国際島嶼教育研究センター
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シンポジウム「有孔虫からみた環境と古環境」 
Foraminifera as indicators of marine environments in the present and past

シンポジウム「有孔虫からみた環境と古環境」
Foraminifera as indicators of marine environments in the present and past

期日:1998年2月28日(土)(13時-17時)
場所:鹿児島大学稲盛会館
主催:鹿児島大学南太平洋海域研究センター
〒890 鹿児島市郡元1-21-24 電話(099)285-7394

主旨:現生有孔虫の研究と化石有孔虫の研究を通して,現在の環境を過去からの継続及び地史的な変化の上に捉え,現在の環境と有孔虫との関係を明らかにして環境を考える資料を提供する(企画:鹿児島大学 八田明夫)

挨拶:鹿児島大学 学長 田中弘允
講演:
北里 洋:静岡大学理学部生物地球環境科学科 地球生物圏進化学教室
Johann HOHENEGGER:Institute of Palaeontology, Vienna University
八田明夫:鹿児島大学教育学部理科教育教室
尾田太良:熊本大学理学部地球科学科 地球環境システム学教室
野村律夫:島根大学教育学部地学教室
大木公彦:鹿児島大学理学部地球環境科学科 地質科学教室
挨拶:鹿児島大学 南太平洋海域研究センター センター長 井上晃男

1. 有孔虫はなぜ環境や古環境の指標として使えるのか? 北里 洋
Why does Foraminifera act as useful proxies for modern and ancient marine environments ? (Hirosi KITAZATO)
 有孔虫は現在あるいは過去の海洋環境の指標としてよく用いられる生物である.有孔虫のどのような特性が環境に相関しているのだろうか?種の分布がある特定の環境要素に対応しているのだろうか?また,ある環境によって発現する形態的な特徴があって,それが環境復元の際に役に立つのだろうか?このような,有孔虫と環境との相関を考えるときに,環境を制御した飼育実験が有用なアプローチとなる.
 私たちの研究室では,有孔虫の殻形態が示す意味を理解するために,温度・塩分・溶存酸素量・餌・光量などの環境要素を制御した飼育実験を行っている.実験の結果,有孔虫の殻形態には環境要素と強い相関を持って変異が現れる形質があることが明らかになってきた.これが,有孔虫が環境の指標として使える主な理由である.講演では,飼育実験の経過とその結果を示し,有孔虫の殻形態を遺伝的な要素と環境に左右されやすい要素とに分解することを試みる.

2. Larger Foraminifera - microscopical greenhouses indicating shallow water tropical and subtropical environments in the present and past
JOHANN HOHENEGGER, Universitaet Wien, Oesterreich (Austria)
 Larger Foraminifera with test sizes from 2mm up to 13cm arecharacteristic organisms inhabiting shallow water subtropical and tropical environments today. They prefer clear, nutrition depleted water as can be found in the surroundings of coral reefs. Two main factors acting as single gradients regulate the distributions of larger foraminifers within coral reef complexes. All living larger Foraminifera house symbiotic microalgae and are thus restricted to the photic zone (down to 150m), getting independence from food resources outside the cell in various degrees. Differences in water movement, mostly correlated with substrate type, and light availability are managed in various ways. Test constructions in combination with attachment mechanisms of the protoplasm combat strong water movement, while light penetration is handled by test ultrastructure. Larger foraminifers inhabiting intertidal and extremely shallow subtidal environments block high irradiation by thicker tests or porcelaneous structures, making the walls impenetrable. In contrast, species living near the base of the photic zone facilitate light penetration by thin transparent test walls facilitating light penetration and by developing light-collecting mechanisms such as nodes and pillars. Water turbulence, often extreme in coral reef environments, is handled in different ways, but is restricted to a few paradigmatic test forms. Similar tests were developed in various phylogenetic lines at different climatic climaxes during earth history starting from the Late Paleozoic (325,000,000 years ago) This can be interpreted as analogous developments in handling the main environmental gradients light penetration and water energy.

3. 西太平洋における浮遊性有孔虫の分布と日周期運動 八田明夫
Distribution and daily migration of planktic Foraminifera in the West Pacific (Akio HATTA)
 化石有孔虫から古環境を推定するためには,現生有孔虫を採取し,その生息環境を明かにして化石有孔虫の持つ情報を把握しなければならない.そのために現生の浮遊性有孔虫がどのような海域に分布しているのか,どのような深度や温度の海域にいるのかを調べた.200mまでの深度を4層準に分けて浮遊性有孔虫を採取した.西太平洋における浮遊性有孔虫の種類別の地理的分布と日周運動を明かにして,これまでに知られている他の海域の浮遊性有孔虫と比較した.
 その結果 Globorotalia tumida や Globorotalia menarudii や Pulleniatina obliqueroqulata などの熱帯海域に多い種類や,温帯海域に多い Globigerinoides ruber , Globigerinoides sacculifer, Globigerinoides oblicquus, Globigerinitaglutinata, Globigerina rubescensなどの分布の違いも明かとなった.また,浮遊性有孔虫の日周運動でも他の小動物のそれと違う動きが認められた.これは二酸化炭素の動態を考察するうえで重要な要素になると考えられる.

