。本殿は屋根二つを前後に並べ、前方を外院といい、後方を内院と称し、樋の間で両者を繋ぐ。内院には薦で作った枕のご身体があり、外院には椅子が置かれている。このことから神は昼間外院に出られ、夜は内院で休むことが想像できる。この想像の是非を皆さんに判断していただくことが主旨である

  • 2003年1月20日(月)第36回 多島圏研究センター研究会
    Biman Prasad(鹿児島大学・多島研)
    「Economic Problems and Prospects of the Fiji Islands」
    16時30分 総合教育研究棟201講義室

    [要旨] Fiji has undergone significant political problems since 1987 and its economic performance over the last decade has been very poor. Fiji radically changed it economic policies after the military coups of 1987 and embraced market-led reforms. As part of these programs, it moved towards deregulation of the economy and adopted export-oriented growth policies. Since 1987, more emphasis has been placed on expanding the urban-based manufacturing sector. As part of this attempt, numerous incentives packages such as tax holidays have been provided to potential investors. For example, the garment industry grew significantly because of these tax concessions and forms a significant portion of the manufacturing sector. While the fundamentals were improving, the political problems because of the attempted coup in 2000 once again thwarted the growth potential of the economy. While Fiji has recovered from the political instability of 2000, significant structural problems remain in the economy. While the contribution of the agricultural sector to the GDP has declined significantly, that of the manufacturing sector has only increased slightly since 1990. The current growth in the economy is led by tourism, but other the significant sectors such, as the sugar industry and the manufacturing sector are not doing well. Furthermore, the level of investment is low, equivalent to about 10 percent of the GDP. Export growth has been poor, while other problems such as rising levels of government debt are a cause for concern. The poor economic performance has contributed to increasing levels of poverty and unemployment and urbanization in the last decade. The seminar provides an update on Fijiユs current economic problems and prospects and suggests some policy recommendation for the future. First, Fiji needs to attract more private sector investment and second, it has to address the fundamental problem of political instability and adopt more efficient institutions to support the economic growth potential of the economy.






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