国際島嶼教育研究センター
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市民公開講座
『環境変動に伴う島の生物と人の健康―現状と将来―』
平成25年12月14日(土) 13:30-16:30
場所:鹿児島大学共通教育3号棟311教室
参加費:無料

案内ページ  ・当日の様子


 平成25年12月14日(土)に鹿児島大学国際島嶼教育研究センター主催で鹿児島大学市民公開講座『環境変動に伴う島の生物と人の健康―現状と将来―』が開催されました。


●趣旨
 生物や人の暮らしと病気は環境の変動に応じて、ダイナミックに変化してきた。環境変動を受けやすい島は、その影響を考える上で格好のモデルといえる。
 本市民公開講座では、環境変動に伴う植物、動物、寄生虫、人の暮らしと病気の現状を鹿児島県離島フィールドで実際に調査を行っているそれぞれの専門家に整理してもらい、どのような原因でどのような変化が起こっているか、また、その変化に伴う問題について明らかにする。これらを踏まえた上で、今後の課題と対応についてシンポジウム形式で検討する。環境変動の影響を受けやすく、その結果が目に見えやすい形で現れる島での事例をモデルとして検討することにより、環境変動に伴い、すでに日本全体で起きている、また、将来に起きる可能性のある事象に対し示唆に富む情報を提供したい。


●プログラム

13:30 開会

13:35 「人の活動の変化がもたらした島嶼の植生変化−里地・里山は今−」
     ●寺田仁志(鹿児島県立博物館)


  • 【要旨】
      日本の人口は縄文時代早期に推計で2万人だったが、現在は1億3000万人まで膨れている。しかし、昭和30年代から産業構造の変化、都市への人口流出等のため、島嶼部を含む遠隔地では過疎化が進んだ。里山の資源に頼ってきた主要産業の農林業が衰退し、産業形態を変えたため、自然環境の基本となる植生は変化してきた。すなわち里山のうち原野は植生遷移がすすんで消失し、薪山は自然林に近い二次林となり、竹山は暴走拡大してしまった。また、農業の効率的経営のため、起伏のあった耕作地周辺は平準化されて畦を失い、すき間環境にいた生きものは棲みにくくなっている。さらに、河辺は埋め立てられ湿地が減少し、海岸部は海岸侵食によってえぐられ海岸植生は変化している。


14:05 「気候変動と鹿児島県の動物事象−ヤクシカとマングースから見る積雪寒冷
     イベントの発生頻度とその機能について−」
     ●塩谷克典(鹿児島県環境技術協会)


  • 【要旨】
      外来種である鹿児島市喜入地区のフイリマングース個体群については、2009年に増加傾向が顕在化して、地域の生態系保全を危うくすると危惧されたが、鹿児島県の捕獲事業により個体数は極小化された可能性が高いものと考えられる。極小化の過程を検証すると、予想以上に増加率が高くならなかったことが示唆された。喜入地区の個体群が、低い増加率で留まっていた要因については、1)競争種の存在、2)天敵の存在、3)人工林を含めた植生構造、4)鹿児島地溝による地形、5)餌生物の四季を通しての生産の低さなどが考えられるが、それらに加え、無霜地帯に訪れる寒冷イベント(=「低温で雪の多い冬」)が影響した可能性がある。これらは全て、同じく外来個体群が広がった奄美大島や沖縄本島には存在しない環境要因である。
      屋久島に生息するヤクシカについては、現在、現地の植生や希少植物への影響が危惧されるほど増加している状況にある。鹿児島県により特定計画が設定され、屋久島町・地元猟友会、林野庁等の努力により捕獲が進められると同時に、環境省、鹿児島県により密度の変化ついてのモニタリングが行われている。密度パターンの解析では、温暖な地域の多い本県において、数十年間隔で到来する寒冷イベントのヤクシカへの直接的な影響については依然として未解明な部分が多い。近年になってなぜ、ヤクシカの個体群が極端な植生への影響を引き起こすほど増加し、なぜ、過去にそれが生じていなかったかということについて検証すべきである。
      以上の事例を元に、外来種も含めた様々な生物の侵入、定着、増加において、気候変動影響に加え、過去と異なる狩猟圧や地域に特有の環境構造の変化なども加わり、これまでと異なる変化に留意する必要性について述べる。


14:35 「温暖化が問題になる前の寄生虫病の状況」
     ●野田伸一(鹿児島大学国際島嶼教育研究センター)


  • 【要旨】
      地球温暖化に伴ってマラリアなどの熱帯病が日本でも発生することが危惧されている。主な理由は、温暖化に伴ってマラリアを媒介する蚊の発生する個体数が増加し、発生範囲も広がることである。1934年〜1938年の全国のマラリア患者数を見ると、鹿児島県は北海道よりも患者数が少なく、患者発生が多いのは福井県や滋賀県であった。日本でマラリア患者が減少した経過と理由について考察する。鹿児島県で流行していたフィラリア症の経過についても考察する。


15:05 「生活環境に伴い習慣が変わり、病気が変わる」
     ●嶽崎俊郎(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)


  • 【要旨】
      鹿児島県のあまみ島嶼地域は長寿者の割合が多い地域です。一方、同地域における平均寿命は必ずしも長くなく、最近10年間の死亡率を年齢群ごとに比較してみると、40〜64歳の中年男性の死亡率は日本人平均の1.5倍もあります。一方、65歳以上の女性高齢者の死亡率は日本人平均の約0.9倍と低い値を示しています。ここ20年の変化をみても、中年男性では上昇しています。
      なぜ、あまみ島嶼地域で中年男性の死亡率がこんなに高くなったのでしょうか。答えは生活環境の変化にあると考えられます。交通の発達に伴い、本土から食材が容易に入るようになり、食生活が豊かになると同時に、高カロリー・高脂肪食に接する機会が増えました。道路の整備や農業の機械化に伴い、便利になると同時に運動量も減りました。
      私達が平成17年から開始している「あまみの生活習慣病予防と長寿に関する研究」結果によると、あまみ地域における肥満者の割合は日本人平均の2倍になっています。また、健診受診者においては、血液中のコレステロール値が高い人の割合が急増しています。
      島は環境変動の影響を受けやすい特徴があります。環境とともに人の生活も急激に変化してきている今、病気ではなく、健康に結びつける変化が求められていると言えます。


15:35 休憩

15:45 質疑応答



●当日の様子
寺田仁志先生
塩谷克典先生
野田伸一先生
嶽崎俊郎先生
会場からの質問 総合討論



●問い合わせ先
鹿児島大学国際島嶼教育研究センター  〒890-8580 鹿児島市郡元1-21-24
電話099-285-7394  FAX099-285-6197  E-mail: shimaken@cpi.kagoshima-u.ac.jp

案内ポスター(pdf




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