4. 海洋古環境の復元をめざして―浮遊性有孔虫からのアプローチ― 尾田太良
Reconstruction of marine environments in the past - planktic foraminiferal approach (Motoyoshi ODA)
 古環境解明のため深海堆積物の分析,デー 夕の解析と解釈に関して, 従来より様々な方法が試されてきた.その中でも,lmbrie and Kipp(1971)による浮遊性有孔虫による主因子分析により水温に相関の高い種を抽出し,それをもとに重回帰分析による変換関数(transferfunction)は,現在までかなりの評価を得ている(CLIMAP,1976).
 この方法は,石灰質ナンノプランクトンや放散虫・珪藻にも適用されている.しかしながら,大西洋や大平洋などの海域の地域性の問題などから,各海域での確立が必要である.また,プランクトンの成育は緯度や四季によってその生産性が変動する.海洋古環境のより正確な復元を行っていく上で,どのくらいの割合で各季節の情報が堆積物に記録されるのか,浮遊性有孔虫フラックスと海洋古環境要因の関係などを把握する必要がある.現在セヂメントトラップなどを用いた海洋古環境のための基礎的な資料が蓄積されつつある.今回,以上の事の現状と黒潮海域での最終氷期以降の海洋古環境の復元について述べる.

5. 新生代地球環境の変遷と有孔虫 野村律夫
Cenozoic environmental changes of the earth and fossil Foraminifera (Rituo NOMURA)
 哺乳類の時代ともいわれる新生代は,現在の地球環境の形成を理解するうえで極めて重要な時代にあたる.そのメカニズムの解明には海洋に生息する有孔虫の群集解析や有孔虫の殻の酸素・炭素の同位体分析が有効である.有孔虫群集が記録する主要な古海洋イベント,すなわち地球環境の変化には次のようなものがある.(1)暁新世末の底生有孔虫の絶滅イベント,(2)始新世中期から後期の浮遊性・底生群集の段階的な変化,(3)初期漸新世の浮遊性群集の爆発的発展,(4)初期中新世末期から中期中新世初期の底生・浮遊性群集の漸次的絶滅と発展,(5)後期中新世の現世型生物群集の発展.進化である.
これらのイベントは,海洋‐大陸(山脈・高原の上昇)‐大気の複雑な相互作用の中で起こっており,テーチス海の消滅,南極氷床の発達,グローバルな深層循環と表層水における生産性の変化,大陸分布,ヒマヤラ‐チベットの上昇,大気中のCO2のような温室効果ガスの存在量の変動がキーワードになる.

6. 鹿児島市は冷たい海の底だった―底生有孔虫化石から読み取れる氷河期の証拠 大木公彦
Kagoshima under cold sea water told by fossil Foraminifera (Kimihiko OOKI)
 鹿児島市吉野町琉球人松の崖に海成堆積物から成る城山層が露出している.下部の泥層には40cm前後の大きなカキ(Ostrea gigas)の化石が林立してカキ堆(oyster bank)を形成している.このカキは,現在,北海道のサロマ湖(海とつながっている)と厚岸湾に生息している.そこで,この泥層から花粉の化石を抽出したところ,松・杉のほかにトウヒ・モミ・ツガなどの寒い地域の植物が多く含まれていた.さらに,底生有孔虫化石を調べた結果,内湾浅海域の指標であるAmmonia tepidaと,浅い冷水塊に生息するBuccella frigidaの2種が群集の大半を占めていた.
 これらの化石から,城山層下部層は,今の鹿児島よりはるかに寒い時期の内湾浅海域に堆積したと考えられる.上部層から温帯の貝化石が産出しており,城山層は気候が寒冷から温暖に変わる頃,つまり氷河期から間氷期へ至る海進時期の堆積物であることが分かる.この層が堆積した年代は,上下の地層から30〜10万年まえと考えられ,ミンデル氷河期からミンデル-リス間氷期,あるいはリス氷河期からリス-ウルム間氷期への移行期に堆積した可能性が強い.
 いずれの氷河期にせよ,城山層の堆積当時の海は現在の海水準より50〜100mほど低かったと考えられている.現在,この地層が標高50m付近に分布していることから,吉野台地は100m以上も隆起したことになる.

連絡先:Akio HATTA, Kagoshima University
Tel: 0992-85-7805, E-MAIL: hatta@rikei.edu.kagoshima-u.ac.jp





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